HosCom 2024 vol.21 no.2
地域連携
地域中核病院における感染対策地域連携:感染対策支援も含めた取り組み
- 宮良 高維
- 神戸大学医学部附属病院 感染制御部長/教授
※本記事は、「HosCom 2024 vol.21 no.2(2024年7月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに
私たち、病院の院内感染対策チーム(ICT:InfectionControl Team)が目指す基本目標は「患者さんに早く安全に治って退院いただく!」ことだと思います。そしてこの点は、医療安全の担当者とも共通しています。一方ICTは、この基本目標の院内感染に関連する部分を達成するために、①院内感染を発生させない、②院内感染が発生した場合でも早い段階で検知し、速やかに収束させることを具体的な目標としています。そして、これらの具体的目標達成のためにICTが取り組む実務は、(a)自施設の感染対策に関連する管理指標の監視、(b)感染対策研修による職員の意識や技能の向上、(c)院内環境の整備、そして(d)感染対策マニュアルを含む院内ルールの整備などです。地域の中核的医療機関のICTは、自施設よりも小規模でマンパワーの少ない連携施設においても、感染対策業務を遂行可能なように工夫や助言によって支援することが求められています。本項では、その進め方の具体例を紹介いたします。
1. 感染対策業務に関する地域連携施設への支援
(1)院内感染対策を実施するための数値指標
院内感染対策の管理業務では、自施設の状態を知るために感染対策に関連する数値指標の監視が必要です。施設の現状を改善するためには、まず初めに現状を計測し、数値で客観的に把握している必要があります。そして、このような数値指標を日頃から監視していなければ、自施設の状態が良くなっているのか、悪くなっているのかの推移を把握することも出来ませんし、他施設と比較して自施設が良い状態なのか悪い状態なのかもわかりません。また、数値に変動があった場合には対策を講じなければならない場合もあります。
(2)院内感染対策に関する各数値指標の意味とその可視化
感染対策に関する数値指標の例としては、「施設の月毎のMRSA新規検出率」がありますが、これは「その施設内でMRSAに感染するリスク」の指標でもあります。高い場合は、他者へMRSAを伝播する確率も高くなると考える必要があります。また、MRSA感染リスクの低減に役立つ指標、例えば「1患者・1日あたりの手指衛生回数」は、感染防止対策に取り組む職員の意識や、実際の感染対策行動の間接的指標です。これらを可視化する、つまり誰にでもわかり易くグラフなどで示すことは、ICTが現状を把握するためにも必要ですし、院内全体に状況を伝達(リスクコミュニケーション)して職員の協力を得るためにも必要です。また、他施設と自施設を比較する場合にも必要となります。
(3)データカンファレンスの準備
感染対策地域連携合同カンファレンスの実施要件であるデータカンファレンスは、必ず実施する必要があります。しかし、感染対策向上加算2および3の施設では、どのように準備をしたら良いのか戸惑うことも多いと思います。本連携の開始にあたっては、まず初めに、感染対策の管理業務に必要なデータの入手方法と、その算出方法を連携施設へ伝えます。例えば、細菌検査室からExcelなどの電子ファイルで受け取った月毎のMRSA検出数、緑膿菌検出数を病院事務から得た延べ入院患者数で除して1,000を掛けることで1,000患者・日毎の検出率を得ることが出来ます。これによって施設規模によらず、比較可能な指標を得ることが出来ます。
表1に例示したようなデータをExcelシートの統一書式に3ヶ月毎に入力して中核病院に返送します。抗菌薬使用量の指標となるAUD※1やDOT※2の算出も、算出式の入ったExcelシートを作成して連携施設に使ってもらうことで、どの施設でもデータを得ることが出来ます。中核病院はデータ集計後、匿名化して全施設が比較可能なグラフにします。また、参加施設全体がJ-SIPHEに登録可能な場合は、これらにより自動で生成される集計グラフを用いるとある程度の省力化が可能です。
※1 AUD(Antimicrobial Use Density)・・・抗菌薬使用密度
※2 DOT(Days of Therapy)・・・抗菌薬使用日数
※3 TDM(Therapeutic Drug Monitoring)・・・薬物血中濃度モニタリング
※4 GNR(Gram Negative Rods)・・・グラム陰性桿菌
※5 ESBL(Extended Spectrum beta(β)-Lactamase)・・・基質特異性拡張型βラクタマーゼ
(4)地域連携合同カンファレンスの運営
表2に2022年度の当院の「第1回感染対策地域連携合同カンファレンス」のプログラムを示しました。参加施設は加算1~3の施設の他に、これまで合同カンファレンスに参加していたものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応ができないために加算は申請しないが、データを提出して従来通り本カンファレンスに参加した病院も2施設ありました。さらに、大阪府内の総合病院の見学参加もありました。また、参加した診療所5施設は、「外来感染対策向上加算」の算定施設です。
カンファレンスの第一部となるデータカンファレンスでは、施設名を匿名化し、感染対策指標の推移をもとに中核病院におけるICTの各職種が連携施設の状況を解析し、説明することとなります。後の項で個別の事例を紹介します。
データカンファレンスの後には第二部として、従来からミニレクチャーを行っています。この回では、新興・再興感染症発生時の初動の実際として、リアルタイムに経験した2003年のSARS、2009年の新型インフルエンザ、そして2020年1月のCOVID-19発生時の対応を説明しました。同年9月の第2回カンファレンスでは、加算2および3の施設からも、自施設のCOVID-19対応病床開設の実例紹介をしていただきました。直近のレクチャーでは、医師会の先生方やクリニックの先生方も参加されるので、外来でのアモキシシリンのみで対応可能な嚥下性肺炎の診断と治療例や、アジスロマイシン投与後にもかかわらず重症化した、マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎の症例紹介と、その疫学や耐性機序および診断方法を紹介しています。次回は、現在問題視されている麻疹について、自施設職員の集団免疫閾値の確認や、急増している劇症型溶血性レンサ球菌感染症の最新の疫学についてお話しする予定です。こういったカンファレンスは、第一部の感染対策に関する地域データの共有だけでなく、参加施設の知識や経験の共有を図るナレッジ・マネジメントの機会とすることで、本会に参加するモチベーションが得られるとも考えています。
(5)データカンファレンスによる自律改善効果
図1に私が他大学の感染制御部 部長であった期間のうち、2013(平成25)年4月から5年間における感染対策地域連携の経過について、21施設(感染防止対策加算1:8施設、加算2:13施設)の、データを提示します。まず、連携開始後の数回では、耐性菌の検出状況や感染対策の実行状況など、現状を把握します。
これにより、各連携施設が受け入れている入院患者のパターンや地域内での役割が判ってきます。さらに、回を重ねると状況が経時的に変化していきます。結果としましては、データカンファレンスで各施設のデータが匿名化されていますが、ほかの施設データと共にフィードバックされますので、自然に自施設と他施設の比較が出来ます。そのため、多くの参加施設のデータが自律的に改善していきました。
※グラフ単位
AUD={抗菌薬使用量(力価総量)(g)/DDD**(g)}/延べ入院患者数(bed-days)×100
**DDD:Defined Daily Dose (規定1日投与量)当該抗菌薬の主たる適応症に対して設定された成人(体重70kg想定)の1日の平均投与量。
(6)改善支援が必要な施設
大半の施設データが自然と改善に向かう中で、カルバペネム系抗菌薬のAUDが上昇し、MRSAや薬剤耐性GNRの検出率が上昇する施設Rがみられました。この施設の薬剤耐性GNRの菌種内訳(図2)を調べると、ESBL産生のProteus mirabilisの検出頻度が異常に高く、また、E. coliを含む ESBL産生菌全体の検出頻度も上昇していました。
MRSA急増の原因として、標準予防策全体の遵守不良が常態化していると推測され、手指消毒剤の使用量測定を病院全体ではなく、個人毎に計測することなどを勧めました。さらに、尿から検出される頻度の高いESBL産生P. mirabilis急増の原因として、尿や便の取り扱いマニュアルが無いことが考えられました。そのため、大学病院のマニュアルを参考に、オムツ交換や尿バッグからの集尿作業のマニュアル作成と研修の実施を勧めました。また、カルバペネム系抗菌薬の使用量については、医師の異動によって感染症治療がワンパターン化してしまったことが原因でした。このため、感染症毎に非重症例に用いる代わりの抗菌薬を提案しました。訪問支援も併せて7月に介入を開始した後は、カルバペネム系抗菌薬のAUDも耐性GNRやMRSAの検出頻度も低下し、速やかに介入の効果が得られました(図3)。改善後に当該施設のICTから伺ったお話しでは、「自施設だけで改善は無理だとあきらめていた」ということで、やはり加算1施設による支援は必要だと感じた例でした。
(7)産科クリニックにおけるTSST-1毒素産生MRSA伝播事例
これも私が他大学で経験した事例です。某産科クリニックから、1ヶ月間に3例の新生児TSS様発疹症(NTED:Neonatal TSS-like exanthematous disease)患者が、大学病院に転送されて来ました。本疾患は、黄色ブドウ球菌のTSST-1毒素が原因となることが知られており、3例すべての新生児から、同一POT※6ナンバーのMRSAが検出されました。そこで感染制御部から地域医療連携部を通じて、同クリニックに同一MRSA株によるクリニック内感染が考えられることをお伝えしたところ、同クリニックから改善支援の依頼がありました。依頼を受けた後、大学病院のICNがクリニックを訪問して、状況を確認しました。その結果、職員動線上への手指消毒剤の配置などが不足していたため、適切に配置することや、職員が手指消毒剤の携帯に取り組むこと、共用機器に対して使用毎に消毒を実施、新生児用体重計上のタオルなどリネン類の未消毒・未洗濯での反復使用停止を依頼しました。この介入以降は、新規症例の発生は停止しています。これも加算1施設の専門家の視点が役立った例です。
※6 POT(PCR-based open reading frame Typing)法:迅速に菌株の遺伝子同一性を識別できる簡易分子疫学検査法で、MRSAなどいくつかの菌種に対してキットが市販されている。同一POT番号の菌株が時間的・空間的に集積して検出された場合には、院内伝播の可能性を疑って調査を行う。
おわりに
感染対策は現状を計測し、望ましい方向へ運ぶために職員研修やマニュアル作成等の実務を行います。そして中核施設は、近隣の連携病院を支援し、感染対策レベルを向上させることで、この地域全体を守ることが出来ます。連携施設の皆様にもこの点をご理解いただいて、協力を得ることでより安全な地域を創りましょう。

