HosCom 2024 vol.21 no.1
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生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生2023について
- 北原 隆志
- 山口大学大学院 医学系研究科 臨床薬理学講座 教授
※本記事は、「HosCom 2024 vol.21 no.1(2024年3月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに
この度、日本環境感染学会では2011年に策定した「生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生2011」(以下、指針2011)1)を12年ぶりに改定し、「生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生2023」(以下、指針2023)2)として公表しました。そこで、今回は指針のこれまでの経緯を含め改定のポイントを解説します。
指針2011作成の経緯
欧米においては、手指消毒薬の有効性は公的標準試験法および有効性基準が策定されており、評価の基準となっています。この基準は医療現場で使用する消毒薬の品質を保証するものとして活用され、医療現場においても有用な情報として役立っています。一方、日本においては、標準化された生体消毒薬の有効性評価基準はありませんでした。そこで、日本環境感染学会 消毒薬評価委員会において討議を重ね、指針2011が策定されました。指針2011では、米国と欧州それぞれの基準があることを鑑み、両方の試験方法を採用しています。製品の使用目的および効果に応じて、1994年に出された米国食品医薬品局(Food and Drug Administration ; 以下、FDA)の暫定的最終版モノグラフ(Tentative Final Monograph ; 以下、TFM)に規定される米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials ; 以下、ASTM)の標準試験法、1998年に出された欧州標準化委員会(European Committee for Standardization/Comité Européen de Normalisation ; CEN)の欧州連合欧州規格(European Norm ; 以下、EN)における標準試験法のいずれかに準じた試験方法を適用することとしています。さらに、これらの試験法を適用することで国際化を図ることも目的としていました。
欧米の消毒薬試験法
ここで欧米での消毒薬の試験法について簡単に紹介します。
米国では消毒薬の申請時にはASTMの試験法や公認分析化学者協会(Association of Official Analytical Chemists ; AOAC)の試験法による評価が要求されます。これらの試験法は対象菌や使用方法により定められています。ただし、試験の条件や要求基準などは比較的自由度が高いです。そのためFDAや米国環境保護庁(Environmental Protection Agency ; EPA)が製剤の消毒水準や適応、使用方法などにより、実施すべき試験法とその効果判定基準をそれぞれ定めています。欧州ではENの試験法が用いられますが、これはフェーズ1、2、3から構成されています。フェーズ1はin vitroで製剤や活性物質の基本的な活性を試験します。フェーズ2は使用方法に対応した2つのステップに分かれています。ステップ1ではin vitroにて実使用を想定した条件で評価が行われ、ステップ2ではステップ1で確認した有効な濃度を用いて、in vivoで実際の使用法を模擬した条件で効果の試験をします。フェーズ3は実使用での試験になりますが、製剤により使用条件は異なるため、統一した試験法は定まっていません。
指針2023作成の経緯
指針2011の発表からすでに10余年が経過し、その間に欧米(特に米国)の評価法に動きがありました。2011年以降の欧米の動向を見てみますと、特に米国の基準は、指針2011以降に大きく方針変更され、TFMは2015年の提案ルール(Proposed Rule ; 以下、PR)を経て2018年に最終ルール(Final Rule ; 以下、FR)として発出されました。表1に米国の基準の変遷を示します。PRにおいて擦式手指消毒薬に適した試験法が追加され、単回使用後の有効性を重要視してin vivo評価での累積効果を必須としなくなりました。その際、有効性評価基準の数値の見直しが行われています。さらにFRにおいては試験結果の判定が米国における既承認薬との非劣性、およびプラセボとの優越性の確認となりました。一方、欧州の基準はこの期間で大きな改定はありませんでした。他にも新たな知見も得られてきたことから、それらも加味して今回、改定を検討することにしました。指針2023の序文にも書かせてもらいましたが、今回の改定においては、2011年当時より製品流通の国際化が進んでいたことから、 指針2011を継承し、欧米の試験法・基準に準拠することとし、さらに本邦の事情に適合した基準の見直しを行うことにしました。
指針2023の改定ポイント
米国における最新の基準はFRということになりますが、FRは現時点での科学的根拠に基づく「一般的に認められる有効性」(generally recognized as effective ; GRAE)の評価が最終結論にまで至っていないという懸案事項も残しています。また、FRの示す米国における既承認薬とは本質的にはTFM基準にて承認された医薬品であると推測され、そのような既承認薬を有していない日本においてFRに記載されているような非劣性検定を行うことは困難であると考えられました。このような背景から指針2023における米国の有効性判定は、TFMの概念(考え方)を継承しつつ、擦式手指消毒薬を主とした現状の手指衛生を反映したと解釈されるPRの基準を取り入れています(表2)。指針2023ではASTM標準試験法を行う際の要求基準として、通過菌を想定し、被験者の手指を細菌で人為的に汚染させて評価する衛生(学)的手指衛生用洗浄消毒薬、および擦式消毒薬は消毒後5分以内に2.5 log10 reduction(約300分の1に減少)、被験者の手指に存在する常在細菌に対する効果も評価する必要がある手術時手指衛生消毒薬は、消毒後1分以内に2.0 log10 reduction(100分の1に減少)を満たすこととしました。手術時手指衛生用の方が衛生(学)的手指衛生用よりも減少割合が少ないと思われるかもしれませんが、対象の菌が常在細菌になりますので、条件としてはよりシビアです。一方、アップデートおよび本邦の試験環境に対応が可能な調整を行いました(表3)。欧州の基準では指針2011のときから対照との非劣性あるいは非抗菌石けんとの優越性の確認ということでした。手術時手指衛生消毒薬の評価において、対照として欧州では認可されている60v/v% n-プロパノールが記載されていましたが、日本では認可されていないことから、指針2023では75v/v%を超え、95v/v%未満のエタノールでの代替可能性を示す報告があることを記載しています。
表3 CEN標準試験法に基づく消毒薬の薬効評価法の分類および本指針判定基準
*60v/v% n-プロパノールについては、75v/v%を超え、95v/v%未満のエタノールでの代替可能性を示す以下の報告が存在する。
Suchomel M, Rotter M. Ethanol in pre-surgical hand rubs: concentration and duration of application for achieving European Norm EN 12791. Journal of Hospital Infection. 2011 ; 77 : 263-266.
参考:日本環境感染学会. 「生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生2023」
おわりに
指針2023の活用方法について、医療者に対しては、自施設で使用する消毒薬を選定する際に、その製品が標準化された試験系で評価されたものかどうか、この指針で示されている評価基準を参考にしてもらえたらと考えています。また消毒薬製造企業に対しては、本指針に準じて製品の評価を行って欲しいと考えています。
参考文献
1)日本環境感染学会. 「生体消毒薬の有効性評価指針 : 手指衛生2011」. http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=40. Accessed November 13, 2023.
2)日本環境感染学会. 「生体消毒薬の有効性評価指針 : 手指衛生2023」. http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/syushieisei_2023.pdf. Accessed November 13, 2023.

