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HosCom 2023 vol.20 no.3

聞いてみよう!となりの感染対策

透析室における手指衛生遵守率向上のための取り組み

吉田 理
慶應義塾大学病院 血液浄化・透析センター 准教授

※本記事は、「HosCom 2023 vol.20 no.3(2023年11月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

血液透析を受ける慢性腎不全患者は一般的に免疫力が低く、易感染状態にあります。また、血液透析は広い空間の中で集団で治療を受けるという特徴もあります。当院の血液浄化・透析センターは、維持透析患者さんが数多く外来通院する施設ではなく、むしろ普段は周辺のクリニックで透析を受けている患者さんが、肺炎などの感染症に罹患した時、整形外科的治療が必要な時、心臓手術を受ける時など、当院の各診療科で入院治療が必要な時に入院中の透析管理を担当する部署です。クリニックに外来通院している時と比較すると、患者さんの自立度は低下しています。また、抗生剤治療などの影響で下痢をしている患者さんもいらっしゃいます。さらに、透析は血液の体外循環を行う治療であるため、血液汚染のリスクが常に存在します。このような背景のため、当院の血液浄化・透析センターは感染対策に重点的に取り組む必要があります。とりわけ、感染対策の基本である手指衛生について、必要な場面で確実に実施することが重要であると考えました。そこで我々は、2017年から「手指衛生遵守率100%」を目標に、手指衛生遵守率の向上に取り組んでいます。今回の寄稿では、我々が行っている手指衛生遵守率向上の取り組み内容とその効果について紹介させていただきます。

活動内容の紹介

手指衛生遵守率向上のために以下の取り組みを行っています。1)手指衛生遵守率調査を透析センタースタッフが相互に行う。2)毎朝のミーティングで感染対策が特に必要な患者の注意喚起を行う。3)スタッフ間の指示出しに「手指衛生して、、」の言葉をつける。4)感染対策に関する標語を毎週作成する。それぞれの項目について説明を加えます。

1)手指衛生遵守率調査を透析センタースタッフが相互に行う

WHOが推奨する「手指衛生の5つのタイミング1)」、すなわち「患者さんに触れる前」、「清潔・無菌操作前」、「体液曝露の可能性があった後」、「患者さんに触れた後」、「患者さんの周辺環境に触れた後」について手指衛生がキチンとできているか、スタッフ同士で相互に調査し合いました。実際にチェックを行うことで、手指衛生が必要な場面を各自再認識できました。また、手指衛生が実施できていなかった場面をカンファレンスで話し合ってみると、スタッフそれぞれで認識が異なることが分かりました。どの場面が「患者さんに触れる前」に相当するのかなど、手指衛生すべきタイミングをスタッフ間で共有し、統一しました。例えば、患者さんのベッド脇にある透析機器(コンソール)のモニター画面については、手指衛生してから操作しているスタッフと手指衛生せずに操作しているスタッフが混在していました。タイミングを統一することで、感染拡大のリスクは減少すると考えます。

2)毎朝のミーティングで感染対策が特に必要な患者の注意喚起を行う

透析センターでは、注意すべき細菌・ウイルスが検出されている患者さんのネームカードに小さな色分けシールが貼ってあります。患者さんの対応時には、そのネームカードを見ればどんな対策が必要なのか、ある程度は把握できるようになっているのですが、朝のミーティングで改めて注意喚起をするようにしました。例えば、「〇〇さんは、ディフィシル菌が便から検出されているので、石けんと流水による手洗いをしてください。」などと患者さんの入室前に情報を共有することで、忘れずに対応できるようになりました。
クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile:C. difficile

3)スタッフ間の指示出しに「手指衛生して、、」の言葉をつける

とにかく、なんでも、声を出すときには、「手指衛生して、、」という言葉をつけるようにしました。例えば、「手指衛生して穿刺針を1本取ってください。」「手指衛生して透析終了の返血をしてください。」「手指衛生して、抜針してください。」といったように、枕詞のように何にでも「手指衛生して、、」という言葉をつけています。常に透析センター内に「手指衛生」の言葉が飛び交うようになり、手指衛生への意識が否応なく向上しました。一見すると、おかしなことをやっているなあと思われるかもしれませんが、実は患者さんに安心を与える効果もありました。新型コロナウイルス感染症の流行もあって、患者さんも医療スタッフの手指衛生をしっかり観察しています。「手指衛生して、、」の言葉が飛び交うようになり、患者さんからも「透析センターはしっかり手指衛生しているね」と安心してもらえるようになりました。

4)感染対策に関する標語を毎週作成する

図1のような週替わりの標語を作成して、毎朝のミーティングで唱和するようにしました。始めは私ばかりが作っていたのですが、最近は黙っていても毎週新しい標語が透析センター内に掲示されるようになっています。毎朝声に出すことで、スタッフの感染対策に対する意識が向上しました。ちょっと気になる標語を作れば、笑顔で感染対策ができるようになります。今では、過去の標語を集めたファイルがだいぶ分厚くなりました。

図1 感染対策に関する標語

成果と考察

当院の感染制御部は、年に複数回、院内の各部署を回って部署毎の手指衛生遵守率を調査・発表しています。それによると、透析センターにおける手指衛生遵守率は、今回の取り組み実施前は、2015年71%、2016年69%、2017年88%でしたが、取り組み実施後は2018年98%、2019年93%、2020年91%、2021年95%と継続して高い手指衛生遵守率を示しました(図2)。特に「患者さんに触れる前」に限ってみると、2018年から2019年にかけて4回連続して100%を達成することができ、院内で表彰を受けることができました。血液浄化・透析センターにおける今回の複数の取り組みは、手指衛生遵守率の向上に長期間にわたって有効であったと思われます。

図2 当院感染制御部が調査した血液浄化・透析センターにおける手指衛生遵守率の推移

今後の展望

医療者が職種を超えてお互いに声を掛け合うことは、実際には難しいことです。透析センターには医師、看護師、臨床工学技士、さらには薬剤師、栄養士など多職種が出入りします(写真)。これまで、看護師が病院全体で「あいさつ週間」や「笑顔で声掛け運動」などを行っていても、他職種は知らん顔のような雰囲気がありました。特に、医師は一見すると地味な手指衛生に対しては無頓着な部分がありました。しかし、今回の手指衛生遵守率向上への取り組みを通じて、全職種で同じ事に取り組むことが徐々に当たり前になっていった実感があります。今後も楽しみながら手指衛生を実践して、感染対策を継続していく心積もりです。

写真 常日頃から手指衛生を心掛けている血液浄化・透析センターのスタッフ(後列の左から4番目が私です。)

参考文献

1)World Health Organization & WHO Patient Safety. (2009). WHO guidelines on hand hygiene in health care. World Health Organization. https://apps.who.int/iris/handle/10665/44102 Accessed August 3,2023

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