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HosCom 2023 vol.20 no.3

地域連携

コロナ禍におけるICNと行政が連携した地域支援活動の取り組み

高橋 朋子
社会医療法人 豊生会 感染管理認定看護師(前 札幌市保健所 医療対策室 疫学調整担当課)

※本記事は、「HosCom 2023 vol.20 no.3(2023年11月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

2023年5月8日より、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)は感染症法上の位置づけが2類相当から季節性インフルエンザと同じ5類感染症になりました。このコロナ禍では医療機関のみならず、高齢者施設(以下、施設)の感染対策の重要性が改めて注目される機会となりました。様々な感染症に対応していくためには、医療機関と同様に施設も平時から継続した感染対策を実践していく必要があります。
令和6年度は、診療報酬、介護報酬及び障害福祉サービス等報酬の6年に1度の同時改定が予定されており、「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」1)では、医療機関と施設等における医療連携体制の構築だけにとどまらず、感染対策においても医療機関からの支援や助言が受けられる仕組みが必要である、という意見があがりました。今後の中央社会保険医療協議会や社会保障審議会での議論は注視していく必要があるでしょう。
札幌市には約1,100の施設(表1)があり、これらの感染対策の底上げには限られた一部の専門家の活動だけでは限界があります。しかし、札幌市には感染対策を推進するICN(厚生労働省が提示する感染管理の研修を終えた看護師、感染管理認定看護師、感染症看護専門看護師、感染制御実践看護師)のリソースが約100名程度存在します。今回の取り組みでは、地域の施設とその近隣に勤めるICNのマッチングを図り、地域支援活動の体制を整備することで、地域連携の基盤を作るきっかけになるのではないかと考えました。
本稿では、地域のICNと行政が連携した「施設への平時の感染対策を推進する活動」の一例をご紹介させて頂きます。

表1 札幌市における認可の入居系高齢者施設数(令和4年4月1日現在)

高齢者施設の感染対策の現状

施設での感染対策の実践には、医療機関での対策以上に多くの困難があります。利用者は「認知症で居室に留まれない」、「マスク着用や手洗いが十分にできない」、「異食や不潔行動があり手指消毒薬や個人防護具を廊下や居室内に常備ができない」などの現状があります。また、施設やその職員においては、介護報酬で感染対策の加算がないことから「必要な経費(個人防護具や手指消毒などにかかる費用)が十分に確保できない」、「定期的に感染対策の教育を受ける機会が少ない」などの現状があります。また医療機関は「治療をする療養の場所」ですが、施設は利用者にとって「日常生活の場所」です。施設は施設運営の維持やケアの質、利用者の身体機能の保持、認知症の進行防止なども進めていく必要があり、医療機関と同じ感染対策の実施は現実的ではない状況も理解する必要があります。
令和3年度の介護報酬改定では「感染症対策の強化」に向けて、入所系の施設に限らず訪問系・通所系などのサービス提供する事業者においても委員会の開催、指針の整備、研修・訓練(シミュレーション)の実施等の取り組みが示されました。これは3年の経過措置が設けられていますが、令和6年度には義務事項になります。しかし、現段階では施設収入につながる介護報酬の加算規定はありません。
施設においても感染対策の基本は「標準予防策」ですが、その基本概念は理解されぬまま、コロナ禍ではコロナ対策ばかりが注目されてきました。しかし、昨今は薬剤耐性(AMR)の問題も浮上しており、地域においては医療機関のみならず、施設等でもさらなる感染予防・管理の推進・強化が必要であると言われています2)

札幌市ICN事業

札幌市では、2021年のCOVID-19第5波までに多くの医療機関や社会福祉施設等でクラスターが発生し、一部の有志のICNが行政と共に施設支援にあたりました。しかし、有事の際に慌てて現場に感染管理を伝えても、すぐには実践できない現状を目の当たりにしたことで「平時の感染対策」の重要性を再認識しました。そこで「平時の感染対策」の底上げのためには、地域のICNの協力とそのICNが地域で活動しやすい基盤が必要であると考え、次に紹介する2つの事業が開始されました。

1. ICN連携ミーティング

施設支援の前に、まずは地域のICN同士の「顔が見える関係性の構築」が必要と考え、札幌市内(一部市外)に勤務するICNを対象に情報交換の場を設けました(写真1)。このミーティングは対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド開催で、札幌市保健所からの情報提供とミーティングのテーマに沿ったグループディスカッションが行われました。ICNの参加人数は計83名で、研修修了生から感染管理に15年以上従事するベテラン看護師まで幅広いキャリアのICNが参加しました。
開催後のアンケートでは「他の医療機関の感染対策の考え方に触れられてよかった」、「COVID-19の5類移行に向けての取り組みや派遣事業の情報など様々な情報を得ることができた」、「定期的に情報交換ができる機会があれば良い」などの意見がありました(図1)。
札幌市内には2023年7月現在、感染対策向上加算1(以下、加算1)を取得している施設が26施設あります(表2)。加算1施設には専従ICNが在籍しており、他の加算1施設との連携があるため、限られた中ではありますがICN同士のつながりがありました。しかし、加算取得の有無に関わらず地域全体で見るとICN同士がつながる機会は少ない状況でした。
このミーティングの開催によって、それぞれのICNの立場を知る機会となり、また経験年数が浅いICNにとっては、ベテランICNの活動経験を直接聞くことができる学びの機会となりました。加えてこのミーティングを札幌市保健所が主催したことで、保健所自体も地域のICNとつながりを持つきっかけとなりました。

写真1 札幌市ICN連携ミーティングの様子(出典元:札幌市保健所より写真提供)

図1 ICN連携ミーティング後のアンケート結果(2023年3月開催)(出典元:札幌市保健所よりデータ提供)

表2 札幌市の感染対策における診療報酬加算の取得状況

高齢者施設へのICN訪問支援事業

本事業は施設を所管している札幌市の部署(高齢福祉部)の協力も得ながら準備を進めていきました。全ての施設を訪問対象にすることは施設数が多く難しいため、施設を限定(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、養護老人ホーム、特定施設入居者生活介護、有料老人ホーム、軽費老人ホームは2022年度に新規追加)した上で事業参加の希望を施設に募りました(図2)。ICNには「ICN連携ミーティング」を通じて参加協力を依頼しました。
2023年10月時点において札幌市には、クラスター発生時に医療機関のICNが施設訪問するためのネットワーク体制はなく、またICNのほとんどが医療機関に所属しているため、所属機関外での活動に従事するにはその都度、所属管理者の許可を得る必要があります。クラスターなどの有事の際には所属管理者からの許可を得るのが難しかったこと、またICNの業務上、突発的に院外活動を行うことが難しい現状もあり、まずは平時に限定して事業を進めることになりました(写真2)。
ICN訪問支援事業実施後のアンケートにおいて、施設側からは「施設の構造、入居者の状態や職員配置などを見てもらえる機会は少ないので、継続的に指導してほしい」、「自分たちが行っている対策の確認の機会になり、安心した」などのご意見をいただきました(図3)。ICN側からは「初めての施設訪問だったが、ICNとしての視野が広がった」、「院内では遭遇しないような困りごとを一緒に考える機会をもらえ、学びになった」などの意見がありました。

図2 高齢者施設へのICN 訪問支援事業参加施設(2022年度)(出典元:札幌市保健所よりデータ提供)

写真2 ICNが施設訪問した際の様子(出典元:札幌市保健所より写真提供)

図3 ICN訪問支援事業のアンケート結果(2022年度)(出典元:札幌市保健所よりデータ提供)

今後の地域支援への課題・まとめ

本事業は感染対策の地域支援体制づくりの第一歩となりましたが、今後の取り組みやあり方、またICNを派遣する医療機関側の管理者の理解や費用確保などの問題があります。また施設訪問に関しては、すべての施設形態を対象にできていません。私見になりますが、今回訪問事業に参加した施設は、感染対策に対し危機感と関心を持ち合わせた施設が多い印象でした。
感染対策は、全ての施設において平時から行うことが重要です。そして、そのためには継続的な施設支援が必要になります。今後は地域の関連団体(各医療機関、医師会、看護協会、道も含めた行政など)とも連携し、地域支援活動がスムーズにできるネットワークを早急に構築する必要があります。私は現在、保健所の業務からは離れておりますが、今後はICN・専門家の一人として感染症における地域支援活動の推進に協力していきたいと思っています。
本事業の活動及び、この記事の発表にあたりデータ提供のご許可を賜り、札幌市保健所には深謝の意を表します。

参考文献

1)厚生労働省ウェブサイト「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第2回)における主なご意見」.https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000162533_00002.html : 2023年7月14日現在.
2)厚生労働省ウェブサイト「薬剤耐性(AMR)アクションプラン2023-2027(本体)」.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/ap_honbun.pdf : 2023年7月14日現在.

hoscom20-3-network.pdf