HosCom 2023 vol.20 no.2
地域連携
病院薬剤師が病院から地域に出て行うAMR対策への取り組み
- 上ノ段 友里
- 中津市立中津市民病院 診療部 薬剤科 主任薬剤師 日本病院薬剤師会 感染制御認定薬剤師/日本化学療法学会 抗菌化学療法認定薬剤師
※本記事は、「HosCom 2023 vol.20 no.2(2023年8月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに
新たな薬剤耐性菌出現とその蔓延が世界的な問題となり、世界各国で薬剤耐性(以下、AMR)対策の取り組みが開始されています。2015年5月の世界保健機関(WHO)総会では、AMRに対するグローバル・アクション・プランが採択され、それを受けて我が国でも、2016年4月に国際的に脅威となる感染症対策関係閣議会議において「AMR対策アクションプラン(2016-2020)」1)が決定されました。その中には、①普及啓発・教育 ②動向調査・監視 ③感染予防・管理 ④抗微生物剤の適正使用 ⑤研究開発・創薬 ⑥国際協力の6つの分野に対して、目標と成果指標、それを達成するための戦略が示されています。特に医療機関では、①〜④の分野で、AMR対策が求められています。
アクションプランは5年計画で行っており、コロナ禍を経て更なるAMR対策に向け、現在では「AMR対策アクションプラン(2023-2027)」2)に改定されました。医療機関等はその目標に向けて、具体的な対策に取り組んでいます。
医療機関でのAMR対策
医療機関において、薬剤耐性菌を増加・拡大させないようにするには、前項の④による「耐性菌を作らないこと」、③による「耐性菌を広げないこと」の両方を同時に行う必要があります。病院内では、抗菌薬適正使用支援チーム(以下、AST)等の介入により抗菌薬使用量削減などの成果が出てきています。
私の在籍している中津市立中津市民病院(以下、当院)でもASTと感染対策チーム(以下、ICT)により、抗菌薬適正使用の状況や耐性菌の検出状況などを鑑みながら、処方医に適正使用の推奨処方例や細菌培養の採取方法をラウンド時に返信し、適正使用の推進を行っています。また、月1回、月刊ASTを作成し、院内スタッフへ抗菌薬や消毒薬に関する情報を発信しています。抗菌薬使用前に細菌培養検査を実施している率が少なかった月には、細菌培養検査の重要性を伝え、抗菌薬の適正使用に向けての啓発も行っています。その結果、医師も看護師も意識が高まり、抗菌薬開始前の細菌培養検査実施率は85〜90%、血液培養2セット採取率は98〜100%を維持しています。
院内から地域に踏み出す活動ときっかけ
院内でASTやICT業務を行っていると、入院時持ち込みとして耐性菌の検出を見受けることが多くなりました。また、入院時の持参薬鑑別時には、他の医療機関で処方された抗菌薬を飲み切っている予定にも関わらず、余って持参するケースもありました。
日本国内における抗菌薬処方の9割が経口抗菌薬であり、その多くは院外処方されています3)。持参した抗菌薬が余っている原因として、院外処方された抗菌薬は、患者の手に渡った後は自己管理となるため、患者が抗菌薬の服用を自己判断で中断・再開していると考察しました。そのことを考えれば、経口抗菌薬の適正使用の実現には、処方医療機関のみならず、地域の医療機関に勤めるスタッフに市政までも巻き込んだ、地域でのAMR対策の実践とアプローチが必要になると考えました。また、地域住民は耐性菌を広げないための感染予防対策の基本を学ぶ機会が少ないという課題もありました。
そこで、2018年4月に当院を含む地域の薬剤師でNAC24(Nakatsu Antimicrobial resistance Community24)という組織を結成し、地域住民に対して抗菌薬適正使用の啓発活動を開始しました(写真1)。その当時、中津市内の医療機関には、感染防止対策加算1(以下、加算1)の当院、そして当院と合同カンファレンスを行っている感染防止対策加算2(以下、加算2)の施設が4施設ありました。各施設で耐性菌の検出状況や抗菌薬に関する情報を共有しており、加算2の施設から感染症の相談を受ける環境が既に整備されていました。保険薬局は市内に30店舗ほどあり、加算1、2の施設の門前薬局も多くありました。また、中津市内では、もともと病院薬剤師と保険薬局薬剤師が合同で研修会を開催しており、顔の見える関係づくりができていました。薬の専門家である薬剤師だからこそできる「薬剤耐性菌を増加・拡大させない」ための抗菌薬適正使用に向けた一歩として、地域の薬剤師と共に活動を始めました。
具体的にどんなAMR対策を地域で行う?
実際にAMR対策の啓発活動を始めるにあたり、中津市ではどのような場所でどのような啓発活動が行えるかを考えました。
地域住民の行動を知ることは啓発活動を行う上でとても重要になります。そこで、中津市内の現状を調べてみました。高齢化率28.5%、人口密度170.8人/k㎡の中津市では、世帯あたりの自動車普及率128.8%(一般財団法人 自動車検査登録情報協会より引用)でした。労働する人が多い世帯ほど、その人数分の自動車を保有している現状と高齢者であっても車がなければ、通院や日用品の買い物にも行きづらい地域という特徴を持っています。公共交通機関が少しは整備されているとはいえ、中津市では、都市部などで行われている「駅前」での啓発活動を行っても、広く周知することは難しいとの結論に至りました。
地域住民が自動車で買い物に行く商業施設で啓発活動を行うのが、この地域には合っていると考え、市内の商業施設に赴き、啓発活動実施の承諾を得ることができました。誰でも参加しやすい方法としてクイズ大会と相談コーナーを設け、開催までにポスターを自作し、医療機関や商業施設に掲示しました。また、新聞・ラジオで事前に広報を行い、商業施設で地域住民対象の感染制御を含めたAMR対策の啓発活動を実施しました。次年度も参加型のクイズ大会や相談コーナーを設け、その他に手洗いチェッカーを用いた正しい手洗い方法の指導も行うようにしました(写真2,3)。
参加した地域住民に実施したアンケート結果では、2018年75名、2019年46名の地域住民が参加しており、40〜70歳代の参加が8割ほどを占め、クイズ大会では9割の方が理解できたとの回答でした( 表)。
地域住民が集まる場所に直接出向く活動へ
2年間の活動で、商業施設は買い物が主な目的の方が集まるため、参加者を募りにくいことが分かりました。そこで、2020年9月からは地域住民が集まって勉強などを行う公民館での高齢者サロンや子育てサロンに出張して、抗菌薬適正使用の啓発活動を行いました。直接出向くことで、地域住民と話をすることができ、簡単な実験も交えながら行った講演は、理解しやすかったとの意見を頂けました。また、ちょうどコロナ禍で、テレビ報道等により誤った情報が錯そうし迷われるケースもあったため、感染制御や抗菌薬の専門知識をもった地域の薬剤師から正しい情報を伝えることもできたと思います(写真4)。
今後の展望
現在では、地域の感染対策に関する診療報酬で感染対策向上加算1、2と名称が変わり、感染対策向上加算3や外来感染対策向上加算が設けられるなど行政等が連携し、地域全体で感染対策に関わるように変わりました。そこでは、地域の耐性菌検出状況と個々の施設の抗菌薬の使用状況を把握し、適正使用に向けてカンファレンスなどで相談する機会となっています。しかしながら、保険薬局薬剤師や訪問看護師などは情報が不足していることもありました。そこで当院では医師会・歯科医師会・薬剤師会・地域医療従事者(看護師・検査技師・医療ソーシャルワーカー(MSW)・ケアマネージャー)などに対して、合同でAMR対策の研修会を実施しており、今後も継続するようにしています。
AMR対策について多職種で同じ考え方、感染予防対策をしっかりと施行することができれば、地域の中で耐性菌出現と蔓延を防ぐことができると思います。また、この数年のコロナ禍で地域住民も感染予防対策に関して一定の知識を得ることができました。
ポストコロナになった今だからこそ、薬剤師がさらに地域住民が集まる場所に直接出向いて、正しい感染予防対策と抗菌薬適正使用の方法を伝えることで、意識改革につなげていきたいと思います。
参考文献
1)内閣官房. 国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等関係閣僚会議. 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020). https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/pdf/yakuzai_honbun.pdf.2023年5月1日現在.
2)内閣官房. 国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等関係閣僚会議. 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027). https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/pdf/2023-2027_hontai.pdf. 2023年5月1日現在.
3)AMR臨床リファレンスセンター. 匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)に基づいたサーベイランス. https://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/010/ref/NDB_2013-2020.pdf. 2023年5月1日現在.

