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HosCom 2023 vol.20 no.2

エキスパートに聞く

新型コロナウイルス感染症に関連した薬剤師業務の整備

浜田 幸宏
東京女子医科大学病院 薬剤部 薬剤部長

※本記事は、「HosCom 2023 vol.20 no.2(2023年8月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2023年5月8日より、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)上、新型インフルエンザ等感染症と同等の2類相当から5類感染症になりました(図)。多くの場面で行動制限があったものが緩和されることで、生活環境も大きく変わっていきます。そして、医療従事者は変化していく医療提供体制に対応しなければなりません。本稿ではCOVID-19禍で薬剤師がチーム医療の担い手として活動した内容を一部抜粋し紹介します。

図 内閣官房. 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制及び公費支援の見直し等について

治療薬(未承認・適応外薬)の確保

2020年4月7日に内閣官房より「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が発出され1 )、多くの医療機関がCOVID-19陽性患者の入院の受け入れを開始しました。その時点で、COVID-19に適応を有する治療薬は存在せず、国内外の論文や症例報告、日本感染症学会の「COVID-19に対する抗ウイルス薬による治療の考え方」等を参考に、治療薬の候補となる薬剤を選定していきました。初期段階で候補薬として挙げられたのは、ロピナビル・リトナビル配合剤、シクレソニド吸入剤、ファビピラビル錠と少なく、現在では使用されない薬剤になっています。当初、ロピナビル・リトナビル配合剤は国内流通が停滞していたこともあり、在庫確保は困難な状況でした。シクレソニド吸入剤、ファビピラビル錠は入手経路の情報が少なく、厚生労働省医政局研究開発振興課より連絡を受け、関連部署へ連絡し、藤田医科大学の「ファビピラビル等の抗ウイルス薬が投与されたCOVID-19患者の背景因子と治療効果の検討(観察研究)」に登録したのち、卸業者や製薬企業の担当者から納入に至りました。
重症肺炎では吸入と経口投与が困難なことから、国内初の治療薬となった注射剤のレムデシビルが入手できるようになるまで、前述した3剤では重症肺炎の患者への投与が困難でした。
ファビピラビル錠は粉砕可能でしたが、催奇形性があることから職員への曝露対策を念頭におき、簡易懸濁法による経管投与が可能であることを薬剤師が情報収集し、機器や調製マニュアルを病棟整備したのち、加療した症例を経験しました。

未承認・適応外医薬品使用への対応

当時、治療薬候補を使用する場合には適応外使用となり、compassionate use*1に相当するため適宜、倫理審査委員会や未承認・禁忌・適応外医薬品等評価委員会等での承認プロセスが必要でした。具体的には、現状では使用されなくなったシクレソニド吸入剤の禁忌(有効な抗菌剤の存在しない感染症の患者[症状を増悪するおそれがある。])の考え方やヒドロキシクロロキン錠の心毒性等安全性情報を継続的に収集したり、毎日のように更新されるエビデンスをアップデートし、適宜、委員会等で再評価する必要がありました。薬剤師の業務として副作用報告は必須ですが、観察研究の患者同意説明書の作成や臨床研究フォーム(CRF:Case Report Form)に関しても当院では薬剤師が作成から報告まで実施していました。
*1 compassionate use: 生命に関わる、または身体障害を引き起こす可能性のある疾患を持つ患者の救済を目的とし、代替療法がないなどの限定的状況で未承認薬の使用を認める制度

消毒薬の管理

COVID-19感染拡大に伴い、マスクやガウン、消毒用アルコール等の感染対策資材の需要が高まり、特に消毒用アルコールは当院においても2020年2月に前年同月の2倍程度使用量が増加し、在庫量が約1カ月で底をついてしまう状況でした。このような中、厚生労働省、文部科学省より、医療機関や高齢者施設に対し消毒用エタノールの優先供給を行う旨の通知がなされました2)。当初は、国内主要製薬企業の製品製造が需要に追いつかない状況であり、当院においても以下の手順で調整しました。①消毒用アルコールの在庫状況を企業に確認・調整した上、可能な限り在庫の確保に努め、②適宜、会議にて経過報告をするとともに、薬剤部と総合感染症部で協力し、全診療科へ周知協力、③病棟毎の消毒薬使用実績を確認し、過剰在庫の回避等の対策を講じました。
当初、この消毒薬優先供給に関して懸念事項があり、指定された「(医療機関名)アルコール消毒液の発注書」で交付される消毒薬は、聞いたことのない企業や商品名もありました。手指消毒用エタノールの代替品としての特定アルコール(高濃度エタノール)を含み、その濃度や容量サイズも様々でした。それらは現金購入であったため事務調整を行う等、現場では対応に混乱を生じました。結果として、過不足なく院内消毒用アルコールを供給できたことには安堵しました。しかし、当初はマスコミ報道が激化し、感染経路の不確定要素も情報に加わったことも重なり、一部の施設で買い占めが起こる事態等、将来的に危機管理体制に備えておくべき事例だと考えさせられました。

COVID-19専用病棟での活動

COVID-19専用病棟における薬剤師の活動として、①持参薬の確認、②薬物治療における医師の診療支援と医薬品情報提供、③規制薬の管理などが挙げられます。当院では、患者入院時の介入として、専従薬剤師がサージカルマスク、手袋、アイゴーグルを装着し、事前に定めたゾーニングエリアにおいて患者と非対面で持参薬の確認を行いました。また、病室毎に設置している内線の固定電話を使用し、必要に応じてアレルギー、副作用歴や市販薬内服の有無を口頭で確認し、医師や看護師と共有してきました。
治療開始後の介入として、COVID-19治療薬フローを感染症科と協働で作成し、その適合性を確認した上で、用法・用量、相互作用、最大投与日数、治療薬投与後の副作用等のカルテモニタリングに徹しました。また、記録の標準化を目的として、前述した項目のテンプレートを作成して業務効率化も図り、併せて副作用報告やプレアボイド報告*2を積極的に実施しました。治療方針や病態変化等のリアルタイムな情報は、薬剤師も参加する毎日2回のチームカンファレンスでシェアされ、モニタリング情報やアップデートされた医薬品情報を医師や看護師と共有する仕組みを作りました。
その他、麻薬・毒薬等の規制薬の保管・管理方法も感染管理の観点から非常に重要です。病棟活動の具体的な運用手順の決定にあたっては、国立国際医療研究センター病院薬剤部が公表している「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するNCGMセンター病院 薬剤部の対応 Ver.2」3)を参照し、自施設の状況を鑑み、感染疑い病棟を含めた管理マニュアルを作成しました。
他方で、当初より通常業務である病棟薬剤業務実施加算要件の達成要件がCOVID-19対応で困難であったことから、当院からも東京都病院薬剤師会に日本病院薬剤師会へ働きかけを依頼しました。「新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、病棟での滞在時間を制限している場合等により施設基準を満たさなくなった場合については、当面の間、直ちに施設基準の変更の届出を行う必要はない」4)との回答を得たことで、少しでも薬剤師の過重労働にならないよう率先して働きかけました。
*2 プレアボイド報告: 薬剤師が薬物療法に関わり、薬学的患者ケアを実践し、患者の副作用や相互作用などを回避や軽減をした事例の報告

新型コロナウイルスワクチン対応

ワクチンは発注(請求)から保管管理、実施体制の一連の流れが非常に厳格にも関わらず、煩雑であったことは取り扱った施設では誰もが経験したと推察します。当初、調製していたワクチンは、1バイアルあたり6名分が充填されており、不慣れな医療従事者が調製した際には調製時間もかかるため、6名分のシリンジ充填ができないという事例が他施設で相次ぎました。当院では当初から薬剤部にて全職員接種分の調製を実施しており、接種人数が多い場合は増員しましたが、概ね3~4名程度で、概算すると1バイアルあたり1分程度で下記の工程手順に分割し業務を完結していました。

  1. 溶解液吸引とバイアル注入、溶解者(①と②を担当)

  2. バイアル吸引充填者(固定1名、多い場合増員)

  3. 調製鑑査と人数分配者(①~③を律速している箇所を担当)

他方で、ワクチン接種は医療従事者にとって非常に重要ですが、国民に対しても安心してワクチンを接種してもらう必要があったため、日本薬剤師会からの依頼で、「薬剤師から一般の方々に向けた新型コロナウイルスワクチンに関するFAQ」5)について外部有識者として評価・作成にも貢献しました。

おわりに

COVID-19におけるこの数年間で得た知識や対応は決して忘れてはなりませんし、今後起こりうるであろう同様の事態へ迅速に活かせる整備が重要になります。裏方に回りやすい薬剤師がCOVID-19対応に関与し、整備した事実はあまり知られていないかもしれませんが、本稿が今後の業務整備の一助になるようでしたら幸いです。

引用文献

1)内閣官房. 新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言. https://corona.go.jp/news/pdf/kinkyujitai_sengen_0407.pdf.(accessed. 2023.4.25)
2) 厚生労働省. 新型コロナウイルスに関連した感染症の発生に伴う手指消毒用エタノールの優先供給について https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000608225.pdf.(accessed. 2023.4.25)
3)国立国際医療研究センター病院薬剤部. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するNCGMセンター病院 薬剤部の対応 Ver.2 https://www.ncgm.go.jp/covid19/pdf/20200417_1.pdf.( accessed. 2023.4.25)
4)厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その14)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tohoku/news/2012/000146453.pdf.(accessed. 2023.4.25)
5) 日本薬剤師会. 「薬剤師から一般の方々に向けた新型コロナウイルスワクチンに関するFAQ」https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/activities/faq1024.pdf.(accessed. 2023.4.25)

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