HosCom 2023 vol.20 no.1
Topics
最近の感染症関連におけるTOPICS
- 矢野 邦夫
- 浜松市感染症対策調整監・浜松医療センター感染症管理特別顧問
※本記事は、「HosCom 2023 vol.20 no.1(2023年3月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
mpox(旧. サル痘)
「サル痘(monkeypox)」という病名は誤解や差別を引き起こす可能性があるため、WHOは「mpox」という病名を使用することを推奨した1)。この用語は1年間の移行期間を経て、サル痘に代わる優先用語になる。「mpox」は、オンラインのICD-10(国際疾病分類第10版) [註釈1]に含まれることになるが、「サル痘」という用語も、過去の情報と一致させるために、ICD-10で検索可能な用語として残ることとなった。
mpoxは、1970年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)でヒトでの初めての感染が確認され、主に中央アフリカから西アフリカにかけて流行している。その症状は熱性前駆症状に続いて、びまん性水疱膿疱性発疹とリンパ節腫脹である。しかし、2022年5月以降、mpox流行国への渡航歴のない患者が欧州、米国などで報告されるようになった。その多くがゲイ、バイセクシュアル、その他のMSM(men who have sex with men)である。症状は、熱性前駆症状はみられないか軽度であり、発疹は性器、肛門、口腔内に多くみられるという特徴がある2,3)。
[註釈1]「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)は、異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈、比較を行うために世界保健機関(WHO)が作成した分類であり、ICD(国際疾病分類)と略す。ICD-10は1990年の第43回世界保健総会において採択された最新版である。
JYNNEOS®(新型の天然痘ワクチン)
米国ではmpox患者の濃厚接触者には、曝露後予防(PEP:post-exposure prophylaxis)として、天然痘ワクチンJYNNEOS®(欧州連合ではIMVANEX®、カナダではIMVAMUNE®と呼ばれている)の2回接種(28日間隔)が実施されている。天然痘ワクチンはmpoxの予防に約85%有効であり4)、発症を防ぐために最初の曝露から4日以内に接種することが推奨される。
JYNNEOS®を用いた曝露前予防(PrEP:pre-exposure prophylaxis)も実施されており、感染のリスクのある医療従事者、オルソポックスウイルス(ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属)を扱う検査室スタッフ、mpoxの診断検査を行う臨床検査室スタッフ、感染のリスクのあるゲイ、バイセクシュアル、その他のMSMなどに接種が推奨されている。JYNNEOS®接種資格のある18~49歳の男性(HIVに感染しているか、HIVの曝露前予防の対象となっているゲイ、バイセクシュアル、その他のMSMは接種の資格ありとした)を対象とした曝露前予防の有効性についての研究では、ワクチン未接種者のmpox発生率は、ワクチンを2回接種した人の9.6倍、1回のみ接種した人の7.4倍であった5)。医療機関においても、針刺しによって医療従事者がmpoxに罹患した事例が報告されていることから6)、曝露前予防や曝露後予防が必要となる。
ここで強調すべきことは、「JYNNEOS®を我々がイメージしている天然痘ワクチンと同等ととらえるべきではない」ということである。これまで天然痘ワクチンはヒトの体内で増殖する生ワクチンであった(現在、日本で準備されているLC16m8株もその一つである)。ヒトの体内で増殖することから、被接種者に感染症を引き起こすだけでなく、他の人に伝播する感染性ウイルスを産生する可能性がある。その結果、被接種者ばかりでなく、同居家族などが重篤な有害事象(進行性種痘疹や種痘性湿疹など)を経験するリスクがある7)。免疫不全者(特に、エイズ患者)がmpoxに罹患すると重症化することがあり、そのような人々をmpoxから守りたいが、従来型の天然痘ワクチンは接種できない。しかし、そのような人々にもJYNNEOS®は接種できる。JYNNEOS®は生ワクチンではあるが、複製能力のないワクチンウイルス株(ニワトリ胚線維芽細胞で複製するが、哺乳動物細胞では複製しない)である。すなわち、ヒトに接種しても感染性ウイルスを産生しないので、臨床感染を引き起こさない。そのため、複製能力のあるワクチンウイルス株と比較して、有害事象のリスクが大幅に低い。
従来の天然痘ワクチン(複製能力のあるワクチンウイルス株)では、「アトピー性皮膚炎または他の剥離性皮膚状態」「免疫不全状態」「妊娠中」「1歳未満」の人や、これらの問題を持っている家庭内接触者を被接種者から十分に隔離できないときには接種できなかった。しかし、JYNNEOS®は、感染性ウイルスを産生しないので、接種が可能である。さらに、従来の天然痘ワクチンは二又針での接種が必要であり、接種担当者は接種方法についての訓練が必要である。一方、JYNNEOS®では皮下注射もしくは皮内注射が可能であり、日常的な医療テクニックにて接種できるという利点がある。
COVID-19ワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種
「インフルエンザワクチンとCOVID-19ワクチンを同時接種しても大丈夫か?」と心配をする人が多い。COVID-19ワクチン接種の前後2週間は他のワクチンは接種できないにも拘わらず、インフルエンザワクチンのみを例外としているからであろう。これについて、厚生労働省はCOVID-19ワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種は可能としている8)。単独で接種した場合と比較して、有効性と安全性が劣らないと報告されているからである。しかし、インフルエンザワクチン以外のワクチンは依然として同時接種できないことになっている。米国ではCOVID-19ワクチンの接種が始まった当初は、「COVID-19ワクチンは他のワクチンの接種の前後14日以上の間隔で単独で接種する必要がある」としていた。しかし、現在は米国ではすべてのワクチン(天然痘ワクチンを除く)とCOVID-19ワクチンの同時接種は可能となっている9)。その理由として、CDCは「非COVID-19ワクチンに関する豊富な経験から、ワクチンを同時に接種した場合と単独で接種した場合とで、免疫原性と有害事象のプロファイルは一般的に類似していることが実証されている」「COVID-19ワクチンと季節性インフルエンザワクチンの同時接種とこれらのワクチンの別々の接種を比較した研究では、同等レベルの免疫原性と同等またはわずかに高い反応原性がみられた。そして、特定の安全上の懸念は確認されなかった」と述べている。天然痘ワクチンについては、COVID-19ワクチンの接種後にはいつでも天然痘ワクチンを接種できるが、天然痘ワクチン接種後は、4週間が経過してからCOVID-19ワクチンを接種することを推奨している。これは両ワクチンの接種による心筋炎や心膜炎の心配が残っているためである。
梅毒治療のゲームチェンジャー
梅毒[註釈2]の患者数は2011年頃から増加傾向ではあったが、2022年第1~42週(1月3日~10月23日)に診断された梅毒患者の報告数は10,000人を上回った。このような患者数に到達したのは感染症法が施行された1999年以来初めてのことである10)。
これまで、梅毒の治療としては、アモキシシリン1,500mg/分3の内服を顕症梅毒の第1期は2~4週間、第2期では4~8週間、第3期以降では8~12週間実施することが推奨されてきた。無症候性梅毒は早期潜伏期では4週間、後期潜伏期や感染時期が不明な場合では8~12週間の治療が行われてきた11)。しかし、このような長期間の経口薬治療では、服薬遵守率の低下により治療失敗となる恐れがある。
2022年1月26日より、持続性ペニシリン製剤であるベンジルペニシリンベンザチン(商品名: ステルイズ®水性懸濁筋注)が使用できるようになった。早期梅毒(顕症梅毒の第1・2期および早期潜伏期)であれば単回の筋肉内注射で治療でき、後期梅毒(顕症梅毒の第3期および後期潜伏期)では週に1回、計3回を筋肉内注射で治療を完了できる。殆どの梅毒患者が1回の受診のみで治療を終了できることから、梅毒治療のゲームチェンジャーと言われている。
[註釈2]梅毒には顕症梅毒と無症候性梅毒がある。顕症梅毒では第1期から第4期に向かって進行する。第1期は感染後3週間から3か月までの期間である。この時期は梅毒トレポネーマが体内に侵入したところに、初期硬結(小豆大から人さし指大までの硬いしこり)ができる。第2期は感染してから3か月から3年までの期間である。この時期には皮膚や粘膜に発疹がみられ、発熱、リンパ節腫大、咽頭痛、脱毛、頭痛、体重減少、筋肉痛、倦怠感がみられることがある。第3期は感染してから3年から10年の時期である。このときにはゴム腫とよばれる皮膚の腫瘤がみられる。第4期は感染後10年以降の時期であり、脊髄癆や大動脈瘤などを呈する。無症候性梅毒については早期潜伏期(感染してから1年未満)と後期潜伏期(感染後1年以降)にわかれる。
抗HIV薬の連日内服からの解放(隔月の筋肉注射へ)
HIVの治療薬でも進歩があった。それは、持効性HIV-1感染症治療薬が利用できるようになったことである。これまでは、抗HIV薬を毎日内服する必要があり、出張や旅行の時にも薬を持参する必要があった。抗HIV薬を内服しているということを周囲の人々に気づかれないようにするというプライバシーを守る努力も必要であった。仕事や家庭の状況が忙しいと内服することを忘れることもある。このような状況から脱却できる治療法が始まった。それは、カボテグラビル(インテグラーゼ阻害剤)とリルピビリン(非核酸系逆転写酵素阻害剤)の1か月に1回または2か月に1回の筋肉注射である。2か月に1回のスケジュールで治療する感染者は年に6回の注射を行うことで、毎日の内服薬から解放される。プライバシー、差別・偏見、利便性の理由から、筋肉注射のオプションに関心がある人は、毎日の内服を継続するよりもカボテグラビルとリルピビリンの筋肉注射に大きな満足感を得ることができる12)。
ただし、すべての感染者が利用できるのではなく、ウイルス学的失敗の経験がなく、切り替え前6か月間以上においてウイルス学的抑制(HIV-RNA量が50copies/mL未満)が得られており、HIVがカボテグラビルおよびリルピビリンに対する耐性関連変異を持たない場合に限られる。また、注射を開始する前にはカボテグラビルとリルピビリンの内服薬を1か月服用して、副作用などを確認する必要がある。
参考文献
1)WHO. WHO recommends new name for monkeypox disease https://www.who.int/news/item/28-11-2022-who-recommends-new-name-for-monkeypox-disease Accessed December 12, 2022.
2)Philpott D, et al. Epidemiologic and clinical characteristics of monkeypox cases—United States, May 17–July 22, 2022. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7132e3.htm Accessed December 12, 2022.
3)Thornhill JP, et al. Monkeypox virus infection in humans across 16 countries—April–June 2022. N Engl J Med 2022;387:679–91.
4)WHO. Monkeypox https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/monkeypox Accessed December 12, 2022.
5)Payne AB, et al. Reduced risk for mpox after receipt of 1 or 2 doses of JYNNEOS vaccine compared with risk among unvaccinated persons — 43 U.S. Jurisdictions, July 31–October 1, 2022 https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7149a5.htm Accessed December 12, 2022.
6)Mendoza R, et al. Monkeypox virus infection resulting from an occupational needlestick — Florida, 2022 https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7142e2.htm Accessed December 12, 2022.
7)Rao AK, et al. Use of JYNNEOS (smallpox and monkeypox vaccine, live, nonreplicating) for preexposure vaccination of persons at risk for occupational exposure to orthopoxviruses: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2022 https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/pdfs/mm7122e1-H.pdf Accessed December 12, 2022.
8)厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0037.html Accessed December 12, 2022.
9)CDC. Interim clinical considerations for use of COVID-19 vaccines currently approved or authorized in the United States https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/clinical-considerations/interim-considerations-us.html Accessed December 12, 2022.
10)国立感染症研究所. 梅毒とは https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/syphilis.html Accessed December 12, 2022.
11)日本性感染症学会. 性感染症 診断・治療 ガイドライン2016. 日性感染誌 27(1) supplement http://jssti.umin.jp/pdf/guideline-2016.pdf Accessed December 12, 2022.
12)Gandhi RT, et al. Antiretroviral drugs for treatment and prevention of HIV infection in adults : 2022 Recommendations of the International Antiviral Society–USA Panel. JAMA. 2022 Dec 1. doi: 10.1001/jama.2022.22246.

