HosCom 2023 vol.20 no.1
聞いてみよう!となりの感染対策
新型コロナウイルス禍における手指衛生サーベイランスの重要性
- 原國 政直
- 社会医療法人仁愛会 浦添総合病院 感染防止対策室室長(部長)
※本記事は、「HosCom 2023 vol.20 no.1(2023年3月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに
2019年12月、中国・武漢市にて公式に報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、わずか数か月で世界各地へと感染を拡げ、現在もパンデミックは進行中である。本稿を執筆している2023年1月時点で約3年の月日が経過した。その間に世界や社会ではCOVID-19への感染対策が急務となり、医療機関だけではなく高齢者施設や学校、飲食店等を含む社会全体が“感染対策”を「意識」し「実施」しなければならない状況となっていった。また、当初は高い病原性を認めていたCOVID-19も、オミクロン株への置き換わりとワクチン接種、感染対策等の啓蒙によって、徐々に社会へと浸透しウィズコロナ時代(ポストパンデミック)といわれる状況となった。しかし、そうはいうものの、感染に脆弱な高齢者や免疫抑制者、手術後の患者等が治療を行う医療機関や集団で生活を行っている高齢者施設等において、まだまだ油断ができない現状にある。実際、沖縄県では、ほぼオミクロン株によると考えられる2022年1月から8月29日までのCOVID-19の死亡者208人のうち、入所施設内での感染が92人(44.2%)、医療機関内での感染が49人(23.6%)と高齢者施設や慢性期医療機関が多数を占めている(図1)1)。著者が従事する医療機関においてもCOVID-19によるクラスターを複数回経験した。また、近隣の高齢者施設等への介入を行っていく中で感染対策の難しさを痛感し実感する場面に幾度となく出会った。感染対策の習得は1日にしてならず、泥臭く日々淡々と実施する。また、それを泥臭く確認し評価する。そして、また修正する(いわゆるPDCAを回し続ける)ことが最も重要であると考える。本稿では、平時から求められる感染対策について、著者らの経験や当院のデータをもとに紹介する。
COVID-19禍における浦添総合病院の感染対策の考え方(体制)
沖縄県浦添市にある当院は、334床の病床を有する地域救命救急センター(3次救急)として地域の医療を担わせていただいている。また、2005年に沖縄県ドクターヘリ、2012年よりドクターカーの運用を開始し、沖縄の問題でもある離島で発生した患者の搬送の一助となるよう地域への医療を展開している。
2020年2月にCOVID-19が県内で確認された際には、早急にCOVID-19対策本部を立ち上げた。そこで当院が担うべき医療について幾度となく協議を行い、“選択と集中”をKeywordに、①重症のCOVID-19患者の受け入れ、②重症の非COVID-19患者の受け入れ、③救急医療の継続を軸とした医療提供を行う方針とした。それから約3年間、COVID-19重症患者を中心に受け入れを行ってきた(表1)。正直なところ、当院は築43年経過しており、感染対策に係るハード面への対応は苦慮した。COVID-19患者を受け入れるにあたり対応する職員が罹患することがないよう、事前に手指衛生の再周知及びPPEの着脱訓練を先行して医師、看護師へ行った。その他にZoomによるPPE着脱訓練の動画配信や研修も同時に行い、オンライン研修へと体制をシフトチェンジした。また、各医療機関によって対応は様々であったと思われるが、当院では感染制御チーム(ICT)は非COVID-19患者を中心に感染管理活動を継続してもらい、著者と感染制御認定薬剤師の2名のみがCOVID-19対策本部へ参加する体制を取った。
著者自身、確信していたわけではないが、COVID-19対応病床をいくら確保したとしても陽性患者の紛れ込みが非COVID-19病棟でいずれ発生する可能性があると感じていた。そのため、ICTは一点集中ではなく、病院全体を網羅できる体制を継続していった。
そのなかで、最も重要であったのが手指衛生サーベイランスの継続であった。次項で述べさせていただく。
手指衛生サーベイランスの開始と継続
当院では2016年より直接観察法による手指衛生サーベイランスを開始した。サーベイランス開始の背景には2016年に多剤耐性Serratia marcescens(CRE/CPE)が環境及び患者より複数検出され、病棟間を跨ぐアウトブレイクと判断し、対応した経験がある。その際には、所轄保健所、その他専門機関より助言をいただき終息には至ったが、伝播経路の一つとして手指衛生遵守率の低さが指摘された。また、終息するまでの期間には、入院病床数の制限や環境の洗浄、定期的な環境培養調査等によって経営的ダメージを負った。感染制御の破綻は医療機関の経営ダメージに直結すると考えられる2)。実際にサーベイランスを実施する際に直接観察法の手法をとり、WHOが推奨する医療における手指衛生5Moments3)でサーベイランスを開始した。当初は10部署500場面(1部署50場面)でサーベイランスを開始したが遵守率は40%以下であり(図2)、また、データを収集するための時間もかなり負担となった。著者が一人で実施するには、かなりの業務負担及び効率性の悪さからサーベイヤーを増やす取り組みを開始した。まずは同室の感染管理担当事務職へサーベイランスの目的と手指衛生の5Momentsを教育し、事務職をサーベイヤーとして、感染管理認定看護師でもある著者が正確性の評価を行った。また、現場へのフィードバックは専門職である著者より実施しなければならず、サーベイランス実施後の報告を日々行っていた。
次の取り組みとして院内手指衛生実践指導者の育成に取り組んだ。希望者に対して3回の講義、1回の現場教育(OJT)、最後に実際にサーベイランス実地試験を行い合否の判断を行った。累計25名の手指衛生実践指導者を輩出し、各部門の手指衛生のKeymanとして感染管理活動を行ってもらっている。その後、徐々にではあるが手指衛生場面数を10部署700場面(1部署70場面)まで増やし、データの正確性を担保した(図3)。結果に関しても、院内感染対策委員会、看護・医療技術部門感染対策定例会、ICT/ASTカンファレンスで報告を行いつつ、各部署の特色に応じたフィードバックを展開していった。COVID-19が沖縄県で猛威を振るった期間においては、感染防止対策室のBCPを発令し業務を縮小しつつも機能維持に努めた。しかし、手指衛生サーベイランスに関しては確認場面数を減らすことはあってもサーベイランスを止めるということはなかった。
継続から見えてきたものと展望
感染管理に携わる我々は、常に現場に足を運び、現状を自分の視覚で確認し、スタッフとの対話により問題の抽出に努めなければならない。COVID-19入院患者が増えても、非COVID-19患者も医療機関に入院している。どちらかを選択するのではなく、どちらにも対応しなければならないと著者は考える。そのためには、根拠のあるデータを数値で算出し、それを基に現場スタッフや病院運営に携わる幹部の方々を納得させなければならない。感染対策に根拠を見出すためにはデータが必要であり、また、病棟スタッフの頑張りに対してもしっかりとしたデータで還元する必要がある。
最後に、ただ手指衛生サーベイランスを実施するのではなく直接観察法のメリット(現場で直接スタッフと対話ができる)を十分に活用し、COVID-19禍でスタッフが集団で集まれないことによる不安や相談、悩み等を傾聴していく大事な機会になったと著者は考える。
参考文献
1)厚生労働省. 第97回(令和4年8月31日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料3-7. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000983454.pdf. 2023年1月4日現在.
2)笠間修一. 病院内の感染対策費用の内訳に関する文献検討. 東邦大学健康科学ジャーナル. 2021;4:27-35.
3)S Salmon, D Pittet, H Sax, et al. The‘ My five moments for hand hygiene’ concept for the overcrowded setting in resource-limited healthcare systems. J Hosp Infect. 2015;91(2):95-9.
4)APIC. 感染予防のための手指衛生プログラムガイド, P53-57 https://www.goodhandhygiene.jp/wp-content/uploads/APIC_Guide.pdf. 2023年1月4日現在.

