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HosCom 2023 vol.20 no.1

特集

「Clostridioides difficile 感染対策ガイド」 座談会

三鴨 廣繁
愛知医科大学 医学部 臨床感染症学講座 主任教授(司会)
國島 広之
聖マリアンナ医科大学 感染症学講座 主任教授
山岸 由佳
高知大学 医学部 臨床感染症学講座 教授

※本記事は、「HosCom 2023 vol.20 no.1(2023年3月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

2022年9月、日本環境感染学会より「Clostridioides difficile 感染対策ガイド」が公開されました。本ガイド作成の背景や各推奨項目における見解、議論になったポイント等に関して座談会が開催されました。
(座談会開催日:2023年1月13日)

三鴨(司会):本日は日本環境感染学会より発行されました「Clostridioides difficile 感染対策ガイド」について座談会を開催することになりました。本ガイドライン策定の委員長をお務めになられた國島先生より全体の概要について、山岸先生には総論のポイント、佐藤先生には主にクリニカルクエスチョンで議論となった手指衛生について解説いただき、ディスカッションいたします。

Clostridioides difficile感染対策ガイドの概要

國島:2018年に日本化学療法学会と日本感染症学会から「Clostridioides(Clostridium) difficile 感染症診療ガイドライン」(2023年1月に改訂)が公開されましたが、Clostridioides difficile(以下C. difficile)は感染対策も非常に重要であることから、そのガイド作成についても多くの方からご要望いただき、日本環境感染学会で感染対策を主としたガイドの作成に至りました。基本的な診断と治療は、日本化学療法学会・日本感染症学会のガイドラインを踏襲しています。
本ガイドの特徴として、最初にC. difficile感染症(以下CDI)を疑う感染性下痢における感染対策のフローチャートを示しました。現場看護師に協力いただいてブリストルスケールという下痢の客観的な評価を行い、患者の状況や抗菌薬使用の有無、使用抗菌薬の種類、再発リスクの有無等を含めて丁寧に評価をします。感染症が否定できない場合は、早めに隔離予防策などの感染対策や検査を行うことが推奨されます。CDIと判断された場合に感染対策を継続する期間についても記載しています。検査は、GDH※1や新型コロナウイルス拡大の影響で多くの病院で導入されている遺伝子検査を活用することで、より迅速に診断と治療を始めることが可能です。
その他、CDIは腸内細菌叢の関与が大きく、再発しやすい疾患であるため、再発時の治療指針も紹介しています。また、C. difficileは芽胞形成菌のため、感染対策の1つとして、アルコール手指消毒薬による日常の手指衛生だけではなく、流水と石鹸による手洗いの確実な実施が求められます。そして、個人防護具の取り扱いや新たな消毒技術の活用、保菌者への対処方法や抗菌薬の適正使用も含めて包括的なコントロールが必要であることを示しています。なお、C. difficile感染対策に関する国内外のエビデンスが十分ではないため、今後の研究の推進等により改訂につなげる必要性についてもガイド作成時に議論させていただきました。
※1. C. difficile抗原と呼ばれているグルタメートデヒドロゲナーゼ

総論の概要

三鴨:主に総論を担当された山岸先生より、微生物学的な特性なども含めて総論の概要について解説をお願いします。
山岸:総論では菌の特性から伝播経路、感染管理の総括的なことを記載しており、委員の先生方と菌の特性や日本の医療施設の現状などを踏まえて議論・検討しました。C. difficileは嫌気性菌であり、芽胞を有することが特徴です。そして、容易に伝播する理由の1つとして、アルコールによる消毒が無効であることが挙げられます。菌自体が環境中で非常に長く生存することも感染対策上重要で、CDI患者を個室で管理するのか大部屋でよいのか、普段の日常清掃や退院後のターミナル清掃をどこまで行うべきか、そして症状のある患者にはどれぐらいの期間感染対策を継続したらよいかについて網羅しました。特に、私が担当したCDI伝播のリスク因子では、C. difficileの伝播経路を図示しています。C. difficileは病院だけで感染するわけではなく、病院外の土壌、河川や排水の処理プラント、子供たちが遊んでいる砂場、または畜産や食肉などにもC. difficileが存在していることから家庭内でも伝播します。環境や患者、医療従事者から容易に伝播するため、その対策はとても重要です。特に日本では疫学上、65歳以上の高齢者にC. difficileが多いことがわかっています。本ガイドでは、寝具や医療器具の消毒に対してどのような消毒方法がよいのかについても示しております。また、個人防護具の着用、その後の手指衛生について細かくクリニカルクエスチョンで取り上げています。日本で初めてのガイドになりますので、医療施設、家庭でもこのガイドが是非活用されることを期待しています。
三鴨:具体的な内容についても議論したいと思います。欧米諸国にはC. difficileに関するガイドラインが既にありますが、日本と欧米ではC. difficileの微生物学的な特徴が全く違うこと、日本は個室が少ないなど医療環境が異なる等の理由で日本の実情に合わせたガイドラインが必要であることから、この感染対策ガイドを作成しました。日本と欧米諸国におけるC. difficileの疫学的な違いについて、本ガイドに記載されているタイピング所見とトキシン産生性との関係(表1)も含めて解説をお願いします。
山岸C. difficileには、トキシン産生株と非産生株があり、CDI診療での検査対象となっています。また、バイナリートキシンという第3のトキシンを産生する株が知られており、この株はトキシンA、Bを過剰に産生します。世界的には北米、欧州で拡がっているタイプで、表1のように海外ではアウトブレイク株として注目されており、リボタイプは、027を中心にいくつか報告されています。日本では特にバイナリートキシンは問題にはなっておらず、クレード1の018タイプが中心で、クレード4では369タイプが多く、日本と欧米諸国に違いがあることがわかっています。

表1 Clostridioides difficileタイピング所見とトキシン産生性との関係

バイナリートキシン産生株検出時の対応

三鴨:日本ではバイナリートキシン産生株が少ない現状もありますが、バイナリートキシン産生株検出時にどのように対応するかなども総論で述べました。実際、愛知医科大学病院ではバイナリートキシン株のアウトブレイクも経験していますが、その時の対応や所感について山岸先生お話いただけますか。
山岸:前任の施設では、C. difficileに感染している場合、全例でバイナリートキシンも含めて調査し、バイナリートキシン陽性の場合は症状の有無に関わらず、個室で対応するというルールを設けていました。ある時、大部屋に入院している患者がバイナリートキシン陽性であることが判明したため、速やかに個室に移動して対応しましたが、同時期にバイナリートキシン陽性で症状がある別の患者もいることがわかりました。同じ病棟で同時期に2名のバイナリートキシン陽性患者が出ることは異常事態であり、全症例にスクリーニングを行った結果、複数名がバイナリートキシン陽性となりました。様々な対策を取りましたが、消毒薬を用いた環境整備において拭き残しなども多く見られたため、日常清掃後に過酸化水素噴霧や紫外線照射といったターミナル清掃を追加して除菌しました。また、ペルオキソ一硫酸水素カリウム製剤を用いて環境清拭しても除菌できないことが明らかになったため、次亜塩素酸ナトリウムを使用しました。このバイナリートキシン株によるアウトブレイクは、清掃手順について非常に考えさせられた事例でした。
三鴨:伝播を考えた場合、病院内や市中だけでなく環境も含めた3方向からのワンヘルスのアプローチも大切といえます。愛知医科大学病院でのアウトブレイクの事例については、日常清掃の他にターミナル清掃の重要性がわかりました。さらに、感染対策も科学する時代になっているといえます。ご存知のように、MRSAでは、いつ誰に、どこから拡がった等の伝播経路の追跡ができます。C. difficileの場合は簡単に培養ができず、原因究明が難しかったのですが、現在は分子疫学タイピングの実施が可能になりました。本ガイドにはその手法について分かりやすく記載されています(表2)。タイピングと言うと、MRSAでもPFGE法(パルスフィールドゲル電気泳動法)を主に実施してきましたが、結果が出るまでに4日以上かかるため、アウトブレイク時には向いていないと考えます。特にC. difficileのPFGE法はテクニックを要します。恐らく世の中で最も実施されているのはPOT法かと思われます。POT法については正確性に議論がありますが、よく使用されるようになってきたため、本ガイドに記載しました。山岸先生のご施設はPOT法を採用されているとのことですが、詳しく説明していただけますでしょうか。
山岸C. difficileには実施していませんが、施設内でMRSAの伝播があり、検査技師の方でPFGE法の対応が困難とのことでしたので、POT法を導入しました。POT番号は地域の流行と関連性があるため、POT番号が一致しているからといって院内伝播を正確に把握しにくい現状があります。とはいえ、同じPOT番号で伝播が継続している場合、やはり対策を取らなければなりません。その際には施設内の番号だけを見るのではなく、各地域の状況を踏まえて自施設のデータを確認しています。
三鴨:山岸先生のお話のように、POT法は施設内での伝播状況をある程度把握するにはよいのですが、地域で同じ株が流行していたら同じPOT番号が出てくるため、それは本当に院内でのアウトブレイクなのかという議論があります。今後、どのPOT番号が日本のどの地域にどのように分布しているかを学会として公表していく必要性があると思っています。國島先生が委員長で日本のリボタイピングを調べようと合同サーベイランスを企画されておられますが、私はそれに加えてPOT番号の日本の分布状況も調べていくとよいと思っています。
國島:地域によって検出される株が違うので、それを見える化することは極めて重要ですね。

表2 C.difficile の主要なタイピング手法

ブリストルスケール活用の重要性と課題

三鴨:これまで、総論の大まかな内容について確認しましたが、基本的に、C. difficileはまずは見つけることが重要です。そのためには看護師の協力も大切です。聖マリアンナ医科大学では、器材やPPEが置いてある棚にブリストルスケール表が貼ってあり、看護師に正確に評価してもらうために非常に良い取り組みをされています(写真2)。 愛知医科大学病院も便の回数を記録しています。その際、「BS5が3回」というように分かりやすく記載するようお願いし、1年かけてようやく定着してきました。佐藤先生、ブリストルスケール関連の看護学生への教育についてどのようにされていますか。

写真2 ブリストルスケール表

佐藤:看護基礎教育で学生が使う教科書にブリストルスケールの記載はほとんどなく、商業誌の一部に記載があるのみです。そのため、教育が十分に実施されているとはいえない状況です。教員にヒアリングすると、ブリストルスケールを大切だと考える教員は、教育内容に加えていました。また、数年前に看護師を対象に全国調査したところ、その活用頻度は50%を切っている状況でしたので、三鴨先生がおっしゃったように、ブリストルスケールをどのように活用、定着させていくのかが重要になると思います。
三鴨:やはり、ブリストルスケールについて浸透していないのが現実だと思います。特に学生の教育がまだまだ浸透していないところが問題ですね。やはり、C. difficileでアウトブレイクが起きたら困るので、特に学生から教育していくことがCDIにおいては極めて重要だと思います。
佐藤:そうですね。病態と観察を関連づけて考えていく学習が不可欠になると思います。抗菌薬の投与によって偽膜性腸炎を起こすことがある、といった基本的な知識を持ってブリストルスケールを活用し観ていくことが重要です。また、抗菌薬に関しての教育も看護学生には多くの課題があります。
山岸:ブリストルスケールについて、提案したいことがあります。多くの病院で導入されている電子カルテにBSの記載欄を設けて入力できるようにすればどうかと思っています。
國島:ブリストルスケールを普段から活用することは、アウトブレイク時の対応として非常に重要と考えます。バイナリートキシンが検出されると検査が増えるため、普段から下痢をしているのか、バイナリートキシンの検査をするようになったからC. difficileが見掛け上増えているのかがわかりにくくなります。つまり、普段からきちんと下痢のサーベイランスができていることが、アウトブレイク時の判断にとても大事になってきます。20年ほど前から大腸内視鏡検査が多くなったことにより、C. difficileが増えたように見えていましたが、実際には元々いたのです。アウトブレイク対応時にも事前の客観評価が重要です。
三鴨:教育が重要なことがこの座談会で明らかになりました。本ガイドを改訂するとしたら、総論の部分に教育を新たな課題として入れなければいけないですね。もうひとつ、私が総論部分で気になるのは、ブリストルスケールで判定して、CDIを疑った時の検体採取量についての記載がないことです。山岸先生、この点についてはいかがでしょうか。
山岸:検体は乾燥させないようにすることが重要です。例えば、採取してから24時間以内、もしくは48時間以内に提出する必要があります。また、検体採取量や保存温度もとても重要ですがこれらに関する記載はありません。C. difficileの際の検体採取量は当院では拇指頭大の量にしています。
三鴨:検体採取の際に1番してはいけないのはスワブで便検体を出すことです。スワブでもGDHやトキシンの検査ぐらいはできますが、追加検査を実施して信頼できる結果を得るためには拇指頭大の量を取ることが重要です。加えて、保存方法等も記載が抜けており、次回改訂時には検討が必要ですね。

写真3 座談会の様子

クリニカルクエスチョンの概要

國島:CDI対策を行う上で、医療従事者の理解が極めて重要ですので、そういった部分をクリニカルクエスチョンで取り上げました。CDI患者ケア終了時の医療従事者の手指衛生について、流水と石鹸の手洗いの後にアルコール手指消毒は必要か?、個人防護具では、エプロンを着用した際に便が上腕に付着する可能性があるためガウンを着用すべきか?、接触予防策については、治療中だけでなく治療後も便や環境からC. difficileが検出され続けることがわかっているため、改善したら接触予防策をやめてよいか?、CDI患者または疑い患者に対して、日本では個室が少ないためコホーティングが選択され得るか?、など、これらのエビデンスの有無についても話し合い、日本の実情と専門家の意見を踏まえて「推奨」と「強さ」を記載しました。また、医療機器、便器の専用化やそれらの消毒方法、療養環境では、次亜塩素酸ナトリウムなど効果がある消毒薬を用いるべきであることも明記しています。加えて、近年話題になっている過酸化水素噴霧装置、紫外線殺菌照射機器使用の有効性もお示しをしました。その他、保菌患者に対する検査の有用性や陽性の場合の対応方法、アウトブレイク時の病棟閉鎖や病棟稼働制限の要否について、環境の微性物検査、遺伝子検査、バイオ検査の有用性等、様々な感染対策を包括的にまとめています。

手指衛生

三鴨:CDIの感染管理では手指衛生が1番大きな話題になります。この部分について、中心になりクリニカルクエスチョンの回答を作成いただきました佐藤先生より解説お願いします。
佐藤:手指衛生に関するクリニカルクエスチョン「CDI患者ケア時の医療従事者の手指衛生は流水と石鹸のみで良いか?」について、参照した文献も紹介しながら説明します。
手指衛生は、CDIの感染管理の中でも、C. difficile伝播の大変重要な予防策になります。しかし、C. difficileは芽胞形成菌で消毒薬に強い抵抗性を示すため、CDI患者ケア終了時に手袋を外した後は、流水と石鹸での手指衛生が不可欠になりますが、ガイドライン策定委員会では、CDI患者ケア時の医療従事者の手指衛生は、流水と石鹸のみで良いのかという問いを立てて検討した次第です。その結果、流水と石鹸での手指衛生後、アルコールによる手指衛生の実施を弱く推奨するという結果に至りました(エビデンスの質としては専門家の推奨)。
まず、C. difficileの除菌効果はアルコール手指消毒薬による手指衛生よりも流水と石鹸での手指衛生の方が高いことが報告されています。ボランティアを対象とした手指衛生の無作為化クロスオーバー比較試験では、C. difficileの減少効果は普通石鹸とぬるま湯が1番高く、次いで普通石鹸と水が高く、アルコール手指消毒薬での手指衛生では低いという結果が示されています1)
次にMcfarlandの調査では、CDI患者をケアする医療従事者35人中、ケア前に1人、ケア後には新たに20人の手指からC. difficileが検出されています。患者接触時に手袋を使用していなかった医療従事者の手指からは、ケア後に流水と石鹸で手指衛生を実施したにも関わらず、C. difficileが検出されていますが、手袋を使用していた医療従事者からは検出されていません2)。このように手袋の未使用は、医療従事者の手指がC. difficileで汚染される重要なリスクファクターとなります。ただ、CDI患者との接触頻度が多い場合は、手袋を使用しても医療従事者の手指はC. difficileで汚染されることが報告されています3)。そのため、CDI患者ケア終了時、手袋を外した後は、流水と石鹸での手指衛生が推奨されます。
次に議論されたのが、C. difficileと耐性菌の共感染の問題です。主な耐性菌としてVREとの共感染が報告されています4)。また、医療従事者のMRSAの保菌率は5%前後で、特に患者と接触する頻度が高い看護師等は他職種よりも保菌率が高いという報告があり5)、策定委員会では、耐性菌伝播の観点を加えた手指衛生が必要であるとの見解に至りました。アルコール手指消毒薬による手指衛生の導入でMRSAやVREの感染率が有意に減少することが報告されています6)。以上より、CDI患者ケア終了時、手袋を外した後の手指衛生は、流水と石鹸での手指衛生後、アルコールによる手指衛生の実施を推奨するという見解に至りました。ただし、流水と石鹸での手洗い後にアルコール手指消毒を行うことで、耐性菌の伝播リスクを低減させるエビデンスは今のところ見当たりませんので、専門家の推奨になりました。
三鴨:本ガイドではC. difficileと耐性菌の共感染等のデータから、CDI患者ケア後の手指衛生後、アルコール手指消毒薬の実施を弱く推奨するとなりましたが、これについて皆さんコメントありますか。
國島:ここでは、耐性菌の検出状況によって変わるのか、日本の耐性菌検出状況はどうかのデータがあまりお示しできませんでした。高齢者ではESBLの共感染がリスクとして多いですが、このデータも示されていません。
三鴨:確かにそうです。今後エビデンスを出していかないといけない点かもしれません。その他について議論はありますか。佐藤:はい、手荒れの問題についてです。流水と石鹸の手洗いは、手荒れを起こしやすく、皮膚への刺激や乾燥をきたしやすいといわれています。お湯で洗う方が除菌効果は高い傾向にありますが、お湯は皮脂も落としやすいです。さらに、手洗い後にアルコール手指消毒薬での手指衛生を加えると手荒れを助長させることがあるので、CDI患者ケア時に行うとしており、日常的に推奨されるものではありません。
手荒れを起こすと手指に微生物が付着しやすくなり、医療従事者は手荒れによる苦痛も伴うので、手荒れ対策は非常に大切です。手指衛生で使用する製品は低刺激性や保湿成分が入ったものを選択します。また、手指衛生前後のハンドケアも必要になると考えます。この部分について本ガイドでは触れていませんが、とても重要です。
三鴨:そうですね。改訂の際の検討項目に入れていただければと思います。
國島:そもそも流水と石鹸による手指衛生に時間をかけて洗えていない中で、アルコールによる手指衛生を加えるのは、さらにコンプライアンスが期待できないのではという議論もありました。
三鴨:そうですね。医療従事者がそこまでしてくれるのかといった議論もありました。これについては、永遠の課題だろうと思います。では、佐藤先生、クリニカルクエスチョンにあるCDI患者自身の手指衛生についてはいかがでしょうか。
佐藤:CDI患者が行う手指衛生は、流水と石鹸での手指衛生を弱く推奨します。日常的に流水と石鹸での手指衛生が困難な場合には、その代替として単回使用のワイプ、ウェットティッシュ等での手指の拭き取りも可能なことを記載しています。
C. difficileを含めた医療関連感染を引き起こす病原体は患者の腕、腹部、陰部など、体全体の皮膚、手指からも検出されています7)。そのため、患者の手指衛生が重要になりますが、十分に行われていない現状があります。単施設での調査ですが、入院患者の療養生活では、自宅での生活よりも手指衛生を実施できていないとの回答が報告されています7)。そのため、患者やその家族の手指衛生を促進する取り組みが重要で、患者への手指衛生強化の取り組み、訪問者への手指衛生のリマインドを実施した結果、介入前後でCDI感染率が有意に低下したことが報告されています8)。患者の手指衛生を促進することは、C. difficileの伝播を予防するためにも重要であるといえます。以上のことから策定委員会では、CDI患者及び無症候性C. difficileキャリアに流水と石鹸での手指衛生を推奨しています。
三鴨:CDI患者の手指衛生について諸外国のガイドラインには記載がありませんが、本ガイドではクリニカルクエスチョンを作成し、回答を作っていただきました。これについてご意見はいかがでしょうか。
國島:CDIは無症候性キャリアからの感染もあります。手指衛生は日頃から行うものであって、C. difficileが確認されたから手指衛生をするということではないと考えます。日常的に病原体の有無に関わりなく手指衛生をしてください、というようにした方が良いかと思います。
三鴨:確かにそうですね。それを皆さまに認識いただくのは今後も大きな課題の1つです。患者であっても医療従事者であっても、ユニバーサルハンドハイジーンがやっぱり大事だ、ということをお伝えしたいです。

環境整備

三鴨:清掃関連についてもクリニカルクエスチョンで取り上げています。特に強調したいことは、日常清掃とターミナル清掃を分けて考えることです。
先ほどのバイナリートキシン株アウトブレイク時の清掃について山岸先生からお話をいただきましたが、その時は、ペルオキソ一硫酸水素カリウム製剤を使って清掃しても芽胞が残ったのが1番大きな課題でした。芽胞が残った箇所は、患者の部屋で、テレビリモコンの凸凹などの隙間とトイレの自動タッチパネルの隙間でした。この事例から、隙間など凸凹があるものは、表面を拭くだけでは十分に芽胞を除去できず、アウトブレイクは継続してしまうため、ターミナル清掃が必要です。本ガイドのクリニカルクエスチョン中でターミナル清掃に用いる過酸化水素噴霧装置や紫外線殺菌照射機器について記載をしており、反響が大きかったですね。実際、私どもの施設は、バイナリートキシン陽性の患者が退院した後の部屋やアウトブレイク時は過酸化水素噴霧装置を使用することにしています。聖マリアンナ医科大学は、CDI患者の部屋のターミナル清掃について、どのように決めておられますか。
國島:COVID-19患者やCDI患者の部屋など環境感染対策が必要な清掃について、当院では過酸化水素噴霧装置を使用しています。この部分のクリニカルクエスチョンの推奨度は「実施しないことを弱く推奨する」との記載になっており、実施するなと言っているように見えてしまいますがそうではないということをお伝えしたいです。
三鴨:この表現について、各方面から指摘がありました。推奨度について少し分かりづらい記載ですが、誤解のないようにしていただきたいです。過酸化水素噴霧装置や紫外線殺菌照射機器の使用を推奨しないといっているわけではありません。
國島:病室やその部署の特性に合わせて選択するとよいので、病院ごとに対応を検討してマニュアル化する必要があると思います。
三鴨:そうですね。ターミナル清掃については、このガイドで強調したかったことの1つです。さらに、保菌調査やアウトブレイク時の検査について議論があったと思いますが、本ガイドの委員長として、國島先生のお考えはいかがでしょうか。
國島:検査はアウトブレイク時に限定しています。病棟を管理する側や患者にとって負担が多くなるので、日常的には確認しなくてもよいとしています。ただ、強毒株が出た時や、検出が多い時は、全体的な分子疫学調査を検討することは当然あると思います。
三鴨:本ガイドでは、アウトブレイク時に保菌者調査や環境調査はエビデンスがないということを記載していますが、実施することを否定しているものではありませんので、補足しておきたいと思います。

おわりに

三鴨:本ガイドのクリニカルクエスチョンは、「推奨」と「強さ」の部分だけを読むのではなく、エビデンスの要約など本文までしっかり読んで判断してほしいと思います。本日の座談会は本ガイドのエッセンスを皆さんにご理解いただく一助として、また次回の改訂にもつなげられる大変有意義な座談会となりました。本ガイドによってCDIの対策が一般的になり、標準化につながることが我々策定委員の望みです。本日はありがとうございました。

左から
高知大学 医学部 臨床感染症学講座 教授 山岸 由佳 先生
愛知医科大学 看護学部 感染看護学 教授 佐藤 ゆか 先生
愛知医科大学 医学部 臨床感染症学講座 主任教授 三鴨 廣繁 先生(司会)
聖マリアンナ医科大学 感染症学講座 主任教授 國島 広之 先生

参考文献

1)Oufhton, et, al Control Hosp Epidemiol. 2009. 30(10). 939-44
2)Mcfarland, et al N Engl J med 1989. 320(4)201-10
3)Landelle, et al. Infect Control Hosp Epidemiol. 2014. 35(1). 10-5
4)Fujityani, et al. Am L Infect Control 2011. 39(3). 189-93
5)Amorim, et al. 2009;Verwer, et al. 2012;Sassmannshausen, et al. 2016
6)Gopal, et al. 2002;Gordin, et al. 2005;Kaier, et al. 2009
7)Istenes, et al. Am J Infect Control 2013. 41. 793-8
8)Porkrywka, et al. Medsurg Nurs 2014. 23(3). 145-64

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