環境管理
解説
答え:×
床はほとんど手が触れない環境表面であり1)、床に存在する微生物が直接的に病院感染に関与する可能性は低いと考えられます2)。床は定期的に、また汚染時および退院時に清掃します3)。一方、微生物の伝播に関与するリスクが高い、手が頻回に触れる環境表面であるドアノブ、ベッド柵、床頭台のテーブルなどは、手があまり触れない床よりも頻繁に清掃・消毒します1)。
- Sehulster L, et al. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations of CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). CDC 2003. https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/environmental-guidelines-P.pdf. accessed Oct 2, 2020.
- 一山智. 患者環境の清潔管理(リネン類含む). エビデンスに基づいた感染制御第1集基礎編. 小林寬伊 編集, 厚生労働省医薬局安全対策課 編集協力. メヂカルフレンド社. 2003.; 71-80.
- 大久保憲, 他 編集. 2020年版消毒と滅菌のガイドライン. 東京: へるす出版 2020.
解説
答え:×
高水準消毒薬は、毒性が高いため環境の消毒に用いてはいけません1)。環境表面はスポルディングの分類*でノンクリティカルに該当します2)。したがって、通常は洗浄剤あるいは第四級アンモニウム塩および両性界面活性剤といった低水準消毒薬を用いて処理します。また対象微生物によっては、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムなどの中水準消毒薬を用います。
低水準消毒薬は、MRSAや大腸菌などの細菌に有効です2)。アルコールは、一般細菌に加えてインフルエンザやコロナウイルスなど多くのウイルスにも有効です。アルコールの効きにくいノンエンベロープウイルス(ノロウイルスなど)には0.1 %次亜塩素酸ナトリウムを用い2)、それらの感染予防対策としてノンエンベロープウイルスに対する効果を高めた製剤(サラサイド除菌クロスなど)の使用が可能です。芽胞を形成するクロストリディオイデス・ディフィシルには、0.1 %次亜塩素酸ナトリウムを用います2, 3)。
*スポルディングの分類とは、汚染による感染の危険度に応じて医療器材を「クリティカル」「セミクリティカル」「ノンクリティカル」の3段階に分類したもので、それぞれに応じた処理水準(処理方法)が設定されています2, 4)。
- Sehulster L, et al. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations of CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). CDC 2003. https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/environmental-guidelines-P.pdf. accessed Oct 2, 2020.
- 大久保憲, 他 編集. 2020年版消毒と滅菌のガイドライン. 東京: へるす出版 2020.
- CDI診療ガイドライン作成委員会編集. Clostridioides ( Clostridium ) difficile 感染症診療ガイドライン. 東京: 公益社団法人日本化学療法学会, 一般社団法人日本感染症学会 2018.
- 島崎豊, 他. 医療器材の洗浄から滅菌まで. 東京: ヴァンメディカル 2013.
解説
答え:×
環境表面への消毒薬(除菌剤)の噴霧(スプレー)は効果が不確実であること、また作業者に対する吸入毒性から、原則行ってはいけません1, 2)。環境表面の消毒にスプレー式の製品を用いる場合は、対象物に対し部分的に薬液をスプレー後クロスで拭き上げる、あるいはクロスに薬液をスプレーして対象物を清拭することで、対象物表面に薬液を均一にいき渡らせます。また、作業者は手袋およびマスクなどの個人防護具を装着し、薬液の曝露を防止します。最近では、薬液をクロスに含浸させた製品が販売されているため、これらを用いて環境表面を清拭消毒(除菌)する方法が便利です。また、空間への消毒剤の噴霧は不確実な方法であり、推奨されていません1,2)。空気中の汚染を減らす方法としては、フィルターや紫外線殺菌照射装置の使用などがあります。
- Sehulster L, et al. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations of CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). CDC 2003. https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/environmental-guidelines-P.pdf. accessed Oct 2, 2020.
- 大久保憲, 他 編集. 2020年版消毒と滅菌のガイドライン. 東京: へるす出版 2020.
例)クロス製品
・サラヤ環境清拭クロスPREMIUM CLEANING
・サラヤ環境清拭クロス
・サラサイド除菌クロス
・サラヤエタノールクロス80
・サラヤジアクロス
解説
答え:×
広い環境表面の消毒にアルコールを用いてはなりません1)。アルコールは引火性があり、また広範囲に用いると吸入毒性の問題もあるため2, 3)、高頻度接触表面(ドアノブ、手すり、ベッド周辺など)など部分的な使用にとどめます。
- Sehulster L, et al. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations of CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). CDC 2003. https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/environmental-guidelines-P.pdf. accessed Oct 2, 2020.
- 大久保憲, 他 編集. 2020年版消毒と滅菌のガイドライン. 東京: へるす出版 2020.
- 社団法人日本病院薬剤師会編集. 消毒薬の使用指針第三版. 東京: 薬事日報 1999.
解説
答え:○
環境中の微生物はほこりと水分によって生存するため、環境表面の清掃は汚染やほこりが無いように清掃し、微生物を生かさないことが重要です1)。
- 国公立大学附属病院感染対策協議会 編集. 病院感染対策ガイドライン2018年版. 東京: じほう 2018.
解説
答え:×
シンクは、多剤耐性グラム陰性桿菌伝播の原因となり得ます1)。シンクなどは常に湿潤しており、ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌と腸内細菌科細菌が繁殖しやすい箇所であるにもかかわらず、患者や医療従事者のエリアに近接しており、これらの菌の伝播のリスクがあります。実際に、MDRAのアウトブレイクの原因がシンクの排水管の汚染であったとの報告もあります。したがって、シンクなどは洗浄剤または消毒薬を用いて清掃し、乾燥させます1, 2)。そして、シンクの水分をすべて拭き取りアルコール消毒するなど湿潤状態を断ち切る対応を考慮することが勧められています1)。
- 一般社団法人日本環境感染学会多剤耐性菌感染制御委員会. 多剤耐性グラム陰性菌感染制御のためのポジションペーパー第2版. 環境感染 2017; 32 suppl.
- CSehulster L, et al. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations of CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). CDC 2003. https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/environmental-guidelines-P.pdf. accessed Oct 2, 2020.
解説
答え:○
嘔吐物にはノロウイルスなどの微生物が含まれている可能性があるため、0.1%次亜塩素酸ナトリウムを用いて処理しますが、次亜塩素酸ナトリウムは、嘔吐物などの有機物(汚れ)によって不活化されやすい消毒薬です1)。したがって、まずペーパータオル等で嘔吐物を取り除いた後に次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒を行います。
- 大久保憲, 他 編集. 2020年版消毒と滅菌のガイドライン. 東京: へるす出版 2020.
吐物処理の方法は下記リンク先からご覧いただけます。
例)①汚物・吐物の処理方法(動画:4分39秒)
②次亜塩素酸ナトリウム製品
・ヤクラックスD液1%
・ジアノック
・サラヤジアクロス
・ジアクリーン泡1000
解説
答え:○
汗を除くすべての血液、体液、排泄物等の湿性生体物質は、感染性微生物を含んでいる可能性があります1)。そのため湿性生体物質を清掃する場合は、直接湿性生体物質が手に触れないように手袋を装着します。また必要に応じて、体を守るためにガウンまたはエプロン、口や鼻の粘膜を守るためにマスク、眼の粘膜を守るためにゴーグル等の個人防護具を着用します2)。 血液などの湿性生体物質の処理には、次亜塩素酸ナトリウムを用います2-4)。湿性生体物質を除去後に消毒する場合、0.05~0.1%次亜塩素酸ナトリウムを用いて清拭します。湿性生体物質を除去せずに消毒する場合は、0.5~1%次亜塩素酸ナトリウムを用いて清拭します。この場合は、2度拭きが望ましいです3)。
- Siegel JD, et al. 2007 Guideline for isolation precautions: preventing transmission of infectious agents in health care settings. CDC 2007. https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/isolation-guidelines-H.pdf. accessed Oct 2, 2020.
- ehulster L, et al. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations of CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). CDC 2003. https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/environmental-guidelines-P.pdf. accessed Oct 2, 2020.
- 大久保憲, 他 編集. 2020年版消毒と滅菌のガイドライン. 東京: へるす出版 2020.
- ヤクラックスD液1%添付文書. サラヤ㈱. 2013年12月改定(第3版).
例)次亜塩素酸ナトリウム製品
・ヤクラックスD液1%
・ジアノック
・サラヤジアクロス
・ジアクリーン泡1000
解説
答え:×
清拭清掃の際は汚染を広げないように、上から下へ、奥から手前へ、清潔箇所から汚染のひどい箇所へ、一方向に清拭することが重要です1)。
- 大久保憲, 他 編集. 2020年版消毒と滅菌のガイドライン. 東京: へるす出版 2020.
解説
答え:×
清掃に使用した雑巾やモップは、必ず洗浄と消毒を行い、次の使用までに乾燥させます1, 2)。雑巾やモップを濡れたままにしておくと、微生物で汚染され、次に使用する時に汚染を広げる可能性があります1)。消毒方法は熱水洗濯(80℃、10分間)あるいは、洗浄後、次亜塩素酸ナトリウム0.1%(1,000ppm)に30分間以上浸漬させます2)。第四級アンモニウム塩、両性界面活性剤などの使用も可能です。コストが許せば、使い捨てのクロスやモップを用います1)。
- Sehulster L, et al. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations of CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). CDC 2003. https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/environmental-guidelines-P.pdf. accessed Oct 2, 2020.
- 小林寛伊 編集. 新版増補版消毒と滅菌のガイドライン. 東京: へるす出版 2015.