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[号外]新型コロナウイルスの箕面市立病院での対応(2020年4月)

箕面市立病院 感染制御部副部長 感染管理認定看護師
四宮 聡

はじめに

この原稿執筆時点(4月18日)でも全国的に新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)患者数は減少傾向とは言えない状況です。4月7日に7都府県で、4月16日には全都道府県で緊急事態宣言が発出され、今後の患者発生数の減少が期待されるところですが、当面患者数は増加し、外来・入院ともに相応の対応をしなければならないでしょう。今回は、箕面市立病院の外来・入院での対応を中心にご紹介したいと思います。この内容は、病院規模や地域での発生数、受け入れの病床数など種々の状況によって参考になる点や程度が異なることをご承知おきください。

1)外来エリアと動線

COVID-19疑い患者とその他の患者の動線を分離した方がよいことは、周知のとおりです。⽇本環境感染学会の「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第2版改訂版 (ver.2.1) 2020年3⽉10⽇」を参考に対応を検討しても、実際には以下のような課題が多かれ少なかれみられ、対応に苦慮することが多いのではないでしょうか(表1)。

表1 動線分離での課題(一例)
  • 待合エリアで患者同士の距離を十分確保できない。またはパーティションが入手できず隣接してしまう。
  • 外来診察スペースが確保できない。または個室がない。
  • レントゲン撮影が必要な場合に動線が交差する。
  • 会計時に動線が交差する。
  • トイレの数が限られており、分離できない(共用となる)。

また、病院玄関でのトリアージは、玄関が複数ある、職員の配置が難しいなどもあるでしょう。まず、COVID-19の感染経路は接触・飛沫感染であることから、麻疹や結核のようにすれ違ったり、短時間の空間共有のみでハイリスクとする必要はないことを院内で共通認識しましょう。そのうえで、現実的にできる最大限の動線分離を実施します。当院で検討・導入した対策・アイデアを表2にお示しします。さらに、会議で検討する場合は、必ず設計図やマップなど、同じ資料を基に協議しましょう。そうすることで、認識のずれを少なくすることができます。病院としての方針を決定後、各外来部門の所属長と具体的な調整(待つ場合の場所の指定、受付などの事前連絡方法・連絡先)も不可欠です。

表2 動線分離のアイデア(一例)
  • 待合エリアの椅子は、1席ごとに使用禁止シールを貼付する(写真1)。
  • 発熱又は風邪症状を認める患者は、専用スペースで診察を行う。
  • 診察とPCR検体採取は区別し、検体採取はN95以上のマスクを着用のうえ別室で行う。
  • ホワイトボードとプラスチック板(ホワイトボードの下部分に充てる)をパーティションの代わりに使用する(写真2)。
  • 面談室、相談室を診察スペースとして利用する。
  • 胸部レントゲン撮影は、ポータブルで定められたエリア内で完結する。
  • (病棟撮影と共用の場合は)COVID-19疑い患者に優先的に行うレントゲン撮影時間を設定する。
  • CTは事前に外来と放射線部が連絡を取り、待ち時間がないように調整する。
  • COVID-19疑いとして診察した患者は、すべて院内処方とする。
  • 会計は定めたエリア内で完結する。
  • トイレはポータブルトイレを第一選択とし、エリア外に1つだけ専用(貼付)を設ける。

写真1:外来待合スペースの様子
※他患者とのスペース確保がポイントとなるため、家族・付き添い者などの場合は臨機応変にすることも忘れずに

写真2:パーティション代わりに使用するホワイトボード
2)入院エリアでのゾーニング

外来と異なり、COVID-19患者が入院しているエリアのゾーニングは、時間も長く、曝露の程度も大きくなるため慎重に検討すべきです。一般的には、ウイルスが存在しない場所(セーフティゾーン)、存在する場所(レッドゾーン)、その中間(バッファーゾーン)の3つを設定します。ウイルスがいないセーフティゾーンは、個人防護具(PPE)を着用しなくてもよい又は着用するための場所です。ウイルスがいるレッドゾーンはPPEを着けた状態で処置・ケアを実施するところ、中間ゾーンはレッドゾーンからセーフティゾーンへ移る前にPPEを外し、手指衛生を行うところです。PPEを着用する場所には、手が届く所に必要な物品をすべて配置しておきましょう。また、着用の方法・注意点が分かるよう見える場所(当院では手指衛生のディスペンサー)に貼付するとよいでしょう。中間ゾーンは、PPEを外す場所になりますので、廃棄容器と手指衛生ができる環境が必要です。PPEを外す時の方が着用よりも感染リスクが高いため、外す方法と注意点を必ず掲示しておきます。ゾーニングの設定は、個室にシャワー、トイレが完備されていればゾーニングにそれほど困ることはないでしょう。個室前にPPEを外すスペースを囲い、印をつけて、それ以外はセーフティゾーンにすると問題ありません。しかし、シャワー、トイレのどちらかが病室内になければ室外に出てくることも想定しなければならず、医療エリア内のどこでセーフティ・バッファーゾーンを設定するのかを考える必要があります。受け入れ病床数の状況によって、部分的・病棟全体などケースバイケースになりますが、3つのゾーンを明確に区別(例:床にテーピング)し、手指衛生とPPEの適切な着脱(特に外す時)ができれば、感染リスクは最小限に抑えることが可能です。当院では、病棟マップとにらめっこして案を作成し、病棟スタッフの意見をききながら現場でゾーン設定を進めました。

3)入院受け入れ

入院後は、検温、配薬、配下膳、各種検体採取、画像検査、診察など様々な機会に入室する必要がでてきます。直接行うべき行為以外は、PPEの消費を最小限にし、曝露リスクを低減する観点からも、入室の機会を極力避けることが望ましいと考えます。そのため、ナースコールやPHS、タブレットやカメラ付のパソコンなどが利用できれば、患者とのコミュニケーションが円滑になるでしょう。チャットや動画、画像の送受信ができる環境を整備できないか確認し、積極的に利用しましょう。

当院では、トイレ・シャワー共にない個室もCOVID-19対応として利用しているため、病室だけでなく廊下を含めたゾーニングとし、3つのゾーンを明確に区別して運用しています。バッファーゾーンには、他施設のアドバイスを参考に姿見を設置し、PPEを安全に外せるよう環境を整えています。浴室の利用はスケジュールを決め、トイレと共に清掃担当者と綿密なコミュニケーションを取りながらタイミングを検討し、清掃・消毒を実施していただいています。また、入院時にスマートフォンの利用について確認し、薬手帳や売店での購入依頼、他の直接対面する必要のない内容は画像の送受信をタブレットで行っています。食器はディスポーザブルとし、トレイのみ消毒し、栄養部へ返却することでレッドゾーンから極力物が出ないようにしています。

4)PPEの消費抑制

医療従事者の感染リスクを低減しつつ、手指衛生やPPEの着用を極力減らす努力も必要です。当院では、N95マスクの消費を抑制するため、一体型小型電動ファン付き呼吸器防護具(ヘイロ―®)を複数台導入し、レッドゾーンで業務する看護師と外来で検体採取する看護師が着用しています。また、サージカルマスクは、2日に1枚とし、N95マスクは過酸化水素ガスプラズマ滅菌または4日以上の保管期間を設けた再使用を推奨しています。そして、長そでエプロンはビニール袋(120L)をヒートガンで加工し、院内で作成しています。これらの情報は、地域の感染管理ネットワークの会員同士で得られたものも多く、連携が有事の役に立っている非常に分かりやすい例と感じます。

5)業務分担

この原稿をお読みくださっている多くの方は、感染対策にかかわっていると思います。私と同じ専従や専任など様々な立場があるので、どのようなふるまいが最適かは分かりません。しかし、組織全体としてCOVID-19に対峙すべきであることは間違いありません。感染管理担当者は、その中で、方針策定や現場のサポート、PPEの確保やトレーニングなどに時間を割くべきです。医務局、看護局、外来、病棟、地域医療室、検査部、放射線部、臨床工学部、清掃担当者、物品管理センター、リネンなどほぼすべての部署が連携しながら対策を進めなければ、大きな障壁や課題に直面するでしょう。当院では、受診調整や入院依頼などの対外的で事務的なことは地域医療室が担って下さり、陰性確認や病状報告は病棟が、他の部門も患者受け入れや円滑な業務遂行に不可欠で、時機を得たアドバイスを頂いて助けて頂いています。感染管理担当者は、全体の支援者として、うまく業務を分担しながら心も体も燃え尽きないように自身の管理もしていく必要があるでしょう。

2020年4月現在