感染症info
新型コロナウイルス感染症クラスター模擬事例とその対策
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監修:國島広之
聖マリアンナ医科大学 感染症学講座 教授2019年末に新型コロナウイルス感染症が発生して以来、世界的パンデミックの波は日本にも到来し多数の罹患者がみられています。当初、まったく分からなかった新型コロナウイルス感染症は、その感染性や伝播性が少しずつ解明されつつあります。私たちの日常生活や医療従事者としての働き方はコロナを機会に大きく変わりました。この感染症に対しては治療薬もまだまだ不十分で、ワクチンの接種が始まったとしても、しばらくは常にマスクを着用し、PCR検査を適切に行うなど、コロナと対峙する必要があります。
現在、多くの病院や高齢者施設で、新型コロナウイルス感染症の単発例、伝播事例、またはクラスターが発生しています。市中で感染が広がっていれば、院内や施設での感染をゼロにすることはできません。一方で、罹患した職員や患者・入所者に丁寧に対応することも含め、様々な経験からこの感染症のリスクポイントを学び、クラスターを最小限にすることが望まれていると思います。敵はコロナ、ヒトではありません。これらのクラスター事例とその対策をフィードバックすることにより、1人でも感染者が減ることを切に願っています。
福祉施設
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- COVID-19患者の搬送先が見つからない事例
- 入所者Aが咳・咽頭痛を訴えましたが、発熱がなかったため、風邪と判断したうえで、念のため多床室から個室へ移動させて管理していました。この間の職員の対応としては、入室の際はサージカルマスク着用、手指衛生の徹底、入所者Aに対しては手指衛生の励行と、室内の1日1回の消毒(職員が実施)を原則としました。...続きを読む
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- マスク着用が難しい入所者が多い施設での事例
- 職員Aは鼻水、喉の違和感がありましたが、マスクを着用したうえで勤務していました。症状が出てから2日後に37.8℃の発熱があったため、この日から自宅待機になりました。鼻水、喉の違和感から5日経過しても解熱などの症状改善がなかったため、PCR検査を実施したところ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性と判明しました。...続きを読む
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- 病院から施設への転入者が発端となった事例
- 慢性期病院から転入してきた入所者Aが多床室(6床)に入室していました。入所者AはADLが低く、ベッドから離れるのはトイレを利用するときだけでした。マスクはほぼ着用していましたが、就寝時は外していました。また、この部屋には換気扇がついておらず、窓を開けるなどの換気もしていませんでした。...続きを読む
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- 最初の発熱者への感染対策不十分(入所者のマスク未着用、換気不十分)な事例
- 入所者Aが発熱したため、協力医療機関に相談のうえ経過観察としました。3日経過しても解熱せず、咳症状も出現したため、保健所にアドバイスを求めました。保健所の回答は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査をした方がよい、とのことでしたので、その日のうちに検体を採取しました。翌日、検査結果が陽性と判明しました。入所者Aは高齢であったため、結果判明後に感染症指定医療機関に搬送され、入院となりました。...続きを読む
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- 平時からの感染対策が不十分であり、外部支援職員への対策も不十分であった事例
- 入所者Aが発熱精査加療目的で医療機関に入院、入院時画像上両肺にすりガラス陰影があり、翌日PCR検査にて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が検出され陽性が判明しました。同日に別の入所者Bが発熱し、医療機関に搬送され入院しました。...続きを読む
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- 個室のない施設の事例
- 入所者Aに咳症状を認めたため、往診医が診療したところ、誤嚥性肺炎の可能性が高いと考えられ、内服抗菌薬が処方されました。施設には個室がなかったため6床の多床室に感染症症状のない入所者5名とともに、カーテンを閉めて半隔離状態として経過観察しました。施設職員は常時サージカルマスクを着用し、手指衛生は石けんと流水による手洗いを励行していましたが、多床室に換気扇はありませんでした。...続きを読む
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- 施設内職員と入所者の身体的距離確保が困難な事例
- 介護職員Aに味覚・嗅覚障害が出たため、その日から自宅待機としました。3日経過しても味覚・嗅覚が戻らず、施設が保健所に相談したところ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査を勧められたため、協力医療施設でPCR検査を実施しました。翌日、陽性であることが判明しましたが、発熱や咳などの症状がなかったため、自宅で療養することになりました。...続きを読む
医療機関
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- 抗原定性検査偽陽性の可能性がある事例
- 外科の多床室入院中の患者Aに発熱が認められたため、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗原定性検査を実施したところ陽性でした。追加のCT検査で肺炎像は指摘されませんでしたが、抗原定性検査陽性のため、翌日にCOVID-19患者受け入れ施設へ転院となりました。なお、このときに保健所の指導のもと、接触した職員と同室患者へのPCR検査が実施されましたが、全員陰性でした。...続きを読む
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- PCR検査陰性で多床室へ入院した患者が発端と考えられる事例
- 病院Xにおいてここ数日中に職員3名が相次いで体調不良を訴えていたことが明らかとなりました。緊急のPCR検査が実施され、結果、全員からSARS-CoV-2が検出され(探知日)、この日のうちに、管轄保健所に対して発生届が提出されました。聞き取り調査の結果、この3名について、探知日の5日前より病棟で勤務する看護助手Aに発熱、軽度の上気道症状が出現していました。...続きを読む
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- 入所者によるレクリエーション事例
- 月間プログラムとして定期的に実施しているスポーツレクリエーション(室内での球技)に職員A、患者Bが参加しました。職員Aと患者Bはお互いマスクを着用していましたが、レクリエーションが佳境となるにつれ白熱し、声を上げたりしていました。...続きを読む
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- 近距離での会話(マスク着用)の事例
- 患者AはCOVID-19確定例として、整形外科病院から転院してきました。軽症で抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)薬の投与は見送られ、慎重に経過観察する方針となりました。前医で行われた膝関節の術後リハビリが必要な状態であったため、COVID-19専用病棟でリハビリを実施していました。...続きを読む
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- ゾーニングが困難な施設での感染対策が不十分な事例
- 本事例の病院は、救急入院患者には全症例抗原検査を実施し、陽性者はCOVID-19患者受入れ病棟(陰圧装置、個室あり)に、陰性者は当該疾患の一般病棟に入院としていました。入院時陰性だった患者Aの家族が後日陽性となったと連絡を受け、当該患者を再度検査したところ、陽性であることが判明しました。...続きを読む