重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
目次
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは
重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)は、主にSFTSウイルスを保有するマダニの刺咬により起こるダニ媒介感染症です1,2)。2011年に中国の研究者によって発表された新興感染症で、日本を含むアジアの広い地域で流行しています1-3)。日本では、2013年1月に感染者が初めて報告されましたが1-3)、後方視的に2005年には既に感染者がいたと考えられています3)。SFTSの症例は西日本を中心に報告されていますが、徐々に感染者が確認された地域が広がっています2)。感染者数は春~秋に多く、これはマダニの活動性とヒトの野外活動の増加に関連しているとされています1,3)。国内での致死率は27%であり1-3)、全感染者の約90%が60歳以上、死亡者の多くは50歳以上で、高齢者は重症化しやすい傾向です2)。
SFTSは感染症法の4類感染症(全数把握疾患)に指定されており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ることが義務づけられています1-3)。
感染経路
▶ マダニからの感染
主な感染経路はSFTSウイルスを保有するマダニによる刺咬です。SFTSウイルスの媒介性が実験的に証明されているのは、フタトゲチマダニとキチマダニであり、国内では少なくともこの2種がヒトへの感染に関与しているとされています1,2)。
▶ ヒトからの感染
SFTSを発症した患者や遺体の血液・体液との接触で感染することがあります1-4)。国内では2024年3月にヒト-ヒト感染事例(SFTS患者から医師が感染)が初めて報告され、SFTS患者の死後に中心静脈カテーテルの抜去と刺入部の縫合を行った際に医師が血液曝露を受けたことが示唆されています3,4)。
▶ 動物からの感染
SFTSを発症した動物の血液・体液との接触や咬傷で感染することがあり、国内では飼い主や獣医療従事者への感染事例が複数報告されています1-3,5)。
臨床症状
潜伏期間はマダニの刺咬から6~14日程度ですが1-3)、ヒトや動物からの感染の場合は潜伏期間が短くなる場合があります2)。発熱や倦怠感、頭痛等の症状で発症することが多く、その他リンパ節腫脹や消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)がみられます1,3)。重症例では、第7病日前後で多臓器不全を合併しやすく、血球貪食症候群や急性脳症、消化管出血・出血傾向、菌血症(細菌・真菌)、侵襲性肺アスペルギルス症、急性腎障害、心機能障害・心筋炎、横紋筋融解症等を引き起こすことがあります3)。また、急性期からの回復後も、罹患後症状(倦怠感、脱毛、抑うつ等)が現れる場合があります。
治療方法
対症療法が主体となりますが、国内では2024年6月に抗ウイルス薬(ファビピラビル)がSFTS治療薬として承認されており、病状の進行が予期される場合には、出来る限り早期の使用を検討します2,3)。また重症例では、細菌・真菌感染症を合併するリスクが高いため、それらが疑われる場合には抗菌薬・抗真菌薬の投与を考慮します3)。ステロイド等の免疫抑制・調節薬のSFTSに対する有効性や安全性は確立されていないため、一律使用は推奨されず、合併症の病態に応じた適切な使用が望まれます。
感染対策
▶ マダニからの感染
マダニに刺咬されない対策を行うことが重要です。やぶや草むら等のマダニが多く生息する場所に行く際は、肌の露出を少なくします。具体的には、帽子と手袋、長袖・長ズボン(シャツの袖は手袋、裾はズボンの中、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる)、足を完全に覆う靴(サンダルは避ける)を着用し、首にタオルを巻きます1,2,6)。また、DEET(ディート)やイカリジンを主成分とする虫よけ剤がマダニに有効です。しかし、これらの虫よけ剤はマダニの付着数を減らすことはできますが、付着を完全に防ぐことはできないため、あくまで補助的な対策として使用します6)。
▶ ヒトからの感染
SFTS患者の血液・体液で汚染された環境や呼吸器飛沫からの感染が否定できないため3)、SFTS発症もしくは疑いのある患者の場合は標準予防策に加えて接触予防策を徹底し、重症患者の場合は飛沫予防策も実施することが望まれます1-3,7)。
重症患者の診療時における個人防護具は、二重手袋※とエプロン/ガウンに加えて、粘膜を保護するマスクとアイガード(過去の事例より結膜からの感染が否定できない)の着用が推奨されています3)。心肺蘇生や気管挿管等のエアロゾル発生手技を行う際は、N95マスクの装着を考慮します。さらに、死亡直後の遺体の血液・体液には感染性のあるSFTSウイルスが高濃度に含まれている可能性があり2,3)、遺体の血液との接触は生存者の血液との接触よりも感染リスクが高いとの報告があります8)。そのため、死後処理においても血液・体液に接触する可能性がある場合は、同様の感染対策が必要です4)。
※マダニ媒介性ウイルス性出血熱に分類されるSFTS とクリミア・コンゴ出血熱(CCHF)は病態・臨床像が類似しており3,9)、SFTSはCCHF と同様、体液曝露防止のために厳密な感染対策が必要なため、二重手袋が推奨されていると考えられます10,11)。
▶ 動物からの感染
野生動物の場合、動物(死体を含む)との接触は控えます2)。伴侶動物の場合、動物由来感染症に対する予防の観点からも、過剰な触れ合い(口移しでエサを与える、一緒に布団に入って寝る等)は控え、動物に接触したら手洗いをします。動物が体調不良の際は、マスクや手袋などを着用して体液などに直接接触しないようにし、咬まれたり舐められたりしないよう注意します1 , 2 )。SFTSが確定もしくは疑いのある動物に触れる場合は、標準予防策に加えて接触予防策の実施が推奨されています1,5)。
▶消毒
SFTSウイルスはエンベロープウイルスであり、消毒薬抵抗性は低いと考えられ、アルコールや次亜塩素酸ナトリウム等が有効です2,3)。また、熱や乾燥、紫外線照射等も効果があります。
参考文献
1)国立感染症研究所. 国内外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況について. 2024年8月1日公開.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/2656-cepr/12668-sfts-ra-0801.html:2024年10月15日現在.
2)厚生労働省. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A. 第7版 令和6年8月2日公開.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html:2024年10月15日現在.
3)厚生労働省. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 2024年版.
4)国立感染症研究所. 本邦で初めて確認された重症熱性血小板減少症候群のヒト-ヒト感染症例. 2024年3月19日公開.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/sfts-iasrs/12572-530p01.html:2024年10月15日現在.
5)国立感染症研究所. ペットからSFTSウイルスに感染し, SFTSを発症した事例報告. 2019年7月26日公開.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2467-iasr/related-articles/related-articles-473/8987-473r05.html:2024年10月15日現在.
6)国立感染症研究所. マダニ対策、今できること. 2019年7月20日更新.
https://www.niid.go.jp/niid/images/ent/PDF/190730madanitaisaku.pdf:2024年10月15日現在.
7)L. Hu, et al. Predisposing factors for person-to-person transmission of severe fever with thrombocytopenia syndrome bunyavirus. J Hosp Infect. 2022;123:174-178.
8)Chen Q, et al. Transmission and mortality risk assessment of severe fever with thrombocytopenia syndrome in China: results from 11-years' study. Infect Dis Poverty. 2022;29(93).
9)西條政幸. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)研究の話題. ウイルス. 2018;68(1):41-50.
10)日本感染症学会. ウイルス性出血熱. 2019年7月23日更新.
https://www.kansensho.or.jp/ref/d05.html; 2024年10月15日現在.
11)厚生労働省. ウイルス性出血熱-診断の手引き-2017年改訂新版.
作成日:2024年10月22日

