RSウイルス感染症
目次
RSウイルス感染症とは
RSウイルス感染症は、RSウイルス(respiratorysyncytial virus)による急性呼吸器感染症です1)。乳児期の発症が多く、特徴的な病像は細気管支炎、肺炎です。RSウイルスは、エンベロープを有するRNAウイルスであり2)、直径はおおよそ100~350nmの非対称球形ウイルスです3)。RSウイルスは1956年に米国のウイルス学者Morrisらによって発見され、ヒト、チンパンジーおよびウシに感染すると考えられています3)。ヒトは、生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%がRSウイルスの初感染を受けますが、再感染によるRSウイルス感染症も広く一般的に認められます4)。日本での流行は、近年では夏から増加傾向となり秋にピークがみられていました。一方、2021年以降は春から初夏にかけて増加し、夏にピークがみられています5)。RSウイルス感染症は感染症法において五類感染症に指定されており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関は週毎に本疾患の患者数を保健所に届け出なければなりません1, 4)。
臨床症状2-5)
潜伏期間は2~8日、典型的には4~6日間とされています。症状は発熱、鼻汁などが数日続き、多くの場合は軽症です。しかし症状が重くなる場合は、発熱や鼻汁などに続き、咳がひどくなり、喘鳴、呼吸困難などの症状が出現し、場合によって細気管支炎、肺炎へと進展します。初感染の乳幼児の約7割は鼻汁などの上気道炎症状のみで数日のうちに軽快し、約3割は咳が悪化し喘鳴、呼吸困難などが出現します。乳幼児においては、肺炎の50%、気管支炎の50~90%はRSウイルスが原因であると推定されています。また、乳児では中耳炎も多いとされています。低出生体重児、心臓や肺に基礎疾患がある、神経や筋肉の疾患がある、あるいは免疫不全を有する場合には重症化のリスクが高まります。注意すべき重篤な合併症には、無呼吸発作、急性脳症などがあります。生後1か月未満の乳児においては非定型的な症状を呈するため診断が困難な場合があり、無呼吸発作を起こし突然死につながることがあります。幼児期における再感染の多くは軽症です。
成人では通常、感冒様症状のみです。しかし、RSウイルスに感染した小児を看護する保護者や医療従事者では、一度に大量のウイルスに曝露して感染することにより、症状が重くなる場合があります。高齢者では慢性呼吸器疾患などの基礎疾患を有する場合、肺炎の合併症を起こすこともあります。
感染経路2,4-6)
RSウイルスの主な感染経路は、感染者の咳やくしゃみ、会話の際に飛び散るしぶきを吸い込む飛沫感染と、感染者との濃厚接触やRSウイルスで汚染された物品(ドアノブ、手すり、スイッチ、机、椅子、おもちゃなど)を触りRSウイルスが付着した手で口や鼻、眼に触れることによって感染する接触感染です。
治療・予防方法
検査診断には、免疫クロマト法(抗原検出)、遺伝子検出法(PCR法)、中和抗体法、細胞培養法などが用いられます3)。免疫クロマト法は、キットが市販されており外来やベッドサイドで検査診断が可能です。日本ではR Sウイルス感染症の治療薬はないため、酸素投与、輸液、呼吸管理などの対症療法を行います2,3,5)。
予防方法として、60歳以上を対象としたワクチン及び生まれてくる子の予防を目的に妊婦に接種するワクチンがあります5)。また、その他の予防方法として、遺伝子組み換え技術を用いて作成されたモノクローナル抗体製剤であるパリビズマブ(Palivizumab)の投与があります2,3,5)。RSウイルス感染症の流行期に投与を開始し、流行期も引き続き1か月毎に筋肉注射することにより重篤な下気道炎症状の発症の抑制が期待できます2,5)。パリビズマブの適正使用を目的に「日本におけるパリビズマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」が作成されています7)。
感染対策
RSウイルスは、飛沫感染、接触感染で伝播します6)。院内感染は、主に患者との濃厚接触や分泌物に汚染された表面への接触によるため、標準予防策と接触予防策が推奨されます2,8)。家族内では、ハイリスク者である乳幼児や慢性呼吸器疾患等の基礎疾患を有する高齢者などがいる場合には注意が必要です。マスクの着用や咳エチケット、および石けんと流水の手洗いやアルコール手指消毒といった基本的な感染対策を徹底します4)。RSウイルスはエンベロープを有するウイルスであるため、消毒薬に対する抵抗性は低く、中水準消毒薬以上の消毒薬が有効です9)。日常的に手が触れる、ドアノブや手すり、おもちゃなどをこまめにアルコールまたは次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒します6)。
参考文献
1)厚生労働省 : 感染症法に基づく医師及び獣医師の届け出について :
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-15.html : 2024年6月10日現在
2)国立感染症研究所 : RSウイルス感染症とは :
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/alphabet/rs-virus/392-encyclopedia/317-rs-intro.html : 2024年6月10日現在
3)国立感染症研究所 : RSウイルスの臨床ウイルス学 :
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2296-related-articles/related-articles-412/4707-j4121.html : 2024年6月10日現在
4)国立感染症研究所 : IDWR 2024年第15号<注目すべき感染症>RSウイルス感染症:
https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrc/12658-idwrc-2415.html : 2024年6月10日現在
5)厚生労働省 : RSウイルス感染症Q&A(令和6年5月31日) :
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/rs_qa.html : 2024年6月10日現在
6)東京都感染症情報センター : RSウイルス感染症 :
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/rs-virus/ :2024年6月10日現在
7)「 日本におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン」改訂検討ワーキンググループ. 日本におけるパリビズマブの使用に関するコンセンサスガイドライン. 2019年4月.
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20190402palivizumabGL.pdf : 2024年6月10日現在
8)CDC : 2007 Guideline for isolation precautions : preventingtransmission of infectious agents in health care settings.
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/isolation-guidelines-H.pdf : 2024年6月10日現在
9) 大久保憲, 尾家重治, 金光 敬二 編集. 2020年版 消毒と滅菌のガイドライン. 第4版. へるす出版.
作成日:2024年6月10日

