ロタウイルス感染性胃腸炎
目次
ロタウイルス感染性胃腸炎とは
ロタウイルスはレオウイルス科(family Reoviridae)のロタウイルス属(genus Rotavirus)に分類され、11分節の2本鎖RNAウイルスです1,2)。エンベロープを有さず、大きさは直径約100nmでありノロウイルスの倍ほどの大きさです1,3)。ロタウイルスはA群~I群までの9つの種(Species)に分かれ、ヒトへの感染が報告されているロタウイルスは主にA群とC群であり、ヒトの間で流行を起こすのは大部分がA群です1)。ロタウイルス感染性胃腸炎とは、ロタウイルスによって引き起こされる急性の胃腸炎で、主に乳幼児(0~6歳ごろ)にかかりやすい病気です3)。流行の時期は2月~5月にかけてみられ、ノロウイルスの流行時期(12月~翌年2月)よりも少し遅れて現れる傾向があります4)。ロタウイルスは感染力が強く、ごくわずかなウイルスが体内に入るだけで感染します3)。そのため、衛生状態がよい先進国でもその感染予防はきわめて難しく、生後6カ月から2歳をピークに、5歳までに世界中のほぼすべての子どもがロタウイルスに感染します2,3)。先進国では乳幼児がロタウイルス感染症で重症化しても、すぐに入院などの対応がとれるため、死亡例はごく少数です3)。しかし、世界では5歳未満の子どもが年間約50万人死亡し、その80%以上が発展途上国で起こっています2)。日本における死亡者は稀ですが、感染者数は非常に多いため、小児感染症における重要な病原体の一つです2)。ロタウイルス感染性胃腸炎は、感染症法下において、定点把握対象となる5類感染症に指定されており、全国の基幹定点医療機関は保健所に週単位で届け出を行う必要があります2)。
臨床症状
通常2~4日間の潜伏期間を経て発症し、主に乳幼児に急性胃腸炎を引き起こします1,2)。主症状は激しい嘔吐と水様の下痢が見られ、発熱や腹痛を伴うことがあります5)。通常は1~2週間で自然に治癒しますが、脱水がひどくなるとショック、電解質異常、時には死に至ることもあります2)。また、腎炎・腎不全・心筋炎・脳炎・脳症・HUS(溶血性尿毒症症候群)・DIC(播種性血管内凝固症候群)・腸重積などの重篤な合併症を併発することもあります4)。ロタウイルスは一度の感染では終生免疫が得られず、複数回発症することも少なくありません。感染を繰り返すたびに軽症化する傾向があり、大人ではあまり発症しなくなりますが、近年は成人の間でもロタウイルスによる集団感染事例や食中毒事例がしばしば報告されています1,4)。
感染経路
ロタウイルスの感染経路は、便中のロタウイルスに汚染されたヒトや環境などに触れ、口からロタウイルスが体内に入ることで感染する糞口感染(接触感染)が主なルートと考えられています2,6)。感染者の下痢便には、1gあたり1,000億から1兆個ものウイルスが含まれており、便に含まれるウイルス量が多いことで知られるノロウイルスの100万倍ものウイルス量となります2,3)。ロタウイルスは環境中でも安定で(乾燥環境表面で6~60日間生存7))、感染力が非常に強く、ウイルスが10~100個程度口から体内に入ることで感染が成立するとされています2)。そのため、たとえ十分に手洗いをしていても、手や爪に数億個ものウイルスが残っていることがあり、ロタウイルスが付いた手などから感染が広がっていきます3)。
治療・予防方法
最も臨床現場で用いられているロタウイルス胃腸炎の診断法は、迅速診断検査(イムノクロマト法)です2,3)。便検体を用いて15~20分程度で結果が判明します。この迅速診断検査はA群のみ検出可能です2) 。また、PCRを用いてロタウイルスの遺伝子を検出することも行われています。現在、ロタウイルスに効果のある抗ウイルス剤はありません3)。そのため、下痢、脱水、嘔吐に対する対症療法が中心となり、脱水症状がひどい場合には、医療機関で点滴を行うなどの治療が必要になります2,3)。一般的には臨床的重症度が軽症の場合は経口補液、あるいは外来での静脈輸液を行い、中等症以上の場合は入院して静脈輸液、経口補液を併用します2)。下痢止め薬は、病気の回復を遅らせることがあるので、使用しないことが望ましいとされています3)。令和2年10月1日からロタウイルス感染症の予防接種が任意接種から定期接種となりました8)。ワクチンを接種することにより、ロタウイルス感染性胃腸炎による入院患者を約70~90%減らすことができたと報告されています8)。日本では、2種類のロタウイルスのワクチン(単価と5価)があり、同様の効果があります3,9)。対象者はいずれのワクチンも乳児であり、具体的な接種期間は単価ロタウイルスワクチン(2回接種)の場合は生後6~24週の間、5価ロタウイルスワクチン(3回接種)の場合は生後6~32週の間です3)。どちらのワクチンも、1回目の接種は生後2か月(生後6週から接種可能)から14週6日までに行い、2回目以降の接種は27日以上の間隔をあけて行います3,8,9)。生後15週以降は、初回接種後7日以内の腸重積症の発症リスクが増大するとされています8-10)。
感染対策
ロタウイルスは主に接触感染によって糞口感染を起こすため、患者ケア時やオムツ交換および吐物を処理する際には手袋、ガウンを装着します6)。また、便や吐物が乾燥することで、エアロゾル化してウイルスが空間に浮遊するため、マスクの装着も必要です。手指衛生に関しては、ロタウイルスはエンベロープを有さないウイルスのためアルコールが効きにくく3,6)、ロタウイルス患者を処置した後は、石けんと流水による手洗いが必要とされています6)。一方、人工的にウシロタウイルスで指先を汚染させた場合、70%エタノール5mL、30秒間の手指消毒はウシロタウイルスを2.85log10減少させ、これは石けんと流水30秒間の手洗いの1.17log10減少より有意に優れていたことが報告されています11)。このことから手指衛生において70%エタノールがロタウイルスに対して有効とする考えもあります12)。現段階では、ロタウイルス患者を処置した後は石けんと流水による手洗いを基本とし6)、アルコール手指消毒は石けんと流水による手洗いの補助として用い、手を介したロタウイルスの伝播リスク低減に努めるようにします。環境表面の消毒は、次亜塩素酸ナトリウムを用います6)。便や吐物などで汚染を受けた可能性がある環境表面を0.05%(500ppm)~0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムで清拭します13)。ロタウイルスは消毒薬に対する抵抗性が強いので、2度拭きが望ましいです。次亜塩素酸ナトリウムは有機物によって不活化されやすいため、注意が必要です。有機物がある場合は、有機物を取り除いてから次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒します14)。
参考文献
1) ロタウイルス 2004年9月~2019年8月. IASR 2019 ; 40(12): 201-3.
https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/iasr/40/478.pdf: 2021年1月26日現在.2) 国立感染症研究所 : ロタウイルス感染性胃腸炎とは : 2013年5月15日作成 :
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3377-rotaintro.html : 2020年11月20日現在.3) 厚生労働省 : ロタウイルスに関するQ&A : 第1版 平成26年2月14日作成 :
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/dl/q_a.pdf : 2020年11月20日現在.4) 病原微生物検出情報(IASR) : ロタウイルスの概要 : 2014年3月24日作成 :
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2261-related-articles/related-articles-409/4475-j4091.html : 2020年11月20日現在.5) 厚生労働省検疫所(FORTH) : ロタウイルス感染症 :
https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name27.html : 2020年11月20日現在.6) 症状からアプローチするインバウンド感染症への対応 ~東京2020大会にむけて~ : ロタウイルス感染症 : 一般社団法人日本感染症学会オリンピック・パラリンピックアドホック委員会. 最終更新日 : 2019年7月23日 : https://www.kansensho.or.jp/ref/d76.html : 2021年1月28日現在.
7) Kramer A, Schwebke I, Kampf G. How long do nosocomial pathogenspersist on inanimate surfaces? A systematic review. BMC Infect Dis2006 ; 6 : 130. doi : 10.1186/1471-2334-6-130.
8) 厚生労働省 : ロタウイルス : https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/rota_index.html :2020年11月20日現在.
9) 厚生労働省 : ロタウイルスワクチンに関するQ&A : https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/index_00001.html: 2020年11月20日現在.
10) 日本小児学会 : 日本小児学会が推奨する予防接種スケジュール : 2020年10月1日更新 : http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138 : 2020年11月20日現在.
11) Bellamy K, Alcock R, Babb JR, Davies JG, Ayliffe GA. A test for the assessment of 'hygienic' hand disinfection using rotavirus. J HospInfect 1993 ; 24(3) : 201-10. doi : 10.1016/0195-6701(93)90049-6.
12) Kampf G, Arbogast JW : Alcohol. In : McDonnell G, Hansen J. Block’s disinfection, sterilization, and preservation. 6th ed. Wolters Kluwer,Philadelphia, et al, 2020. p. 384-407.
13) 神谷晃, 尾家重治. 環境に対する消毒剤の選び方 : 消毒剤の選び方と使用上の留意点. 改訂2版. じほう, 東京, 2006. p. 59-72, 85-8.
14) 大久保憲, 尾家重治, 金光敬二 編集. 2020年度版 消毒と滅菌のガイドライン. へるす出版,東京, 2020. p. 53-54.
作成日:2021年3月16日

