ノロウイルス感染症
目次
ノロウイルスとは
一般的にノロウイルス(Norovirus)は、カリシウイルス 科のノロウイルス属に属するノーウォークウイルス種のこ とを指します1,2)。本来はノーウォークウイルスと呼称され るべきですが、現状ノロウイルス属にはノーウォークウイ ルス種のみが存在するため、なじみ深い「ノロウイルス」と いう呼称が広く定着しています2)。ノロウイルスは、エンベロープを持たず、カップ状の窪みをもつ構造の蛋白質 で表面が覆われています。多くの遺伝子型が存在し、ヒト ノロウイルスは主にGenogroup 1(G1)とGenogroup 2 (G2)の2つの遺伝子群に分類され、それぞれさらに多数 の遺伝子型に細分化されます1-6)。さらに、感染後に獲得される免疫は永続的ではないと考えられているため、生涯 何度も感染する可能性があります2-5)。
また、ヒトノロウイルスは従来、培養細胞や実験動物での増殖が困難であったため、研究の多くは増殖可能な代替ウイルス(ネコカリシウイルスやマウスノロウイルス) を用いて進められてきました1)。近年ではiPS細胞由来 の腸管上皮細胞を用いたヒトノロウイルスの増殖方法が確立され、ヒトノロウイルスを用いた研究も進みつつあります1,7)。一方で、ウイルスの分離や特定は依然として困難であり、特に食品中のウイルス検出は容易ではないため、食中毒の原因究明や感染経路の特定が難しいという特徴もあります4)。
臨床症状
ノロウイルスによる感染症は、五類感染症の定点把握疾患に位置付けられている感染性胃腸炎の一つです4-6,8)。潜伏期間(感染から発症までの時間)は12~48時間で、主に下痢、嘔吐、腹痛、吐き気などの症状がみられます2-6,8-10)。通常、これらの症状が1~2日続いた後に回復しますが、幼児や高齢者では下痢や嘔吐による脱水や、 嘔吐物による誤嚥性肺炎および気道の閉塞による窒息を起こし、死亡する可能性があります3,4)。また、症状消失後 も、通常では1週間程度、長い場合は1ヶ月程度便中への ウイルス排出が続くことがあるため、二次感染にも注意 が必要とされています9)。さらに、感染していても軽症で済むことが多く、中には症状のない無症候性感染者もい ます。ある調査によると、健康成人4,536人のうち112人(2.5%)がノロウイルス陽性で無症候性感染者であったという報告もあります11,12)。
表 ノロウイルス感染症の特徴2-6,8-10)
流行時期 | 主に冬季(夏でも感染・発症する) |
|---|---|
感染が成立する量 | 少量のウイルスで感染 (100個以下) |
潜伏期間 | 12~48時間 |
症状 | 下痢、嘔吐、腹痛、吐き気等が1~2日続く |
便中のウイルス量 | 糞便1gに約1億個以上 |
その他 | 症状消失後も通常は1週間、長い時には1ヶ月程度糞便中にノロウイルスが含まれる |
感染経路
感染経路は、病原体が付着した手で粘膜に触れることによる感染(接触感染)、汚染された食品を食べることによる感染(経口感染)、乾燥した嘔吐物や糞便がエアロゾル化し、それを吸入することによる感染(塵埃感染)など様々です(図)。感染力が強く、ごく少量のウイルス(100個以下)でも感染し、集団感染を起こすことがあります9)。特に病院や福祉施設では、感染者の嘔吐物や糞便が付着した手指を介して二次感染を引き起こすことがあります。感染者の嘔吐物1gの中には100万個以上、糞便1gの中には1億個以上という大量のウイルスが存在するため、嘔吐物や糞便の処理には十分な注意が必要です。
治療法
現在、有効な抗ウイルス薬は実用化されておらず、通常は対症療法が行われます1-6,8,9)。特に、体力の弱い乳幼児や高齢者は、脱水症状を起こしたり、体力を消耗しないように、水分と栄養の補給を充分に行ったりしますが、重度 の脱水症状の場合には輸液を行うなどの治療が必要になることもあります。止しゃ薬(下痢止め薬)は、回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましいとされています4)。
感染対策
ノロウイルスに対して有効なワクチンは実用化されておらず、二次感染が一度発生すると抑制することが難しいとされています。そのため、平常時の感染対策に加え、感染者が確認された場合には、ただちに感染拡大防止策を 徹底することが重要です。
平常時の感染対策として手指衛生があげられますが、 ノロウイルスはノンエンベロープウイルスであるため、 一般的なアルコール手指消毒剤の効果が限定的です1,9)。
そのため、ノロウイルス流行時には、ノンエンベロープウイルスに対する殺ウイルス活性が期待できる手指消毒剤の使用が推奨されます。また、平常時であっても、糞便や嘔吐物に触れた場合、あるいは感染の疑いがある方の対応をした場合は、必ず流水と石けんによる手洗いを行い、ウイルスを物理的に洗い流すことが大切です3,4)。
感染者が発生した際は、感染者は可能な限り個室に隔離 (個室の隔離が難しい場合はノロウイルス感染者を一つ の病室に集めるコホート隔離を実施)し、他の利用者との接触を避けるように努めます3,11)。病室・居室や使用した 共用設備、トイレなどの環境表面は0.1 ~ 0.5%(1,000 ~ 5,000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム溶液による清拭・ 消毒を行いますが、ドアノブなど金属部分への使用した場合は、金属腐食防止のために、10分間以上経過した後に、 アルコール拭きや水拭きを行うことが望ましいとされてい ます3-5,10,11)。また、感染者の嘔吐物や糞便を処理する際は、ウイルスの飛散や汚染物の拡大を防ぐため、マスク、ガウン、手袋等の個人防護具を必ず着用し、汚染物が乾燥する前に床などに残らないよう速やかに処理します。処理中および処理後は、ウイルスが屋外へ排出されるよう空気の流れに注意しながら十分な換気を行うことも感染防止に有効です9)。
参考文献
1)片山和彦. ウイルスノロウイルス総論2020. 日本ウイルス学会 編 2020;70(2): 117-128.
2)柳 雄介. 林 哲也. 山崎 晶 編集. 改訂35版. 戸田新細菌学. 南山堂. 2025.
3)CDC. Norovirus Prevention and Control Guidelines for Healthcare Settings. https://www.cdc.gov/infection-control/hcp/norovirusguidelines/index.html. 2026年8月3日現在.
4)厚生労働省. ノロウイルスに関するQ&A. https://www.cdc.gov/infection-control/hcp/norovirus-guidelines/index.html. 2026年8月25日現在.
5)日本感染症学会. ノロウイルス感染症. https://www.kansensho.or.jp/ref/ d58.html. 2026年8月3日現在.
6)国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト. ノロウイルス感染症 (詳細版). https://id-info.jihs.go.jp/diseases/na/norovirus/010/index. html. 2026年8月3日現在.
7)Shintaro Sato et al. Human Norovirus Propagation in Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Intestinal Epithelial Cells. Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2019;7(3):686-688.e5.
8)大西 健児. 医学と医療の最前線 感染性胃腸炎~ノロウイルス感染症~. 日内会誌 2013;102(6):1492-1498.
9)厚生労働省老健局. 介護現場における感染対策の手引き第3版. https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001149870.pdf.
10)国公立大学附属病院感染対策協議会. 病院感染対策ガイドライン2018年 版.じほう. 2018.
11)大久保 憲. 尾家重治. 金光敬二 編集. 2025年版 消毒と滅菌ガイドライン. へるす出版. 東京. 2025.
12)Daiki Kobayashi et al. Factors associated with the detection of norovirus among asymptomatic adults. Clin Microbiol Infect. 2022 Feb;28(2):299.e1-299.e8.
作成日:2026年8月3日

