日本脳炎
目次
日本脳炎とは
日本脳炎とは蚊(主にコガタアカイエカ)が媒介する、日本脳炎ウイルス(JEV:japanese encephalitis virus)により生じる感染症です1)。日本脳炎はアジアで広く流行している感染症で、毎年世界中で約68,000件の症例が確認されており、約13,000~20,000人が死亡していると推定されています2)。JEVはフラビウイルス科に属するウイルスで、1935年ヒトの感染脳から初めて分離されました1)。日本では、1960年代には毎年数百名以上の日本脳炎患者が報告されていましたが、媒介蚊の減少、居住環境の変化、ワクチン接種等により、患者数は減少しました1,3)。近年では国内の年間届出数は、ほぼ10例以下で推移しています3)。日本などの温帯地域では季節性があり、ヒトへのJEV感染は夏から秋にかけて発生します。亜熱帯および熱帯地方では、通年蚊が発生しているため、JEV感染は年中発生する可能性があり、雨季にピークを迎えることが多いです2,4-7)。
日本脳炎は感染症法の4類感染症(全数報告対象)に指定されており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければいけません1,4,5,8,9)。
感染経路
JEVはブタの体内で増殖し、蚊によってブタからブタにウイルスが伝播します(ブタ→蚊→ブタの流行)7,8)。ヒトへは、感染しているブタなどを吸血した蚊がヒトを刺咬することで、感染します5,10)。JEVに感染した蚊は生涯ウイルスを保有し媒介します8)。JEVの感染は、主に農村部で発生し、多くの場合、米の生産と湛水灌漑に関連しています6)。アジアの一部の地域では、これらの状況が都市部の近くで発生する可能性があります。
臨床症状1-11)
一般に、JEVに感染した場合、ほとんどは無症状であり(不顕性感染)、脳炎を発症するのは100 ~1,000人に1人程度です。潜伏期間は6~16日で、急激な発熱と頭痛を主訴として発症し、熱は発症後4~5日に最も高くなります。その他、初期症状として、全身倦怠感や、食欲不振、悪心、嘔吐、めまいなどを呈し、小児では腹痛、下痢も多くみられます。
その後、症状は悪化し38℃以上の高熱とともに、意識障害、易興奮性、仮面様顔貌、項部硬直、振戦、筋硬直、不随意運動、羞明(まぶしく感じる)あるいは麻痺症状が出現し、病状の進行にともない脳浮腫による脳圧亢進、けいれんや呼吸不全をきたします。また、脊髄炎や髄膜炎をおこすこともあります。繰り返すけいれんは予後不良であり、後遺症としてはパーキンソン病様症状や、麻痺、精神障害などがあります。発症したときの致死率は20~40%であり、発症後1週間程度で死亡します。さらに、生存者の45~70%に精神障害や運動障害などの後遺症が残るといわれており、乳幼児や高齢者では後遺症が残る確率が高いです。
治療方法
日本脳炎は症状が出現した時点で、すでにウイルスは脳内に達して脳細胞を破壊しています。したがって、症状出現後の薬剤治療には期待できません。特異的療法はなく、一般療法、対症療法が中心であり、合併症予防のため高熱とけいれんの管理を図ることが重要です。脳浮腫の治療は重要ですが、大量ステロイド療法で一時的に症状を改善することはあっても、予後、死亡率、後遺症などを改善することはないといわれています。
〈一般療法〉
気道の確保、栄養・水分の補給、褥瘡防止などの全身管理が重要。
〈対症療法〉
発熱、意識障害、脳浮腫、けいれんに対する治療など。ステロイドの有用性は明らかになっていない。
感染対策
日本脳炎は特異的療法がなく、予後不良のため、予防が最も大切な疾患です1)。ヒト‐ヒト感染はないので患者の隔離は不要で、診療においても標準予防策でよいとされています6,9)。感染対策の中心は蚊の対策と日本脳炎のワクチン接種です1,6-8)。
媒介となるコガタアカイエカは夜間吸血性のため、夜間の蚊対策が重要です8)。また、コガタアカイエカは水田や、灌漑溝、湿地、河川敷、池沼などの大きなたまり水を産卵場所に選ぶので、田園地帯や農村地域に滞在する場合は夜間の家屋に蚊が侵入しないような対策や、服装を工夫し肌を露出させないこと、虫よけスプレー、蚊取り線香などの防蚊剤の使用、さらには蚊の発生を抑えるため水たまりをなくすことも重要です4,5,7,8,10)。
また、ワクチン接種により、日本脳炎の罹患リスクを75~95%減らすことができると報告されています11)。日本脳炎ワクチンは日本では不活化ワクチンですが、中国や一部の東南アジアでは弱毒生ワクチン(SA14-14-2)が接種されています8)。これらの地域から訪日した脳炎患者の場合、ワクチン接種歴の確認が病因鑑別のために重要です。
予防接種法に基づく定期予防接種スケジュール1,4,10)
▶ 第Ⅰ期接種
初回接種は、通常3~4歳の時期に6~28日の間隔をおいて2回、さらに1年後に1回接種し合計3回、各0.5mLの皮下注射を行うことによって基礎免疫が終了します(生後6ヶ月~3歳未満は0.25mL)。
▶ 第Ⅱ期接種
9歳~12歳の期間に1回の追加接種を行います。
参考文献
1)国立感染症研究所感染症疫学センター.日本脳炎とは.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/449-je-intro.html. 2023年5月17日現在
2)WHO. Japanese encephalitis.
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/japanese-encephalitis.2023年5月17日現在
3)国立感染症研究所感染症疫学センター.日本脳炎に関する最近の状況
https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2566-relatedarticles/related-articles-508/11205-508r06.html.2023年5月17日現在
4)厚生労働省研究班.バイオテロ対応ホームページ.日本脳炎.
https://www.niph.go.jp/h-crisis/bt/other/16detail/. 2023年5月17日現在
5)東京都感染症情報センター.日本脳炎.
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/j-encephalitis/. 2023年5月17日現在
6)CDC. Japanese encephalitis virus.
https://www.cdc.gov/japaneseencephalitis/transmission/index.html. 2023年5月17日現在
7)厚生労働省検疫所.日本脳炎.
https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name46.html. 2023年5月17日現在
8)日本感染症学会.日本脳炎.
https://www.kansensho.or.jp/ref/d49.html.2023年5月17日現在
9)厚生労働省. 感染症法に基づく医師の届け出のお願い. 日本脳炎.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-24.html. 2023年5月17日現在
10)大久保 憲, 尾家重治, 金光敬二 編集.2020年版 消毒と滅菌のガイドライン.へるす出版.東京.2020.
11)厚生労働省.日本脳炎.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou20/japanese_encephalitis.html. 2023年5月17日現在
作成日:2023年8月2日

