感染症info

腸管出血性大腸菌感染症

腸管出血性大腸菌感染症とは

大腸菌は人や家畜の腸内に存在しており、ほとんどは無害です。しかし、人に下痢などの消化器症状や合併症を起こす大腸菌も存在し、これらは病原大腸菌と呼ばれます1,2)。病原大腸菌は約170種類あり3)、主に5つに分類されています(表1)1)。腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichiacoli, EHEC)は、菌の表面にあるO抗原(細胞壁由来)とH抗原(べん毛由来)によってさらに細かく分類され、代表的なものとしてO157があげられます1,2,4)。腸管出血性大腸菌感染症は、主に汚染された食物を摂取することで起こる食中毒として発生し、毎年3,000~4,000人の患者が発生しています2,5,6)。人を感染させる菌数はわずか50個程度と考えられており、人から人への二次感染が起こりやすい原因となります。また、強い酸抵抗性を示すため、胃酸の中でも生残します4 , 5 )。腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法上の3類感染症に指定されているため、診断した医師はすべての症例について届出を行う必要があります1,2,4)。発生時期は気温が高い初夏~初秋にかけて多くなりますが、冬季でも発生が見られるため、夏季以外も注意が必要です1,5)。

表1 病原大腸菌の分類1)

大腸菌

特徴

腸管病原性大腸菌

小腸に感染して腸炎等を起こす。

腸管組織侵入性大腸菌

大腸(結腸)粘膜上皮細胞に侵入・増殖し、粘膜固有層にびらんと潰瘍を形成し、赤痢様の激しい症状を引き起こす。

腸管毒素原性大腸菌

小腸上部に感染し、コレラ様のエンテロトキシンを産生し、腹痛と水様性の下痢を引き起こす。

腸管出血性大腸菌

ベロ毒素を産生し、激しい腹痛、水様性の下痢、血便を特徴とする。特に小児や老人では、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症を引き起こしやすい。

腸管凝集性大腸菌

主に熱帯や亜熱帯の開発途上国で長期に続く下痢の原因菌となる。

臨床症状

無症候性から軽度の下痢、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし死に至る場合まで、様々な症状を示します。多くの場合、3~5日の潜伏期をおいて、激しい腹痛を伴う頻回の水様便で発病し、血便(出血性大腸炎)となります。軽度な発熱(37℃台)があっても、多くは一過性です1,5)。ただし、乳幼児や小児、基礎疾患を有する高齢者など、有症状者の6~7%が、下痢などの初発症状の数日から2週間以内(多くは5~7日後)に溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症を発症します。激しい腹痛と血便がある場合は特に注意が必要です1,5,7)。

感染経路

O157をはじめとするベロ毒素産生性の腸管出血性大腸菌は、牛などの家畜が保菌している場合があり7)、これらの菌で汚染された飲食物を経口摂取することで感染します(経口感染)。また、ヒトからヒトへの二次感染として、感染者の糞便に含まれる大腸菌が直接または間接的に口から入る糞口感染があげられます1,5,8)。職場や学校での会話の際に出る飛沫や、咳・くしゃみ・汗などでは感染しません。なお、動物と接触することで感染した事例もあります1)。

治療方法

腸管出血性大腸菌感染症には特異的な治療薬がありません。基本的には、水分摂取を励行した上での対症療法となります。その上で、HUSなどの全身症状をおこす合併症の発症を注意深く見守る必要があります。腸管出血性大腸菌感染症に対しての抗菌薬使用は、HUS発生を増加させるという報告があり、抗菌薬の推奨は統一されていません1)。

感染対策

腸管出血性大腸菌はサルモネラや腸炎ビブリオなどの食中毒菌と同様に、加熱や消毒薬により死滅させることができます。食品からの感染が主体であるため5)、通常の食中毒対策を確実に実行することで十分に予防可能な感染症といえます1,7)。食中毒予防の三原則は、原因菌を「付けない・増やさない・やっつける」です1,9)。具体的には、食品を十分に加熱する(中心部75℃・1分以上)、調理後の食品はなるべく早く食べる(室温で放置しない)、手や調理器具を清潔に保つことなどが挙げられます1,2,4,5,7-10)。腸管出血性大腸菌は少量の菌数で感染が成立するため、厳重な消毒が必要です5,8)。感染者の糞便で汚染される可能性のあるトイレやドアノブ、水道の蛇口、リネン、浴槽などが消毒対象となります1 , 8 )。大腸菌に対してはすべての消毒薬が有効のため、第四級アンモニウム塩(ベンザルコニウム塩化物など)、両性界面活性剤、次亜塩素酸ナトリウムおよびアルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノールなど)等を用いることができます1,8)。ヒトからヒトへの二次感染に対しては、糞口感染であることから、感染経路を断つため手洗いや手指消毒を徹底する必要があります1,5,8)。

参考文献

参考文献

1) 厚生労働省. 腸管出血性大腸菌Q&A(令和2年5月21日改訂).
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177609.html
2020年8月現在.

2) 吉田眞一, 柳雄介, 吉開泰信 編集. 戸田新細菌学 改訂34版. 南山堂.2015.

3) 厚生労働省 関西空港検疫所. 腸管出血性大腸菌感染症.
https://www.forth.go.jp/keneki/kanku/disease/dis04_10ent.html
2020年8月現在.

4) 食品安全委員会. 食品健康影響評価のためのリスクプロファイル ~牛肉を主とする食肉中の腸管出血性大腸菌~(改訂版).
https://www.fsc.go.jp/sonota/risk_profile/risk_ushi_o157.pdf

5) 国立感染症研究所. 腸管出血性大腸菌感染症とは.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/439-ehec-intro.html
2020年8月現在.

6) 国立感染症研究所. 発生動向調査年別報告数一覧(全数把握).
https://www.niid.go.jp/niid/ja/ydata/9007-report-ja2018-10.html
2020年8月現在

作成日:2020年8月21日

id-info_ehed.pdf