感染症info

梅毒

梅毒とは

梅毒とは梅毒トレポネ-マ(Trepoonema pallidum)という細菌によって生じる性感染症です1-8)。梅毒トレポネーマはスピロヘータ目に属する、らせん状の細菌で3)、自然宿主はヒトのみであり、低酸素状態でしか長く生存できないため、感染経路は限られます1)。感染すると、全身に様々な症状が出ることがありますが、症状が消える時期(潜伏梅毒)があるため発症したことに気付かず、検査や治療の遅れにつながる危険があります5)。検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、数年から数十年の間に脳や心臓などに重大な病変を生じ、時には死に至ることもあります2,4)。妊婦が梅毒に感染している場合、流産や死産となったり、子が梅毒に感染した状態で生まれたりすることがあります1-4)。現在は、早期の適切な抗菌薬治療によって完治が可能で、母子感染リスクを下げることもできます1,2)。ただし、一度感染しても終生免疫を得ることはできず再び梅毒にかかることがあるため、感染予防が重要です2,5)。梅毒は感染症法の5類感染症(全数把握疾患)に指定されており、医師は梅毒と診断した場合には、最寄りの保健所へ7日以内に届け出る必要があります1,6)。

臨床症状1-3,5,7)

▶ 後天梅毒

臨床経過から3つの病期に分けられ、それぞれの病期によって症状の出現場所や内容が異なります。なお、無症状の場合や、異なる病期の症状や所見が併存する可能性があります。第1期(早期梅毒 第1期):感染後数週間(3週間程度)梅毒トレポネーマの侵入部位(主に口の中、肛門、性器など)にしこりや潰瘍ができます。また、股の付け根部分(鼠径部)にリンパ節の腫れを伴うことがあります。これらの症状は無痛性の場合が多く、治療をしなくても症状は自然に消えますが、治ったわけではありません。

第2期(早期梅毒 第2期):感染後数か月(3か月程度)
梅毒トレポネーマが血液によって全身に運ばれ、全身に多様な症状が出現します。特徴的な症状として、手のひら、足の裏、体幹部などに無痛性の淡い赤い色の発疹が出現する「バラ疹」があります。その他の皮膚粘膜症状として、丘疹性梅毒疹や粘膜疹、扁平コンジローマなどがあります。また後頭部や側頭部の脱毛を生じることがあります。第2期は1~3年ほど続き、その間、症状は消退と再発を繰り返すことがありますが、梅毒が治ったわけではありません。

第3期(晩期梅毒):感染後数年~数十年
ゴムのような腫瘤(ゴム腫)が皮膚や筋肉、骨などに出現し、周囲の組織を破壊してしまうことがあります。また、大動脈瘤や大動脈弁逆流症などの心血管梅毒がみられることもあります。現在は、抗菌薬の普及などにより、晩期梅毒は稀であるといわれています。

神経梅毒
梅毒トレポネーマが中枢神経系に浸潤した状態であり、どの病期でも生じる可能性があります。早期神経梅毒では、無症状の場合と、髄膜炎や脳梗塞などの症状が現れる場合があります。晩期神経梅毒では、脊髄癆や進行麻痺を引き起こします。現在は、抗菌薬の普及によって晩期神経梅毒はほとんどみられません。

▶ 先天梅毒

先天梅毒は、出生時は無症状のことが多いですが、生後数か月以内に水疱性発疹、斑状発疹、丘疹状の皮膚症状に加え、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎、鼻閉などの症状が現れることがあります(早期先天梅毒)。生後約2年以降ではハッチンソン三徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、ハッチンソン歯)やゴム腫がみられます(晩期先天梅毒)。

感染経路

主な感染経路は性的接触(口腔性交、肛門性交を含む)で、口や性器などの粘膜や皮膚が梅毒の病変部位と直接接触することで感染します2-5)。また、梅毒に感染した母親から胎盤を通じて胎児に感染(母子感染/垂直感染)する場合もあります1-6)。極めて稀な例では、傷のある手指が多量の排出菌に汚染された物品に接触して感染したとする報告があります1)。過去には輸血による感染が確認されていましたが、献血時のスクリーニングと新鮮血の供給停止により、現在、症例は報告されていません8)。性的接触などによって生後に感染する梅毒は後天梅毒、胎生期に胎盤経由で垂直感染する梅毒は先天梅毒に大別されます3,6)。

治療方法

梅毒にはペニシリン系抗菌薬が有効であり、内服薬や筋肉注射、点滴で治療します。日本では、2021年9月に、梅毒の世界的な標準治療薬であるベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤の製造販売が承認されました2)。ただし、同製剤は神経梅毒には適応外で使用できないので、その他のペニシリン系抗菌薬の点滴で治療する必要があります。また、ペニシリンアレルギー患者にはテトラサイクリン系やマクロライド系抗菌薬を使用します6,7)。

感染対策

梅毒の多くは性的接触によって感染するため、コンドームの適切な使用が感染予防につながります1,2,5)。ただし、コンドームで覆われない部分から感染する可能性もあるため、完全には予防することができません。なお、感染後1年未満は性的接触による感染力は強く、感染後1年経過すると性的接触による感染力はほぼないとされています7)。先天梅毒の感染は、胎盤が完成する妊娠4か月以降に起こります。したがって、それ以前に治療を行うことで感染を予防することができます3)。梅毒トレポネーマは体組織や体液内以外では1~2時間のうちで死滅します9)。また、消毒薬に対する抵抗性は低いため、クロルヘキシジンや両性界面活性剤、第四級アンモニウム塩などの低水準消毒薬以上が有効であり、石けんや乾燥、熱水(80℃・5秒間)などにも高い感受性を示します9,10)。手指衛生では、速乾性アルコール手指消毒剤などを使用します9)。

参考文献

1) 国立感染症研究所感染症疫学センター. 梅毒とは. 2022年11月30日改訂.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/465-syphilis-info-141107.html. 2023年2月1日現在.

2) 厚生労働省. 梅毒に関するQ&A. 2022年11月22日.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/syphilis_qa.html. 2023年2月1日現在.

3) 吉田眞一. スピロヘータ. 吉田眞一, 柳 雄介, 吉開泰信 編集. 戸田新細菌学改訂34版, 南山堂. 東京. 2015. p.443-64.

4) 厚生労働省. 梅毒.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/syphilis.html. 2023年2月1日現在.

5) 政府広報オンライン. 梅毒が拡大しています!一人ひとりが予防と検査を!. 2022年11月25日更新.
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201712/3.html. 2023年2月1日現在.

6) 清田 浩 他. 性感染症. JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会編集. JAID/JSC感染症治療ガイド2019. 日本感染症学会・日本化学療法学会.東京. 2019.

7) 日本性感染症学会梅毒委員会梅毒診療ガイド作成小委員会, 厚生労働科学研究「性感染症に関する特定感染症予防指針に基づく対策の推進に関する研究」班. 梅毒診療ガイド. 2018年6月15日.

8) 日本赤十字社. その他. 医薬品情報.
https://www.jrc.or.jp/mr/reaction/infection/other/. 2023年2月1日現在.

9) 社団法人日本病院薬剤師会 編集. 消毒薬の使用指針 第三版. 薬事日報社. 東京. 2002.

10) 大久保 憲, 尾家重治, 金光敬二 編集. 2020年版 消毒と滅菌のガイドライン. へるす出版. 東京. 2020.

作成日:2023年3月22日

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