専門家に聞く!医療・福祉現場のAtoZ

第8回:劇症型溶血性レンサ球菌感染症について

東京女子医科大学 感染症科 教授 医師/医学博士
菊池 賢

レンサ球菌の分類と関連疾患

β溶血を示すレンサ球菌による感染症の中で、突発的に発症し、急速に多臓器不全に進行する敗血症性ショック状態である。メディアなどでは、"人食いバクテリア"と呼ばれることがある。

レンサ球菌の分類と関連疾患

まず、STSSについてお話しする前に、レンサ球菌の分類と関連疾患について解説します。レンサ球菌のうち、ヒトへの病原性に関係するものの多くは、β溶血する菌群です。また、β溶血するレンサ球菌の多くはランスフィールド(Lancefield)による血清分類でA群、B群、C群、G群に含まれます。A群抗原を保有するβ溶血レンサ球菌(A群溶血性レンサ球菌)の多くはStreptococcus pyogenesで、咽頭炎や猩紅熱の他、皮膚および軟部組織感染(伝染性膿痂疹、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎、レンサ球菌トキシック症候群)などを引き起こします。特に咽頭炎は小児科外来でよく確認され、「子どもに多い」というのが特徴の1つです。また、B群抗原を保有するβ溶血レンサ球菌(B群溶血性レンサ球菌)はS. agalactiaeで、産褥熱の他、新生児の敗血症や髄膜炎などを引き起こします。そして、C群またはG群抗原を保有するβ溶血レンサ球菌(C, G群溶血性レンサ球菌)のうちS. dysgalactiae subsp. equisimilis (SDSE)は咽頭炎や肺炎の他、蜂巣炎、膿皮症、創傷感染症などを引き起こします。

STSSの特徴と発生経緯

約半数の施設がツーステージ法を推奨

STSSを引き起こす主な原因菌はA群溶血性レンサ球菌で、近年では、C, G群溶血性レンサ球菌も増えています。また、報告数としては少ないですが、B群溶血性レンサ球菌やその他のマイナー菌種が原因となることもあります。STSSの患者は「高齢者に多い」ことと「発症後、急激に病状が悪化する」ことが特徴で、咽頭炎、四肢の疼痛、発熱、血圧低下などの初発症状の後、急速に(数時間以内位)に軟部組織壊死、急性腎不全、急性呼吸促迫症候群、播種性血管内凝固症候群、多臓器不全などを引き起こし、ショック症状から死に至る場合もあります。STSSに感染した患者全体のうち3割強が死亡し、死亡者の過半数は2日以内に亡くなっています。

STSSの発生経緯については様々な研究報告があります。上述のとおり、STSSの多くはA群溶血性レンサ球菌によるものですが、A群溶血性レンサ球菌は咽頭炎などの軽度な感染症を起こすことがほとんどであるため、何がSTSSの引き金となるかという点については不明な部分が数多くあります。一般的には、1980年代、A群溶血性レンサ球菌に何らかの形でたまたま感染してしまったファージというウイルスが入り込み、A群溶血性レンサ球菌が元来持っている毒素産生機能を調整している遺伝子(covRS, rgg)を破壊してしまったために、毒素を高容量で産生し続ける病原性の高い菌が出来上がってしまったのではないかと考えられています。ちなみに、S. pyogenesは環境表面においては脆弱な菌であり、ヒト以外の宿主には感染しないため、ヒトからヒトへの伝播の過程で何らかのイベントがあったのであろうと推測されます。

※身体を構築するタンパク質を溶かすプロテアーゼ、赤血球を破壊するストレプトリジンO(SLO)など

STSSの感染経路

STSSの感染経路はヒト-ヒト感染のみで、咳などによる飛沫感染と、傷口の膿などがヒトの手指や環境表面を介して伝播する接触感染です。STSS患者の多くは初め、単に少し足が腫れているという症状を訴えて来院しますが、先日、私が診察した患者は、来院時には既に大腿部まで真っ赤に腫れあがり、敗血症性のショック状態でした。原因は、G群溶血性レンサ球菌でした。その患者は、来院の前日まで温泉に行かれていて、風呂場で転んで打った箇所の腫れがひどくなり、帰路の車中で熱が出てうわ言も言い出したことから、ご家族が異変に気付いたとのことです。一方、多くのケースでは明らかな外傷歴がなく、どこからSTSSに感染したのかがよくわかりません。ただ、足に水虫がある患者が多いので、そこから感染した可能性も考えられます。

日米におけるSTSS感染報告数

国立感染症研究所によると、日本におけるSTSSの感染報告総数は、2013年:207件、2014年:273件、2015:425件と近年、増加傾向にあります(図1)。この増加要因は大きく3つ考えられます。1つ目は、高齢社会となり、STSSにかかり易い高齢者の人口が増加していることです。STSSの感染が高齢者に集中している要因はまだ明確にされていません。また前述のとおり、STSSを引き起こす主な要因はA群溶血性レンサ球菌ですが、C, G群溶血性レンサ球菌に起因するSTSSは特に70~80代の高齢者に多い傾向があります。今後も高齢化社会の進行に伴い、STSS患者も増加していくものと考えられます。2つ目は、日本国内においてSTSSに対する医療従事者の認知度が高まり、これまでは原因不明の感染症として処理されていたものが、STSSとしてカウントされるようになったことです。3つ目は、近年では、A群のみならずB群やC, G群溶血性レンサ球菌によるSTSSも報告されるようになったことです。

一方、人口の違いに加えて、STSSの定義自体も若干異なりますが、米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)による米国における感染報告総数は、毎年約9,000~11,500件で日本に比べて大幅に多くなっています。これは、米国では糖尿病や高脂血症のヒトが多いことも関係している可能性があります。

その他、STSSに感染していても発症しない不顕性感染がどれくらい存在するのか、また、持続的にSTSSの保菌者となるケースの有無などについては、国内外で具体的な調査が行われていないため、正確な数はわかりません。しかし、両国において感染者が増加していることは間違いありません。

図1:日本におけるSTSS感染報告数の年別推移

国立感染症研究所による感染症発生動向調査 週報(IDWR)のホームページを参考に弊社作成。

STSSの感染予防策

前述のとおり、STSSと水虫との因果関係が明確に証明されているわけではありませんが、私は、水虫からSTSSに感染する可能性は否定できないと考えています。手は、手洗いの際などによく見る機会がありますが、足は靴下や衣服で覆われているため、大半の人はじっくり見る機会がありません。しかし、STSSの多くの症例は足からの感染であると考えられますので、水虫がある場合には積極的に治療する、深爪に注意する、靴ずれを起こさないよう足にフィットする靴を履くなど"フットケア"がとても大切だと考えます。特に、STSS患者の大多数を占める高齢者の中でも、自身の症状を明確に訴えることが困難な認知症患者については、ご家族やヘルパーが足についても気を配り、よく見てあげる必要があります。

これまでのところ、患者から医療従事者にSTSSが感染したという報告はありませんが、STSS患者をケアする医療従事者は、標準予防策に加えて飛沫予防策と接触予防策を確実に行うことが感染予防につながります。

STSS患者の診療を経験して

STSSの治療は、ペニシリン系抗菌薬の投与が第一選択です。ただ、STSSの場合、足にある小さな傷を発端として大腿部まで腫れが急速に広がり、その後は、菌が血流にのって全身臓器に到達するため、抗菌薬が効果を発揮するまでの数時間を待てず、足を切断しなければ患者の命を救えない場合もあります。

医療従事者によるSTSSの早期発見と治療における迅速な判断が必要不可欠です。日本国内でもSTSS感染報告数が増加している現状を重く受け止め、より多くの医療従事者がSTSSに関する知識を深め、足が少しでも腫れてきたら翌日まで我慢せず、一刻も早く医療機関を受診することを患者に促すような啓発活動も重要であると考えます。

取材日:2016年1月7日
インタビュー:サラヤ学術部 吉田・小松・齋藤