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第6回:平成23年6月17日 厚生労働省通知「医療機関等における院内感染対策について」:改正内容とその背景

東京医療保健大学大学院 感染制御学 教授
大久保 憲

平成23年6月17日 厚生労働省通知 「医療機関等における院内感染対策について」

平成17年に厚生労働省医政局指導課長から出された通知「医療施設における院内感染の防止について」が改正されました。別記の留意事項には新たに追加された項目の内容が簡潔に示されています。参考とされた別添「医療施設における院内感染(病院感染)の防止について(平成15年度厚生労働科学研究費補助金による分担研究報告書)」には、推奨事項に加え具体的な事項と解説が記載されています。

平成23年6月17日通知の発表までの経緯

このたび厚生労働省から院内感染対策に関する基本的留意事項についてまとめた通知が発出されました。今回の通知を含めて主なものは3回目になります。そこでまずこれまでの歴史をふりかえってみます。

平成3年6月26日 通知「医療施設における院内感染の防止について」

第1回目の通知は、平成3年6月26日通知「医療施設における院内感染の防止について」です。これは院内感染対策における必要事項を網羅しており長く参考にされましたが、通知の後、新しいエビデンスが出てきた結果、正しくない表現が見つかりました。この通知の内容には例えば、滅菌水による手術時手洗いや環境消毒としての紫外線殺菌灯照射等の対策がありました。これらの検討の中で、滅菌水による手術時手洗いを訂正するためには基となる医療法施行規則を改正しなければならないことがわかりました。そこで、日本手術医学会の研究班(班長:藤井昭先生)のもとに、手術時手洗いをそれぞれ水道水と滅菌水で実施して手袋内の菌数の比較を行ったところ、手洗い水の違いによる菌数の有意な差が見られないことが実証されました。これが一つのエビデンスとなり、平成17年2月1日、「医療法施行規則第二十条第三号中「滅菌手洗い」を「清潔な手洗い」に改める」とする官報が発表されました。医療法施行規則の改正内容を解説するため、同日に新たな通知が発出され、同時に第1回の通知は廃止されました。

平成17年2月1日 通知「医療施設における院内感染の防止について」

平成17年2月1日通知「医療施設における院内感染の防止について」では、第1回目の通知のなかで、手術時手洗い時の滅菌水の使用、粘着マットや薬液浸漬マットの使用、広範囲の環境消毒等、エビデンスのない感染対策を改めています。主な内容は以下のとおりです。

手術時手洗いについては、滅菌水の使用から、水道水などの清潔な流水で十分であるとし、院内での粘着マット及び薬液浸漬マットについては、感染防止効果がないため原則使用しないとされました。環境消毒については、洗面所、便所、汚物処理室は病原微生物が多く、念入りな消毒が必要とされていましたが、環境を消毒しても微生物数はすぐもとに戻るため、一律に広範囲の環境消毒を行わないこととし、血液もしくは体液による汚染がある場合にのみ、汚染局部の清拭除去及び消毒を基本とすると改められました。集中治療室などの区域への出入りの際の履物の履き替えについては、感染防止効果が認められないことから実施する必要はないとし、定期的な落下細菌検査や表面汚染菌検査等については、その結果が施設清潔度の指標になるとされていましたが、検査の方法が統一されてないのにそれを指標とすることには問題があることから、一律に実施するのではなく、必要に応じて行うことと改められました。

このように第1回目の通知を、エビデンスを踏まえて改正したものが平成17年の通知でした。

平成23年6月17日 通知「医療機関等における院内感染対策について」

平成17年の通知(以下、前通知)を改正した平成23年6月17日通知「医療機関等における院内感染対策について」は、前通知に間違いがあったためではなく時代に合わせた表現を加えるために改正されました。多剤耐性アシネトバクターのアウトブレイクがきっかけとなり、アウトブレイクの定義等を入れて発表されました。このアウトブレイクの一件では、多剤耐性アシネトバクターが感染症法における報告対象疾患には含まれていないにも関わらず、保健所等への通報が遅れたことが問題視されました。この事態をうけ、院内感染対策中央会議では、アウトブレイクの定義、保健所に届け出る基準などについて検討し、提言を行いました。この提言の内容を具体的に解説するものとして出されたものが、第3回目の通知です。

平成23年6月17日 通知「医療機関等における院内感染対策について」~改正のポイント~

平成23年6月17日通知「医療機関等における院内感染の防止について」では、院内感染、手指衛生、環境消毒等の考え方について一部改正されました。主な内容は以下のとおりです。

タイトルについて

「医療施設における...」を「医療機関等における...」にタイトルを変更しました。これは対象を福祉施設、老人施設等を除く、病院、クリニック等の医療機関に限定する意図があります。

院内感染の定義について

前通知では、「院内感染は、人から人へ直接、又は医療器具等を媒介して発生する」とされていましたが、今回、「院内感染は、人から人へ直接、又は医療機器、環境等を媒介して発生する」と改めました。これは、近年問題となっているクロストリジウム・ディフィシル、多剤耐性アシネトバクター等は環境からも感染が起こり得るということを背景としています。環境からも感染が伝播する可能性があることが今回の通知で認められたことになります。

手指衛生について

前通知では「手洗い及び手指消毒のための設備・備品等を整備することとともに、患者処置の前後には必ず手指消毒を行うこと」というように患者処置前後の「手指消毒」が強調されていましたが、今回、「手指消毒」から「手指衛生」という言葉に変更されています。前通知が発表された当時は、全ての処置において擦式消毒用アルコール製剤が推奨されていましたが、その後、ノロウイルスやクロストリジウム・ディフィシル等アルコールに抵抗性のある微生物が存在することがわかったため、擦式消毒用アルコール製剤の使用だけなく必要に応じて流水と石けんによる手洗いを行う必要性があることを示しています。

環境消毒の必要性について

前通知は基本的に環境消毒をしない方針でしたが、近年、ノロウイルス、クロストリジウム・ディフィシル、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター等に対しては環境消毒の必要性が指摘されていることから、今回、「多剤耐性菌感染患者が使用した病室等において消毒薬により環境消毒が必要となる場合は、生体に対する毒性等がないように配慮すること」という一文が加えられています。これは多剤耐性菌の患者周辺は環境消毒が必須であるということではなく、必要な場合には実施し、その際は生体毒性に注意するよう呼びかけるものです。

環境消毒に使う消毒薬の種類については具体的に言及していませんが、環境消毒の方法や考え方は以前と同じです。環境整備の基本は清掃であり、高頻度接触面は定期的に清拭し、必要に応じてアルコール等で消毒します。血液・体液等による汚染がある場合は、汚染物を安全に除去したのちに汚染局所のみを消毒します。もちろん、高水準消毒薬を用いた環境消毒は不要です。ごくまれに、クロストリジウム・ディフィシル等のなかでも強毒型の場合には、過酸化水素による病室環境の消毒などが必要となりますが、日本ではそういう事例はまだありません。

平成23年6月17日通知 「医療機関等における院内感染対策について」~新たに追加された項目~

近年、院内感染は、患者の高齢化による易感染者の増加や多剤耐性菌の拡がりにより、各医療機関における対応が難しくなっているため、その対策として、病棟ラウンド、院内感染地域ネットワーク、アウトブレイク、保健所の対応についての項目を新たに追加されました。

病棟ラウンドの実施

今回の通知では病棟ラウンドの実施をすすめていますが、その具体的推奨内容については300床以上と300床未満の病院で分けています。300床以上の病院においては、医師、看護師、検査技師、薬剤師から成る感染制御チーム(ICT)を設置し、定期的に病棟ラウンドを行うことがすすめられます。病棟ラウンドは、可能な限り1週間に1度以上の頻度でICTのうち少なくとも2名以上の参加で行うことが望ましいという目安が示されています。1000床以上の病院におけるICTのラウンドでは、いくつかのチームに分かれて行うのが効率的ですが、その際も2名以上でラウンドすることが必要です。

300床未満の病院は病棟ラウンドが困難な有床診療所等も含まれるため、必要に応じて地域の専門家等に相談できる体制を整備することとしています。

地域ネットワークの構築

緊急時に地域の医療機関同士が速やかに連携し、アウトブレイクに対する支援がなされるためには、地域でネットワークを構築し、日常的に相互の協力関係を築くことが重要です。大学病院や国立病院、公立病院等地域における中核医療機関、あるいは学会指定医療機関等はネットワークの中心的な役割を担うことが望ましいとしています。この学会指定医療機関とは日本環境感染学会の指定する認定教育施設のことです。

ネットワークに決まった形はありません。震災時のネットワークのように一時的なものでも良く、広範囲で複数の都道府県が参加するネットワークでも、密接地域内だけのネットワークでも良いです。大きな病院が集まったネットワーク、大きな病院を中心に中小規模病院やクリニック等が集まったネットワーク等の形も良く、また、複数のネットワークに入っていてかまいません。

現在、東京都では区ごとにネットワークが組織され始めています。各区内の3~4つの大きな病院が中核病院となり、周辺の中小の病院並びにクリニックを対象に講義等を始めています。これは東京都がバックアップして進めているもので、ひとつの見本になると思います。このように、各地域で多くのネットワークが構築され始めています。

日本環境感染学会では教育施設認定委員会が感染対策地域支援ネットワーク作りを支援しています。学会は認定教育施設に対し、ネットワーク活動としてQ&Aやピア・レビュー(peer review)、小規模施設からのラウンド経験を引き受けることなどをすすめています。現在は試行の段階ですが、来年からはこれらの活動内容の報告が認定教育施設の更新要件に加えられる予定です。

アウトブレイクの基準

アウトブレイクを疑う基準は、一例目の発見から4週間以内に、同一病棟において新規に同一菌種による感染症の発病症例が計3例以上特定された場合としています。例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の発見から4週間以内に3例見つかった場合はアウトブレイクが疑われます。バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性アシネトバクターの4菌種は感染症の発病症例だけでなく保菌者を含めて3例以上となっています。偽アウトブレイクとして稀な菌の場合は1例でもアウトブレイクと判断しなければならないこともあります。

アウトブレイクが疑われると判断した場合、院内感染対策委員会又は感染制御チームによる会議を開催し、1週間以内を目安にアウトブレイクに対する院内感染対策を策定かつ実施することが必要です。感染対策を実施しても沈静化しない場合は、速やかに地域の感染対策支援ネットワークに参加する医療機関等の専門家に支援を依頼することが重要です。また、感染症患者が10名以上となった場合や因果関係が否定できない死亡者が確認された場合は保健所に速やかに報告することをすすめています。

保健所の対応

院内感染の対応の際、保健所は医療機関等の専門家の判断も参考にすることが重要です。報告を受けた保健所は、アウトブレイクに対する病院の対応が、発生当初の計画どおりに実施され効果を上げているか、また地域のネットワークに参加する医療機関等の専門家による支援が順調に進められているか、一定期間、定期的に確認し、必要に応じて指導及び助言を行い、また都道府県や政令市等と緊密に連携をとることとしています。

保健所の立ち入り検査や日本病院機能評価受審の際等は厚生労働省の通知の内容が参考にされています。

さいごに

国立感染症研究所によると、日本におけるSTSSの感染報告総数は、2013年:207件、2014年:273件、2015:425件と近年、増加傾向にあります(図1)。この増加要因は大きく3つ考えられます。1つ目は、高齢社会となり、STSSにかかり易い高齢者の人口が増加していることです。STSSの感染が高齢者に集中している要因はまだ明確にされていません。また前述のとおり、STSSを引き起こす主な要因はA群溶血性レンサ球菌ですが、C, G群溶血性レンサ球菌に起因するSTSSは特に70~80代の高齢者に多い傾向があります。今後も高齢化社会の進行に伴い、STSS患者も増加していくものと考えられます。2つ目は、日本国内においてSTSSに対する医療従事者の認知度が高まり、これまでは原因不明の感染症として処理されていたものが、STSSとしてカウントされるようになったことです。3つ目は、近年では、A群のみならずB群やC, G群溶血性レンサ球菌によるSTSSも報告されるようになったことです。

一方、人口の違いに加えて、STSSの定義自体も若干異なりますが、米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)による米国における感染報告総数は、毎年約9,000~11,500件で日本に比べて大幅に多くなっています。これは、米国では糖尿病や高脂血症のヒトが多いことも関係している可能性があります。

その他、STSSに感染していても発症しない不顕性感染がどれくらい存在するのか、また、持続的にSTSSの保菌者となるケースの有無などについては、国内外で具体的な調査が行われていないため、正確な数はわかりません。しかし、両国において感染者が増加していることは間違いありません。

今回の通知は、院内感染対策を実施する上で参考資料として有益な資料ですので、この通知をいかに有効に活用するか、医療機関が主体的に判断することが求められます。

取材日:2011年8月9日
インタビュー:サラヤ学術部 吉田・龍田・野津