第5回:感染対策で臨床検査技師に求められること
臨床検査技師免許とは
臨床検査技師免許は、厚生労働大臣の認可を受けた国家資格であり、医師の指導監督のもとに、血液学的・微生物学的・生化学的検査のほか、心電図・心音図・脳波・筋電図・基礎代謝・呼吸機能・脈波・超音波の生理学的検査等を行う。
感染対策分野においては、「認定臨床微生物検査技師」「感染制御認定臨床微生物検査技師(ICMT)」などの認定資格がある。
目次
感染対策における検査部・臨床検査技師の役割
検査部は感染症などの疾患の情報、検査の結果が一番最初にわかる場所です。 それはつまり、そこが遅延すればすべてのチーム医療が遅れることにつながります。ですから、臨床検査技師はこのことを念頭において仕事をしなければなりません。
感染対策に携わる組織(ICTなど)の中で臨床検査技師が関わる形と言えば、専従で感染対策業務を行う場合と他業務との兼任の場合の2つがあり、関連する部署は微生物検査室 に限局されます。理想としては専従で感染制御に携わることですが、実際は兼任の場合が ほとんどです。それぞれの置かれた立場で専門性や主体性を発揮していく必要があります。
ICMTという存在
臨床検査の中で微生物学を専門とする臨床検査技師の資格として感染制御認定臨床検査技師(以下、ICMT)がありますが、個人的には、300床以上の中規模以上の医療施設には、最低でも1人はICMTが必要だと思います。したがって、当院のような大学病院であれば、複数のICMTを置き、可能であれば感染対策業務に「専従」のICMTと検査部との「兼任」のICMTを置き、互いに情報を共有しあうのが理想的だと考えています。
微生物検査が外部委託の場合
微生物検査を外部委託している施設は数多くありますが、検査そのものを行う場所が院内なのか院外なのかということで感染対策を区別する必要はないと思います。個人的には、時間をかけてでも精度の高い検査が求められるのであれば外部委託でもまったく問題ありませんし、インフルエンザなどの迅速性を要する検査の場合は、微生物検査室がなくても院内で処理すべき検査だと思っています。その辺は経営効率を考えながら、すべてを外部委託するのではなく、一部委託という方法を効率良くとっていくことが大切です。
問題は、すべての微生物検査を外部委託している施設です。そこの技師たちは微生物検査を実施しておらず、検査結果だけを見ることになります。それでは、実際に施設内で微生物検査を実施している技師に比べるとどうしてもレベルが落ちてきます。その辺は、技師会の研修などで補うとよいでしょう。特に大切なのは、報告された検査データを読み解く知識を取得することです。例えば、喀痰から耐性菌が1+で報告された場合、この1+が感染対策上どのような対応を要するのか、標準予防策だけでよいのか接触感染予防策まで必要なのか、個室隔離をしなければならないのか、また保菌なのか感染なのかということを読み解き、マネジメントできれば、微生物検査自体を院内で行うのも院外で行うのも変わりありません。
ラウンド時に見るポイント
効果的なラウンドのためには、多角的な目で見て、見落とさないことが大切です。そのため、臨床検査技師だからといって目的を限定して見るのではなく、広い視野を持って見ればよいと思います。例えば看護師だから環境整備や廃棄物を、医師だから治療を、薬剤師は薬剤の使用について見る...というように始めから限定してしまうと、結局それは一人で回っているのと同じことになります。ICTというチームで動いているのですから、それぞれの職種がそれぞれの目で見て指摘しあうことが大事です。そのため、看護師であっても治療や薬剤についても意見を述べてよいと思いますし、それは薬剤師や臨床検査技師も同じです。このように多角的な目で見て気付かなかったところを補いあい、見落としを無くすことの方が大切です。その上で、治療のことは医師、ケアは看護師というように専門的な部分は役割分担して対応すればよいと思います。
臨床検査に求められること
微生物の専門知識
感染制御に携わる臨床検査技師の必須条件は、微生物の知識を有することです。それぞれの微生物がどのような環境に生息するのか、どこに定着するのか、感染様式はどうかなどは最低限必要な知識です。これらの知識があれば、その微生物の伝播をどう抑えていくかという判断につながります。また、例えばMRSAなどのように皮膚に常在する微生物であれば常時ばらまかれる可能性がありますので、どこまでガードを広げなければならないのか、患者の行動制限はどうか、という判断に発展します。
また最近は薬剤耐性菌の問題もありますので、耐性の機序や、治療薬などの知識も今後必要になってくると思います。これは、新しい耐性菌を拾い上げ見逃しをなくすためにも重要です。感染制御に携わる臨床検査技師は、これらの専門知識を持ち、さらに助言ができるようにしておかなければなりません。そのためには、日々、勉強会や研修会に積極的に参加して知識を得たり、海外論文を検索し最新情報を得ると言った努力をしなければなりません。
気付く力
アウトブレイクなどに気付くためには、日常と違うことを察知する洞察力が必要です。例えば「急に血液培養検体数が増加した...」という場合などに、そのことに気付けるかどうかということです。これは知識だけではカバーできないと思います。人間の五感は大切で、目で見たり匂いを嗅いだり、耳で聞いたりすることで、日々行っていることとの違いに気付く力をつけることです。
検査部とICTの連携を深めるために
臨床検査技師の性格を知る
臨床検査技師はもともと患者と直接接触しない所で仕事をしています。良く言えば縁の下の力持ちですが、あまり前に出ません。それに対して医師や看護師は最前線で患者と向き合う職種ですので、この違いがコミュニケーションをとりにくくする壁の1つなのかも知れません。ICTに所属する臨床検査技師はこの辺りを理解して、検査部とICTの橋渡しをきちんと行い、交流につなげることが大切だと思います。
ICTと検査部の時間的コラボをする
感染対策業務に専従する臨床検査技師がいる施設は非常に稀です。そのため、多くは、ICTに所属するICN等が微生物情報を検査部まで取りに行くことになります。そこで大切なのは、時間的な調整をしておくことです。つまり、ICT側から言えばどの時間帯ならデータがもらえるのか、検査部側から言えばいつ結果が渡せるのかということを、お互いに理解していることが大切です。「こんな時間に来られても困る!」ということにならないよう、業務を円滑に進める上でも、検査部とICTとで時間的な配分と仕事のスピードをコラボレートしなければなりません。
中間報告できる関係を築く
臨床検査技師は結構マジメですので、検査の精度に100%を望むことがあります。 途中経過や「~だろう」という内容は、データの信頼性に欠けるために報告したがりません。しかし、微生物検査は時間のかかるものが多く、現実的には中間報告が求められます。例えば、数日後に出る検査結果を待ってから治療を開始しても間に合う場合もあれば、翌朝にでも治療方針を定めなければならない一刻を争う場合もあります。検査結果が出るまでの過程で、ある程度のことが判明していきますので、その中で、「何%の確率で考えられること」が治療側に伝われば、その時点における最良の対応をとることが可能となります。中間報告と最終結果の乖離は往々にして起こり得ますが、それを恐れず、求められている情報は、リアルタイムですべて報告することが早期治療にもつながります。ただ、聞かれてない場合に何でもかんでも報告してしまうと、混乱させる可能性がありますので、そこは濃淡をつけなければなりません。
臨床検査すべてに言えることですが、スピードと検査精度は反比例します。迅速性を求めると精度は落ちますので、そのジレンマにどう妥協点を見出すかがポイントです。どの検査方法を選び、どのタイミングで結果報告を行うのか、そこは臨床検査技師の力量にかかっています。そして、その中間報告や検査結果を受け入れてもらうためには、医師や他職種との信頼関係を築くことが大切です。
協議できる専門知識を持つ
臨床検査技師は微生物の専門家として、医師や看護師に検査結果を確実に説明し、対応を協議できるだけの知識を持たなければなりません。例えばESBL産生菌が検出された場合、感染制御的にどうするのか、治療を含め患者さんへの対応をどうするのかということを、ICTと協議できるだけの知識が必要です。
耐性菌の知識がない限り、ICTとの協議も出来ませんし、耐性菌の検出すらできないのです。これは国立大学の協議会でも議論になったことがあるのですが、現時点で、耐性菌の簡単な検出系はありません。現在、日本全国、どの検査部でもNDM-1のような耐性菌を見つけ出すことは困難で、検出することが出来る施設もあれば、気付かずに見過ごされる施設もあるのが現状です。どのようなプロセスを踏んで検出するのか、その技術は検査部に委ねられていますので、研修会や勉強会に参加するなどして常に知識を取得する必要があります。しかし、研修会のレベルには地域差があるという声が沢山聞かれていますので、指導的な立場にある臨床検査技師は、底上げを図るための教育啓発をしていかなければなりません。
さいごに
ICTは仕事が任せられるプロ集団
ICTや感染制御部といった組織は、ICD、ICN、ICPS、ICMTなど、それぞれに専門分野を持つ多職種の集団です。もちろん、重複する分野も沢山ありますが、多職種の中でうまくコミュニケーションをとるコツは、信頼し、互いのプレーやテリトリーを侵害しないことだと思います。野球を例に考えてみると、例えばフライが上がった時、皆で一斉に捕りに行ってぶつかり、結局捕れなかった...では意味がないのです。
チーム内の協力やコミュニケーションもそうですが、現場との協和や連携も難しいものです。実際に診療やケアを行う現場の主治医団は、自信を持って医療に当たります。それについてICTメンバーが上から目線で「この薬剤はこうだから...」というような指摘を行うと、「患者も診てないくせに」ということになりかねません。アドバイスを行うときは、相手の立場を考慮して上手に話さなければいけません。そして、このような時にものを言うのは、経験と「あいつの言うことは聞いといて間違いはない」と思わせる信頼だと思います。信頼を得るためには、日々現場に足を運んで耳を傾け、話をし、お互いを知ることが大切です。
取材日:2011年2月23日
インタビュー:サラヤ学術部 吉田・小松


