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第3回:多剤耐性緑膿菌(MDRP)

東邦大学 医学部医学科 微生物学・感染症学講座 准教授/医学博士
舘田 一博

多剤耐性緑膿菌(MDRP)とは

湿潤環境を好んで生息するグラム陰性桿菌の1つが緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)。その中で、カルバペネム、フルオロキノロン、アミノグリコシドに同時に耐性を示すものが多剤耐性緑膿菌(multiple‐drug‐resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)。

多剤耐性緑膿菌(MDRP)とは

緑膿菌と多剤耐性緑膿菌(MDRP)

緑膿菌は、自然界、特にトイレや流し場といった湿った環境に高率に存在する細菌です。例えばコンタクトレンズの保存液を培養すると検出されることがありますし、アメリカではじめじめした靴の底から緑膿菌に感染したという報告もあります。また、野菜に付着していることもあり、それを食べることで緑膿菌が腸管に運び込まれます。そのため、私たちの腸管の中には、菌数は少ないものの緑膿菌が存在し、便中に少しずつ緑膿菌が排出されることが知られています。勿論、腸管内の緑膿菌により健康なヒトが下痢を起こすようなことはありません。普通は問題とならないのですが、免疫不全状態の患者であれば、感染症を発症することがあります。

このように、私たちの身の回りに広く存在している緑膿菌で、多くの抗菌薬に耐性を獲得したものがMDRP(多剤耐性緑膿菌:multiple‐drug‐resistant Pseudomonas aeruginosa)です。

多剤耐性緑膿菌(MDRP)の定義

MDRPは多剤耐性緑膿菌あるいは薬剤耐性緑膿菌と訳されますが、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)では、イミペネム、シプロフロキサシンおよびアミカシンに耐性を獲得した緑膿菌を「薬剤耐性緑膿菌」とし、本菌による感染症を「薬剤耐性緑膿菌感染症」として五類感染症定点把握疾患に分類しています。これらの薬剤はそれぞれカルバペネム、フルオロキノロンおよびアミノ配糖体に属する抗菌薬で、緑膿菌感染症の代表的な治療薬です。感染症法では、具体的に以下のような届出基準が設けられており、検出された定点医療機関は、月単位で保健所に報告を行う必要があります。

検出された緑膿菌が、感染症の起因菌と判定され、以下の3条件すべてを満たした場合
  • イミペネムのMIC≧16μg/ml又は、イミペネムの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が13mm以下

  • アミカシンのMIC≧32μg/ml又は、アミカシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が14mm以下

  • シプロフロキサシンのMIC≧4μg/ml又は、シプロフロキサシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が15mm以下)

※厚生労働省届出票より改変

これら3系統の薬剤の中でもカルバペネム系薬剤は強い抗菌活性を示すため、現在、臨床現場では切り札的に使用されています。しかし、MDRPはこれらすべてに同時に耐性を示すことから、免疫機能不全の患者などにMDRPが感染してしまえば、「使う薬剤がない」という状況に追い込まれてしまいます。

※舘田一博:第24回日本環境感染学会総会・教育セミナー資料より

緑膿菌の薬剤耐性化機構

薬剤耐性化のメカニズム

緑膿菌は、もともと抗菌薬に対して耐性化傾向が強いと考えられています。細菌が耐性を獲得する主なメカニズムとして、(1)抗菌薬の不活化、(2)作用点の変異、(3)抗菌薬の排出、(4)作用点の保護の4つがあります。緑膿菌の耐性機構としてもこれら4つの可能性が考えられています。

※舘田一博:第24回日本環境感染学会総会・教育セミナー資料より

この中でも特に注目してほしい大切なポイントは、(1)抗菌薬の不活化による耐性です。MDRPにおいて最も特徴的なのは、抗菌薬の中でもペニシリンなどのβ-ラクタム剤を分解する酵素(β-ラクタマーゼ)を産生することです。これにより、多くの抗菌薬を不活化してしまいます。

メタロ-β-ラクタマーゼの脅威

β-ラクタマーゼにはA、B、C、Dのクラスがあり、その中でもクラスBのβ-ラクタマーゼ(メタロ-β-ラクタマーゼ)は、カルバペネムを含むほとんど全てのβラクタム剤に耐性をもたらす非常に怖い酵素です。耐性緑膿菌の70~80%近くがこのメタロ-β-ラクタマーゼを産生していることが知られており、これが臨床現場で切り札的に使用されているカルバペネムに対して耐性を示す原因となっています。

ちなみに、同じβ-ラクタマーゼの中でもクラスAの酵素(ペニシリナーゼ)の中からセフェム剤をも分解する酵素が出現し、ESBL産生菌として注目されています。この菌はペニシリンやセフェムを分解して耐性を示しますが、カルバペネムは分解できません。そのためカルバペネムには感受性を示します。

MDRPは耐性菌の頂点

緑膿菌は、身の回りの湿潤環境に数多く生息しており、医療関連感染の事例から見ると、シャワーヘッド、ファイバースコープ、流し場などで増殖し、ヒトからヒトへ、医療器具からヒトへと伝播していくことが数多く報告されています。

ヒトに感染した緑膿菌は、肺炎や尿路感染症、敗血症といった三大感染症の原因菌になり得ます。その他にも角膜炎、外耳道炎、白血球減少症患者においては壊疽性膿瘡などの致死的な感染症を引き起こすことがあります。また、最近の話題としては、便中に排出された緑膿菌がウォシュレットのノズル先端部に付着し、それが原因で院内伝播をしたのではないかと考えられる報告もあります。このように、緑膿菌は身近に存在して多彩な感染症を引き起こす能力を有する、非常に手ごわい細菌の1つです。

このように環境中に常在し多彩な感染症を引き起こす緑膿菌からMDRPが誕生する過程はさまざまであり、多様性に富んでいます。その意味では、耐性菌の頂点にあると言えるでしょう。ほとんどの薬剤が効かなくなったMDRPが免疫力の低下した患者に感染したときは、非常に深刻な問題を引き起こしかねません。

医療関連感染とMDRP

院内伝播の現状

現在、日本国内の医療施設において発生した緑膿菌感染症のうち、MDRPによるものは3%程度だと考えられています。

※舘田一博:第24回日本環境感染学会総会・教育セミナー資料より

諸外国とはMDRPの具体的な定義が異なるため、日本と海外の状況を比較することはできませんが、国内に限って言えば、過去10年間、前述の3剤に耐性を獲得したMDRPの検出率は増えていません(下表)。その意味では感染対策がうまくいっていると考えても良いのかも知れませんが、MDRP予備軍と言える2剤耐性緑膿菌はMDRPの5倍から6倍存在していることに注意する必要があります。

※厚生労働省『「多剤耐性菌の動向把握に関する意見交換会」の資料について』をもとに作成

*2010年は1月1日~7月30日までの報告

さいごに

耐性菌追跡は現在進行形で

これまでのMDRPによる医療関連感染の報道では大学病院の事例が多く取り上げられてきました。しかし、これは沢山の患者が収容される大きな施設に限ったことではないと思います。恐らく町の小さな病院でも起こっているのではないでしょうか。

MDRP対策を考える際に大切なのは、自分たちの施設におけるMDRP発生状況をきちんと把握できているかどうかです。具体的に言うと、全国平均が3%程度で、自施設では1%程度のラインを推移している...というようなことです。しかもその上で、例えば昨日、今日、今週、MDRPが何例検出されたか、On-goingな症例を把握できているかが重要です。それらがうまくできれば「コントロールできている」と言えるでしょう。過去を振り返ってサーベイランスを行い「1年前は大丈夫だったが、今はどうかわからない」ではダメです。現在進行形で追いかけることが大切です。

薬剤耐性菌を恐れるばかりではなく、細菌の特徴を把握しながら、正しく効果的に、現在進行形の対応をしていくことが求められています。

取材日:2010年10月27日
インタビュー:サラヤ学術部 小松・吉田