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第20回:アルコール手指消毒剤による皮膚刺激・手荒れとその対策

川崎医科大学附属病院 皮膚科 教授/部長
青山 裕美

はじめに

手荒れとは?手荒れのメカニズムとかぶれとの違い

手荒れとは、手の表面が荒れた状態を指します。健康な皮膚では、皮膚の表面はなめらかですが、手荒れでは、皮膚の表面が過角化を起こし粗造になります。皮膚の伸展性が失われるため、亀裂(ひび割れ)が入り、そこから細菌やウイルスなどが入ることで感染を起こしやすくなります。したがって、手荒れを治療することは感染対策にもつながります。まず、手荒れに対する正しい知識をもつことが対策に必要です1)。手荒れは手の状態を示す総称であり、俗語で皮膚疾患の正式名称ではありません。そのため、病態や治療を考える際には、さらに詳しい診断名をつけることが必要です。手荒れに近い疾患名として、乾燥性皮膚炎があります。一方、かぶれは、手の表面が荒れた状態を指すのではなく、何らかの物質が皮膚に接触することで起こる皮膚炎であり、刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎があります。

ポイント

手荒れは、皮膚の表面が粗造になった状態です。疾患により手に生じた皮膚異常のことで、疾患の原因や病態を特定すれば治すことができます。

図 手荒れの進行による症状の違い

刺激性接触皮膚炎とは?

刺激性接触皮膚炎とは、外来性の物質で表皮細胞に障害を与える刺激物質が皮膚に付着し、生じる皮膚炎です。刺激物質への反応は非特異的で、すべての人に同様の症状を起こします。しかし、刺激症状の程度は、刺激物質の濃度と曝露時間、そして皮膚の防御能の強さによります。刺激性接触皮膚炎の代表例として、おむつ皮膚炎が挙げられます。おむつ皮膚炎は尿が刺激物質として皮膚に障害を与えた結果、生じる皮膚炎です。アルカリ性の尿が付着したおむつを長時間皮膚に接触させれば、誰でも生じます。しかし、皮膚バリア機能の低下した患者は、短時間で発症し、症状がひどくなります。刺激性接触皮膚炎の好発部位は、手です。水を使う仕事をしている人、いわゆるウェットワーカーは、手に刺激性接触皮膚炎を起こしやすいといわれています。

刺激性接触皮膚炎を生じる物質側の主要因は、角層の機能を低下させる作用です。具体的には、アルコールなどの溶剤、界面活性剤、極端な酸性やアルカリ性の物質、細胞に対する毒性物質があります。それぞれの物質の安全性は、個別のデータシートに記載されており、市販の製品では、刺激がないことが臨床試験で証明されています。しかし、試験の対象者は健常人であることが多いので、敏感肌の方は注意が必要です。

刺激性接触皮膚炎を誘発する物理的な要因は、皮膚の摩擦、皮膚の乾燥、水の温度です。水仕事を長時間すると、角層がふやけて、摩擦により角質細胞が剥離しやすくなります。私たちは、水曝露と乾燥を繰り返して手の発汗が抑制されることで、角層水分量が低下し、皮膚が乾燥してバリア機能が低下し、皮膚炎が起きやすくなることを明らかにしました2)。長年、水は水分を含んでいるのに、なぜ水仕事をすると手が乾燥するのか、謎でしたが、その理由が明らかになりました。

ポイント

刺激性接触皮膚炎は、誰でも生じる反応です。
対象物質の濃度が濃く、皮膚のバリア機能が低下している場合、反応が生じやすくなります。

刺激性皮膚炎の治療と対策

皮膚科医は、刺激性接触皮膚炎を改善させるために、原因と悪化要因を聴取し、特定します。具体的には、手を1日に何回洗うか、手が水でぬれているのは何時間か、手袋で密封しているか、石けんは何を使っているか、繰り返し角層を摩擦することがあるか、浸水と乾燥を繰り返すか、温度によるダメージはあるか、など皮膚障害を起こす化学物質への曝露の有無を確認します。そして、刺激をできるだけ取り除くことで、症状の改善状況を確認します。

ポイント

刺激性接触皮膚炎を防ぐために、手袋などを着用して、刺激物質にさわらないようにしましょう。

アレルギー性接触皮膚炎とは?

アレルギー性接触皮膚炎(Contact dermatitis)は、物質により感作が生じ、遅延型アレルギー反応を生じている状態をいいます。例えば、手袋に含まれる加硫促進剤によるアレルギーなどがあります。われわれの身体には免疫があり、自分とは違う分子が体内に侵入すると、抗原として抗原提示細胞に認識されて、リンパ節で抗原特異的なメモリーT細胞が生じます(感作相)。同じ抗原が経皮的に侵入すると、そのメモリーT細胞が侵入部位に移動し、表皮内に海綿状態を形成します(惹起相)。この反応を、遅延型アレルギー(IV型アレルギー)といいます。一般的に、かぶれという状態 は、感作が成立し、惹起された状態のことをいいます。アレルギー性接触皮膚炎をおこした手の皮膚は、赤く腫れ、小さな丘疹が生じます。丘疹は水をもったプツプツとした皮疹で、強い痒みがあるのが特徴です。感作相にも、惹起相にもさまざまな細胞が複雑に関与しています。刺激性接触皮膚炎とは異なり、遅延型アレルギー反応の惹起相は、物質が接触してから24時間から48時間がピークになります。また、最初に生じた湿疹部位から紅斑が広がっていくのが特徴です。

アレルギー性接触皮膚炎の最大の特徴は、感作に時間がかかること、いったん感作が成立するとその物質に対する炎症の記憶が成立するため、再び触れると炎症が生じることです。

ポイント

アレルギー性接触皮膚炎は、遅延型アレルギー反応で、感作が成立した人のみに生じます。

アレルギー性接触皮膚炎の治療と対策

アレルギー性接触皮膚炎は、バリア異常と環境にある抗原が原因になるといわれています。アレルギー性接触皮膚炎の危険因子は、バリア異常と職業です。幼少期にアトピー性皮膚炎を生じた経験や現在もアトピー性皮膚炎があること、水仕事への従事や寒くて乾燥した職場環境、喫煙やストレスなども悪化因子になります。職業としては、美容師、医療従事者、金属を扱う仕事に従事する者や歯科関係者が手湿疹を生じやすいです。水仕事だけでなく、抗原に触れやすい職場環境や、抗原に触れる作業のある製パン業、精肉業、花屋、貨幣に触れる職業も手湿疹を生じやすいことが知られています。汗は、皮膚表面の潤いを維持する作用がありますが、前述した通り繰り返し水に触れると、手に汗をかきにくくなり角層の乾燥を誘導します。汗が減少して、角層が乾燥するとバリア機能が低下し、経皮感作が成立することが動物実験でも証明されています。また、保湿して角層の水分量を増やすことで皮膚炎が抑制されました3)。そのため、手湿疹の患者さんの治療は、バリア機能を回復させるためのスキンケアを行い、悪化因子を取り除き、感作物質に触れないようにした上で、湿疹や皮膚の亀裂を外用療法で治療します。

新しい物質を使い始めて、しばらくは何も生じなかったのに、段々皮膚炎が生じてくる、または一旦皮膚炎が治ってから、また同じ物質に触れると再び皮膚炎が生じたりかゆみを生じたりするのは、免疫記憶が成立しているからです。免疫は、自分と他者を区別して、他者を排除する必要な機能なので、一度その物質を排除するための免疫が成立してしまうと、記憶を消すことが難しくなります。繰り返し皮膚炎が起きると慢性化するため、予防と治療が必要です。皮膚炎が軽快すれば、免疫記憶も徐々に低下していきます。

ポイント

アレルギー性接触皮膚炎は、物質に対する免疫が成立して生じる反応です。慢性化すると治りにくくなります。

アルコール手指消毒剤による皮膚刺激・手荒れのメカニズム

多くの人が、アルコール消毒は、手荒れの原因になると認識しています。今回この原稿を執筆するにあたり、アルコール手指消毒剤は手湿疹の悪化要因になるかという疑問に対して、文献を調べたところ、アルコール手指消毒剤が手湿疹の悪化要因であるという報告が極めて少ないことに気づきました。アルコール手指消毒剤は、石けんと流水による手洗いよりも皮膚炎を起こしにくいという報告もありました。Lohらは、COVID-19のパンデミック下で手指消毒の機会が増えたことをきっかけに複数の論文を対象にメタ解析を行い、手洗いの回数と手湿疹は関係があるが、手洗いの回数が同等であればアルコール消毒「あり群」と「なし群」を比較しても手湿疹の発生率は変わらず、アルコール手指消毒剤は手湿疹に対する相対リスクはとても低いと結論づけています4)。感染対策として石けんと流水による手洗いよりもアルコール手指消毒剤による手指消毒のほうが、手荒れを起こしにくいということは重要な情報です。

アルコール手指消毒剤による手指衛生は、手湿疹との関連性は少ないにもかかわらず、一般的にアルコールは手指の乾燥や湿疹を誘導すると思われている理由の一つに、傷にアルコールが作用して強い痛みや刺激を誘導するからではないかといわれています。皮膚科医は、時に手湿疹のある医療従事者から原因の調査を依頼されたり、使用者にとって安全な製品(使用可能な製品)の相談を受けたりすることがあります。パッチテストを実施して、陰性であれば使用可能と判定し、陽性であればアレルギー性接触皮膚炎の原因になるので、使用を中止してもらっています。アルコール手指消毒剤は、単剤ではなくて、複合製品のため、アルコール以外の成分によって感作が成立している可能性もあります。

ポイント

アルコール手指消毒剤による手指衛生は、流水と石けんによる手洗いよりも、手湿疹を生じる危険性は低い。

アルコール手指消毒剤による皮膚刺激・手荒れへの対策

アルコールそのもので手指がかぶれることは少ないことがわかりました。しかし、皮膚に細かい亀裂があると、アルコール手指消毒剤を使用するたびに、痛みが生じ、亀裂の創傷治癒が遅延し、そこから刺激性皮膚炎がはじまることはありえます。そのため、対策が必要です。

一般的に、刺激や手荒れの原因を特定して、接触を避けることが重要です。また、手指のバリア機能低下を改善させる目的で保湿剤を使用したスキンケアは、手荒れ対策の基本です。手湿疹の症状として、湿疹や紅斑がある場合は、保湿剤と抗炎症作用のある外用薬で集中的に手湿疹を治します。湿疹が改善して、バリア機能が回復するまでに数週間かかることもありますので、完全に回復するまでは原因物質に触れないようにします。また強力なステロイド外用薬は、皮膚のバリア機能を低下させますので、原因物質を特定し、触れないことが手荒れを治すコツです。

ポイント

手荒れ対策は、①保湿剤によるスキンケア ②皮膚炎を治すこと ③原因を取り除くこと です。

手荒れによる手指からの易感染のリスク

手荒れをおこした皮膚には細かい傷があり、バリア機能が低下しているため、感染を起こしやすく注意が必要です。理由は細菌、真菌、ウイルスによる感染症を生じる可能性があるためです。具体的には、傷から一般細菌が侵入して感染を起こすと、感染が表皮に限局する表在性皮膚感染症になりますが、宿主の免疫が低下していたり、強毒菌であれば真皮に炎症が波及します。ひょう疽という指全体が腫れる皮膚感染症や、前腕に炎症が波及する蜂窩織炎になることもあります。炎症が真皮や皮下組織に波及した場合は、内服抗菌薬の服薬が必要です。ウイルス感染症としては、単純ヘルペスによってひょう疽が生じることもあります。また、ヒトパピローマ(HPV)ウイルスにより、いぼ(尋常性疣贅)が生じることもあります。傷があるために絆創膏を貼り続けて水仕事をすると、絆創膏貼付部位が水で浸軟化して、カンジダという真菌による爪囲炎や爪の感染症が生じることもあります。

ポイント

手荒れから、感染を起こすことがあります。手荒れを治しましょう。

まとめ

手荒れは、ありふれた症状です。慣れてしまって放置すると、炎症が慢性化して難治性になったり、感染を起こしたりすることもあります。適切に診断して、原因物質を特定し、治療することが必要です。皮膚炎が治癒しても、感作物質に触れると再発しますので、触れないようにしましょう。手荒れを生じやすい職場では、手荒れ対策の必要性を意識して、職場環境を整え、対策に取り組むことが必要です。

参考文献

1)高山かおる, 片山一朗, 室田浩之 他. 手湿疹診療ガイドライン日皮会誌:128(3).367-386. 2018.
2)Sato T, Katayama C, Hayashida Y, Asanuma Y, Aoyama Y. Role of basal sweating in maintaining skin hydration in the finger: A long-standing paradox in dry skin resolved. Exp Dermatol. 2022 Dec;31(12):1891-1899.
3)Ishimaru H, Nakamoto K, Yamane M, et al. Sweat Protects against Contact Hypersensitivity: Transient Sweat Suppression Compromises Skin Barrier Function in Mice. J Invest Dermatol. 2024 Mar 22:S0022-202X(24)00196-9.
4)Loh EW, Yew YW. Hand hygiene and hand eczema: A systematic review and meta-analysis. Contact Dermatitis. 2022 Oct;87(4):303-314.

2024年8月1日現在

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