第19回:透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(六訂版)改訂のポイント
目次
はじめに
2022年11月11日、透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(五訂版)改訂に向けたワーキンググループメンバーが招集された。そこで、ガイドライン改訂の範囲、期間、プロジェクトの目的の提示と説明がなされた。六訂版の作成にあたっては、2021年に改訂された「 Minds 診療ガイドライン作成マニュアル」に基づき、ガイドライン作成過程の明確化や適正なエビデンスの評価を行うが、ガイドラインを使用する対象者が主に施設従事者であるため、従来通りの記述型のガイドラインとすることとなった。ただし、各章の担当者が文献検索を確実に行って最新のエビデンスに更新査読者が評価するという方法で作成し、「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(六訂版)」の発刊は2023年12月末を目指すこととなった。
ガイドラインの変遷と六訂版の概要
このガイドラインは、1999年初版の「透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」から数年ごとに改訂されている。2015年四訂版は「マニュアル」から「ガイドライン」へ見直しが行われ、推奨度とエビデンスレベルが示された。
現行版では各ステートメントに1A、2Cなど、推奨度とエビデンスレベルの組み合わせで示されている。例えば、第2章 院内感染予防の基本 Ⅲの標準予防策(スタンダードプリコーション)では「標準予防策の基本は手指消毒と個人防護用具(PPE)の着用である。患者が保有する病原体を医療従事者が受け取らず、広げないために、適切な手指衛生の実施及び個人防護具の着用が必要である(Level 1A)」と表記されている。ガイドラインは2020年5月に五訂版まで作成されており、五訂版の発刊準備中に新型コロナウイルス感染症(以下、COVID‐19)のパンデミックが起きてから、感染早期から感染拡大期へ、そしてまん延期への対応へと変化していった。五訂版の第5章には、各種感染症患者に対する感染予防とその治療「新興感染症」についても記載されている。
X新興感染症
本来なら、COVID-19は第5章に記載をすべきではあったが、五訂版改訂作業の時点ではCOVID-19に関する情報や知識などが蓄積されていない状態であったことから、五訂版には記載していない。今回の六訂版の改訂は2020年5月から3年6カ月と短いスパンではあるが、五訂版改訂時にはなかったCOVID-19に関するエビデンスが多く報告されている。よって、六訂版では、五訂版に記載している内容の改訂に加え、次の内容(項目)を六訂版で新たに加えている。
以下、六訂版で新規に追加した項目
本ガイドライン使用上の注意は、透析施設への保健所の立入調査時の指導や医療紛争の際に論拠となるものではなく、各透析施設が感染対策マニュアルを作成するための手引きとなるように作成するものであると確認した。そして2023年、第68回 日本透析医学会学術集会・総会において、「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン改訂の方向性」として草案の一部を公開することになった。
六訂版の変更点
今回は「第1章 標準的透析操作」と「第3章 標準的洗浄・消毒・滅菌」の一部についてここで詳細を述べる。
●第1章 標準的透析操作の変更点
Ⅰ 標準的な透析操作
2.注射薬・医療材料・皮膚消毒薬の準備 項目の追加点
本項目の改訂を進める中で、2023年10月30日に国内の透析施設におけるC型肝炎ウイルス(HCV)のアウトブレイクの報告があった1)。この事例は2022年から2023年にかけてHCVの新規感染者が5名発生した事案である。関連機関により調査が行われたが院内感染であったかどうか、アウトブレイクの原因や感染経路は明らかになっていない。C型肝炎は血液媒介感染症であり、院内感染事例は観血的処置の行われる透析施設やカテーテル検査場面などで報告されている。例えば、2005年宮崎県では、人工透析を受けている患者12名が肝機能異常を示した2)。当時、院内感染のほとんどは、透析中の抗凝固薬の調製過程での肝炎ウイルスの混入など、標準的な透析操作や感染対策の不備が指摘されていた。
透析施設の患者は、穿刺や返血など観血的治療が行われ、さらに透析合併症の治療のために静脈注射製剤の使用が多いことから、ハイリスク集団といえる。透析施設は一般外来や病棟と比べ、患者の血液が透析開始・終了の際に外界と接触する可能性があり、感染の危険性は増加する。さらに、患者の血液が周囲の環境を汚染し他の患者の感染源となる可能性もある。従って透析室は、常に観血的治療が行われている環境から、血液媒介感染症対策が重要である。
この事例を受け、注射薬・医療材料の一部ステータスに血液媒介感染症対策を強化した内容、「清潔な未使用のディスポーザブル手袋・サージカルマスクを着用することを推奨する」を追加した。
2.注射薬・医療材料・皮膚消毒薬の準備
本項目の解説の追加点
2005年以前は、500~1000mLの生理食塩水にヘパリンを混注して多数のヘパリン加生食を作成してシリンジに詰めて使用していた。その問題点は、ヘパリン加生食を作成するのに時間がかかる、煩雑、作成する過程で微生物が混注し不潔になる可能性があることなどがあり、肝炎多発の原因にもなっていた。そこで、2005年にプレフィルドシリンジが開発された。使用の利点は、薬液の詰め替えなど調製作業が不要で調剤時の微生物汚染・異物混入の防止が可能、薬剤名・濃度が表示されており、薬剤の取り違いや希釈ミスなど調剤時の過誤の防止ができることである。そして、2008年三訂版のマニュアルからプレフィルドシリンジ使用について記載されることになった。さらに、2015年四訂版では「プレフィルドシリンジ製品が市販されている薬剤に関しては、極力これを選択する(Level 1A)」と記載され、それからヘパリンは急速に普及していった。2006年の調査3)では、エリスロポエチンのプレフィルドシリンジの使用率は94.9%に対し、へパリンのプレフィルドシリンジの普及率27.1%しかなかったが、2021年調査結果4)はヘパリンのプレフィルドシリンジは87.3%(病院92.8%、診療所81.6%)と普及が進んだ。
今回のHCVアウトブレイクの事例は感染経路不明であるが、五訂版の解説には、「安全性からプレフィルドシリンジ製剤を極力使用することと、キャップシールの剥がれがないことを確認し使用する」とのみの記載であった。透析室は常に観血的な治療が行われている環境から、血液媒介感染症対策として、六訂版には「プレフィルドシリンジ製剤は開封後の使用は1回限りとして、共有や分割使用しない。使用後の残薬はシリンジとともに速やかに廃棄すること」が解説に追加された。
9.透析用カテーテル(非カフ型カテーテル及びカフ型カテーテル)による透析操作
我が国の慢性透析療法の現況5)は、透析患者の平均年齢69.67歳、透析導入年齢は71.09歳と年々上昇している。透析患者の高齢化に伴い、バスキュラーアクセス作製の困難症例も増加しており、カフ型カテーテルを挿入し導入する症例が増えている。カフ型カテーテルの合併症として感染と閉塞がある。カテーテル閉塞の原因は、①カテーテル内腔の血栓性閉塞 ②フィブリンシースの形成 ③右心房内壁への「へばりつき現象」などがある6)。カテーテル閉塞の場合は、ウロキナーゼにより血栓溶解、カテーテルの入れ替えが主な解決法として推奨されている6)。
実臨床のカテーテル閉塞予防の方法は、日常の透析開始時に医師の指示を受け、必要に応じてポンピング操作(血栓除去後に圧力をかけて血液を出し入れすること)を行うことで付着したフィ ブリンや血栓が除去され、カテーテルの血栓除去術、入れ替えを回避できているという報告もある7〜11)。さらに、2022年ウロキナーゼが販売中止となり、カテーテル内へのウロキナーゼの充填や血栓溶解が困難となっている。このことから、カテーテル閉塞予防の方法として、「日常の透析開始時のポンピング操作」について解説へ追加した。現在は、在宅透析や一部の透析施設でポンピングを実施しているが、エビデンスレベルに至っていない。ポンピング操作が有効であるかについて前向きに研究をしていくことが課題である。
●第3章 標準的洗浄・消毒・滅菌の変更点
Ⅲ 患者療養環境の清掃・消毒
本項目の解説の変更点
五訂版の解説では、「リネン類は環境表面とは異なり、清拭による消毒は困難である。リネン類は基本的に洗濯による清浄化に頼ることになる。患者ごとに交換することが望ましい。」と記載されていた。
透析終了後の環境整備では、透析装置や患者が使用したベッド、ベッド柵、オーバーテーブル、血圧計マンシェットなどは血液が付着している可能性が高く、透析装置と同様に洗浄消毒を透析終了毎に行う必要がある。実際には、同一のリネンからCOVID-19やインフルエンザ、ノロウイルスなどがどれくらい伝播するかは明確ではない。しかし、筆者の経験では、感染性胃腸炎に罹患した透析中の患者の嘔吐により、周辺患者および同一クールでのアウトブレイクの経験がある。原因は吐物処理の方法の不備や環境消毒の不足などが考えられる。また、シーツ交換ごとにほこりが舞うことによる環境の汚染や、治療中の患者が吸い込むというデメリットがある。透析終了毎のリネンの交換など、施設ごとの背景や人員なども考慮しながら、感染対策の一つの方法として「防水マットレスや防水シーツを使用し、明らかな汚染がなければ、透析終了ごとに清拭消毒のみで対応可能である。」を解説に追加した。
筆者の施設では週1回のリネン交換、または血液汚染時はその都度リネン交換をしていたが、2021年3月に入院病棟で3名のCOVID-19アウトブレイクがあり、透析終了毎にリネン交換を開始し、同年7月から全ベッドに非透水性ベッドマットを導入した(写真2-3)。リネン交換にかかる時間がこれまでの1人あたり1分30秒から非透水性ベッドマット変更後には40秒で対応可能となり、50秒短縮することができた。また、2人でリネン交換していたが1人で実施可能にもなった。それにより、例えばベッド20台分のシーツ交換を毎回実施していた場合と比較すると、清拭可能な非透水性ベッドマットでは16分(50秒×ベッド20台分)×2人分の時間削減になり、患者への生活指導やフットケアなどの業務に充てることが可能となった。さらに全施設の118台のベッドで導入したことで、年間のクリーニング代の削減につながった。
参考文献
1)日本透析医学会. 国内の透析施設におけるC型肝炎ウイルス(HCV)のアウトブレイクについて. https://www.jsdt.or.jp/info/4109.html(2023年12月21日参照)
2)森那美子他. C型肝炎ウイルス院内感染への対応と対策. 肝臓 51(6)273-2762010.
3)安藤亮一他. 透析施設におけるウイルス性肝炎に対する院内感染対策防止の現況.
日本透析医学会雑誌 42(6)423-433 2009.
4)安藤亮一他. 令和3年透析医療事故と医療安全に関する調査報告. 日本透析医学会
雑誌 37(3)421-439 2022.
5)日本透析医学会統計調査委員会:図説. わが国の慢性血液透析療法の現況(2021年12月31日現在)日本透析医学会雑誌. 55(12)2022.
6)日本透析医学会. 慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製およぼ修復に関するガイドライン. 透析会誌 44:855‐938 2011.
7)松岡一江,池田潔. バスキュラーアクセスの種類と適応. カテーテル(長期留置型・短期留置型)腎と透析. 92. 200-203 2022.
8)松岡一江,池田潔 臨床使用の実際 在宅血液透析での使用. 小川智也監修. 宮本雅仁,石田容子編. カテーテル透析パーフェクトマネジメント. 東京. 日本医事新報社. 2022. 112-118 2022.
9)末木志奈. 留置カテーテルの分類と特徴. 脱血不良や再循環の評価と対応. 小川智也監修. 宮本雅仁,石田容子編. カテーテル透析パーフェクトマネジメント. 東京. 日本医事新報社. 2022. 212-217 2022.
10)谷川総子,小川智也. 知っておきたい留置カテーテルに関する知識. 閉鎖回路による留意カテーテルの使用. 小川智也監修. 宮本雅仁,石田容子編. カテーテル透析パーフェクトマネジメント. 東京. 日本医事新報社2022. 218-222 2022.
11)松岡一江,池田潔. 長期留置カテーテルを使った維持血液透析の管理. 安心・安全な挿入・管理と合併症対策. 透析会誌. 38(2)205‐211. 2023.
2024年3月5日現在


