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第17回:次亜塩素酸水と新型コロナウイルス

国際医療福祉大学医学部感染症学講座 主任教授
国際医療福祉大学成田病院感染制御部 部長
松本 哲哉

はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大は、様々な物資の供給不足を招きました。その代表的なものとしては、マスクと消毒薬が挙げられます。マスクは中国にその生産の大部分を依存していたこと、消毒薬については製品を入れるボトルが中国で製造されていたことなどにより、いずれも供給が極端に不足し、入手困難な状況となりました。そのため、一般の人々だけでなく医療現場においても感染対策上の不備が生じてしまいました。

そのような中で、注目を集めたのが次亜塩素酸水でした。次亜塩素酸水はそれまであまり一般の方々には知られていなかったにもかかわらず、急激に社会の関心が高まりました。それを受けて独立行政法人製品評価技術基盤機構(以下NITE)が次亜塩素酸水による新型コロナウイルスの消毒効果を検証し発表1-4)されましたので、その結果を踏まえて解説をしたいと思います。

次亜塩素酸水を取り巻く関心の高まり

2020年の4月頃より、次亜塩素酸水は新型コロナウイルスに有効なのか?といった疑問がマスコミでも大きく取り上げられ、一般の市民からも注目を集めました。特に今年の前半は新型コロナウイルス感染症の流行拡大によって消毒薬の不足が深刻な状況に陥ったため、次亜塩素酸水にその代替消毒薬としての期待が高まりました。しかし、次亜塩素酸水という呼び方もその時点では一般に浸透していなかったにもかかわらず、多くの方にとってはとにかく効果があるなら使いたいという見切り発車のような状況であったことも否めません。そのため、適切な情報が与えられていないまま、個々の判断で使用され、中には適切とは言い難い使用法も含まれていました。また、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムを混同してしまう方も出てくるなど、混乱が広がっていました。

その当時、次亜塩素酸水に限らず、新型コロナウイルスに有効な代替消毒薬の候補があるのかどうかを検証して欲しいという要望が経済産業省に多く届くようになりました。このような背景を受けて、NITEが新型コロナウイルスを対象とした代替消毒薬の検証を行うことになりました。その結果は後述しますが、今回の検証はかなり大がかりなものになりました。

次亜塩素酸水とは?

次亜塩素酸水そのものについてまだ十分な共通の理解がなされているとは言い難いのが現状です。そこで次亜塩素酸水とは何かからまず説明したいと思います。簡単に言えば、次亜塩素酸水は次亜塩素酸(HClO)を主成分とする酸性の溶液です。その生成方法は大きく分けて、電気分解法で生成したものと、電気分解法以外で生成したものに分けられます(図1)2)。電気分解によって生成するものは電解型とも呼ばれ、専用の製造器が販売されており、生成されたものは微酸性電解水などの名称で呼ばれることもあります。電気分解法以外で生成するものには、次亜塩素酸ナトリウムと酸の二液混合、イオン交換樹脂による化学反応、粉末・錠剤を水に溶かしたものなど種々のものがあり、便宜上、非電解型に分類されています。

次亜塩素酸水のひとつである微酸性電解水は、微酸性電解水協議会の説明によると、1)適切濃度の塩酸または塩酸に塩化ナトリウムを加えた水溶液であること、2)無隔膜電解槽で電解されたもの、3)生成水は有効塩素濃度10~80ppm、pH5.0~6.5であること、という基準を満たしたものとされています5)

次亜塩素酸水の一般的な消毒効果と特徴

次亜塩素酸水が消毒効果を有することは以前から知られており、細菌やウイルス、真菌などの消毒に有効であるとされています。ただし、消毒に用いる上ではいくつかの注意点があります。まず、製造後、消毒効果が無くなるまでの時間が短く、長時間保存した状態で使用することは推奨されていません。紫外線などが当たることでも劣化しやすいため、遮光できる容器に入れて使用することが推奨されています4)

また、タンパク質などの夾雑物が存在することによって消毒効果が低下するため、あらかじめ対象物の表面に付着した汚れを拭き取っておくことが必要です。また、消毒効果を高めるためには十分な量の使用が必要であり、浸漬した状態や表面をヒタヒタに濡らす程度の十分量を使用することが推奨されています3, 4)

次亜塩素酸水の用途

次亜塩素酸ナトリウム水溶液と異なり、次亜塩素酸水は直接肌に触れても毒性はなく、金属の腐食作用も少ないと言われています。そのため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液よりも用途が広がる可能性があります。実際に微酸性電解水協議会によると、"微酸性電解水は低い有効塩素濃度で高い殺菌効果を発揮し、安全性が高く水道水感覚で使用できるため、食品(生食用の鮮魚介類を含む)の製造現場・調理場等での品質・衛生レベルの向上に加えて、水産、農業、医療、環境そして家庭の各分野での殺菌・洗浄・除菌等の利用拡大が期待されています(一部省略)"と説明されています5)。しかし次亜塩素酸水は主に食品工場など商業目的に使用されているというのが実情であり、医療現場では歯科領域を除くとそれほど利用頻度が高いとは言えないのが現状だと思います。 また、手指の消毒にも次亜塩素酸水を利用できるのではないかという期待が寄せられています。ただし次亜塩素酸水を手指消毒に利用するとしても手指表面のタンパク質によって効果が減少する可能性が高く、もし使用するとしても流水のように掛け流しの状態で使用することが必要だと思われます。

次亜塩素酸水の細菌に対する消毒効果

私達は次亜塩素酸水のカテゴリーに含まれる微酸性電解水に以前から着目し、その消毒効果について基礎的検討を行っていました。まず、医療現場の環境や器材の消毒に用いることを想定して、緑膿菌のバイオフィルムを形成した状態で、微酸性電解水を加えてその変化を確認しました6)。その結果、30ppm、25℃、10分という条件で、バイオフィルムの成分であるアルギネートは99.9%取り除かれ、バイオフィルム全体の量も56.8%の減少が認められました。さらに微酸性電解水の温度を45℃まで上げると、バイオフィルムの量は85.4%減少でき、効果が上がることがわかりました。また、30ppm、15℃、5分の条件でもバイオフィルム内の緑膿菌は検出限界以下のレベルまで殺菌されていることがわかりました。

NITEの検証に至るまで

皆様ご存知のように、新型コロナウイルスの感染拡大により2020年前半の消毒薬の不足は深刻となり、供給改善の見通しが立たない状況でした。それにもかかわらず、消毒の重要性が強調されたことでさらにニーズが拡大し、消毒用アルコールが全く手に入らないことで国民の不満が高まっていました。そのため、経済産業省にも改善策を要望する声が多く届けられるようになりました。しかしその当時、医療機関でも供給が逼迫している状態でしたので、消毒用アルコール等の増産をはかっても容易に供給が改善する見通しはありませんでした。そのため、一般家庭等で入手可能で一定の消毒効果が期待できる、いわゆる代替物品がないかどうかを検証する必要性が生じていました。その要望に答える形でNITEに検討の依頼がなされましたが、NITEの方々もどのような物品を対象とし、どのような方法で検証し、さらに実際に新型コロナウイルスを用いた検証が本当にできるのかについて苦慮しておられたと思います。そこである人を介して私に連絡があり、相談に乗ったことが最初のきっかけでした。

NITEの方々と初めてお会いしたのは3月の終わりの頃で、当初は私も基礎的研究の立場からどのような検証方法が考えられるか、新型コロナウイルスを用いるとすればどのような条件を満たす必要があるかなど、一般的な相談に乗る程度の状況でした。しかしその後、正式に委員会を立ち上げることが決定され、私が委員長の就任を依頼されました。私も当時は新病院が開院してすぐの状況でしたので、役目を果たせるかどうか迷いましたが、かなり切羽詰まった状況であることも理解しておりましたので、お引き受けすることにしました。

NITEの検証過程

NITEは「新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価に関する検討委員会」を正式に立ち上げ、第1回の委員会が4月15日に開催されました。委員には多くの専門家に加わっていただき、今後の方向性や検証の方法について、活発に議論が交わされました。すでにNITEの方で関連する文献などがないかどうか調査をしていただいておりましたが、残念ながら消毒薬以外の範疇で新型コロナウイルスに対する有効性を科学的に証明できた報告は見られず、新たに検証を行わなければいけないことが判明しました。ただし、まだ当初は、実際に新型コロナウイルスを用いた検証にすぐに取りかかれるような施設は限られており、さらに実施可能な施設も他の研究テーマを多く抱えているような状況でした。そのため、最初はインフルエンザウイルスなど代替のウイルスを用いて検証し、その結果を踏まえて報告する意見も出ていました。

第1回の委員会で、新型コロナウイルスに対して一定の消毒効果を有する可能性のある候補物資を選定し、4月30日の第2回の委員会ではA型インフルエンザウイルスを用いた検証試験の結果が報告されました。ただし、やはりウイルスの種類が違えば消毒効果を担保するのは難しく、一般の方々にとっても納得のいくような提案はできないのではないかという意見が大半を占め、新型コロナウイルスを用いた検証を進めることとなりました。その後、幸いにも国立感染症研究所と北里大学大村智記念研究所の協力が得られることとなり、5月21日の第3回の委員会では新型コロナウイルスを用いた検証試験の結果として界面活性剤5種類(第4級アンモニウム塩を含む)の有効性が報告されました。さらに5月28日の第4回の委員会では検証試験の結果として、新たに界面活性剤2種類の有効性が追加で報告されました。

その後も新たに帯広畜産大学、鳥取大学、日本繊維製品品質技術センターの協力も得て、新型コロナウイルスに対する検証試験を実施していただき、6月25日の第5回の委員会では、新たな界面活性剤2種類に加えて、次亜塩素酸水も有効であることが報告されました。そこで委員会では最終的に、界面活性剤9種類(第4級アンモニウム塩3種類を含む)および次亜塩素酸水が有効であると判断しました1, 2)

なお、委員会でも議論になったのは有効かどうかの基準をどう定めるかという点でした。実際に調べてみると、消毒効果の評価は国や団体によって異なる基準を用いていること、また、今回のように消毒薬の代替としての評価を行うに当たってはどの程度の効果を求めるべきなのかについて、いろいろな意見が出されました。最終的な委員会の結論としては、新型コロナウイルスの感染価が99.99%以上減少すれば有効と判断するという目安を用いることにしました。しかし99.99%以上というのはかなり厳しい設定ではないかとの意見も出たのも事実であり、その基準を満たしていなくても、ある程度感染価が減少した物質もいくつかありました。

新型コロナウイルスに対する界面活性剤の効果

今回の検証結果から新型コロナウイルスの除去に有効と判断された界面活性剤は表1に示す9種です1)。これら有効と判断されたものについては、それを含む各種の家庭用洗剤などが数多く販売されており、製品の用途に合った適切な使い方を行うことで、新型コロナウイルスが除去できると考えられます。ただし、手指や皮膚等の消毒は、それらの効果や安全性を検証したものではないので対象外となります。

新型コロナウイルスに対する次亜塩素酸水の効果

新型コロナウイルスを用いた次亜塩素酸水の効果の検証試験は、今回参加していただいた各施設で実施していただきましたが、実験条件が全ての施設で統一できたわけではないので、その結果の評価については、委員会で詳細にわたって議論させていただきました。特に5つの検証施設の中でひとつ の施設からは次亜塩素酸水の効果に否定的な結果が出されましたが、これについては委員会の議論の中で、その施設のみが検証方法や有効と判断する基準が異なることを踏まえて、総合的に判断することになりました。他の施設の検証結果では全て有効性を示唆するデータが得られましたが、有効濃度の目安をどこにするかについて議論が重ねられました。

その結果、次亜塩素酸水(pH6.5以下)は塩素濃度35ppm以上を有効と判断することになりました(表1)1,2)。また、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムも次亜塩素酸水の範疇に入れられていますが、この水溶液は解離平衡反応によって生じる遊離塩素が有効性に関与するため、有効塩素濃度100ppm以上が有効性の基準と判断されました。

新型コロナウイルスを除去する際の注意点

上記の検証結果によって、次亜塩素酸水が新型コロナウイルスの感染性を減少させることは証明できましたが、どのような使用法が適切なのかについても、併せて情報を提供すべきであるという意見が出ておりました。そこでNITEの検証結果を踏まえて、次亜塩素酸水の適切な使用法として表2に示す3点が指摘されています1,4)

前述しているように、汚れの除去については、次亜塩素酸水の特徴である有機物存在下では効果が低下することを踏まえての注意点となります。実際に各施設での検証実験では、細胞培養液の存在が次亜塩素酸水の抗ウイルス効果を低下させることが確認されています。

十分な量を用いることについては、わかりやすいように「ヒタヒタに濡らす」という表現を用いていますが、若干湿っている程度の用い方では効果を出すことは難しいと考えられます。さらに20秒以上というのは検証実験でウイルスの感染価が確実に下がるまで要する時間を踏まえての条件となります。

なお、今回の検証試験は、物品に対する新型コロナウイルスへの消毒の有効性を検証したものであり、手指や皮膚等の消毒における有効性や安全性は検証されていませんので手指や皮膚等の消毒は対象外となります。

医療の現場で次亜塩素酸水は活用できるか?

これまで述べてきた経緯を踏まえて、次亜塩素酸水は新型コロナウイルスに消毒効果を有していると考えられます。ただし実際に医療の現場で使用するとなると、上記の使用上の注意を守った上での利用が欠かせません。

おわりに

新型コロナウイルス感染症の感染拡大はさまざまな影響を及ぼしましたが、消毒薬の不足もかなり深刻であったと思います。それに伴い医療現場だけでなく一般の方々にとっても大きな混乱が生じたわけですが、今回のNITEの検証によって、従来有効とされてきた消毒薬以外にも、界面活性剤や次亜塩素酸水の有効性が証明されたため、今後、同様の状況に陥ったとしても、ある程度は問題の解決につながるのではないかと期待しております。

最後に、今回の検証に献身的に取り組まれたNITEの方々、および急な依頼にもかかわらず短時間で効果の確認を行っていただいた各施設の方々に改めて謝意を表します。

参考文献

1)独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE). 新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。 ~物品への消毒に活用できます~. 令和2年6月26日, 7月7日(一部の発表資料を差し替え).
https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html. 2020年10月20日現在.
2)新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価に関する検討委員会.
新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価(最終報告). 令和2年6月.
https://www.nite.go.jp/data/000111315.pdf. 2020年10月20日現在.
3)経済産業省 新型コロナウイルスに有効な消毒・除菌方法(一覧). 令和2年7月6日版.
https://www.meti.go.jp/press/2009/06/20200626012/20200626012-1.pdf. 2020年10月20日現在.
4 )厚生労働省, 経済産業省, 消費者庁. 「次亜塩素酸水」を使ってモノのウイルス対策をする場合の注意事項. 2020年6月26日現在.
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/0630_poster.pdf. 2020年10月20日現在.
5)微酸性電解水協議会ホームページ. http://bisan.fwf-aew.jp. 2020年10月20日現在.
6)Okanda T, Takahashi R, Ehara T, Ohkusu K, Furuya N, Matsumoto T, Slightly acidic electrolyzed water disrupts biofilms and effectively disinfects Pseudomonas aeruginosa. J Infect Chemother 2019; 25(6): 452-457 .

2020年10月20日現在

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