第16回:日本におけるCOVID-19の現状と感染対策 ー 緊急事態宣言解除を迎えて ー
目次
はじめに
2019年12月に中国の武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は数ヶ月の間に急激に世界に広がり、全世界の感染者数は本原稿執筆時において約370万名、死者は約26万名となっています。特に米国、ロシア、イギリス、イタリア、スペインなどでは感染者数が急増し、WHOは今後、長期化する見通しを示し、さらに世界全体が深刻な状況となると警告を発しています。そこで、今回は日本におけるCOVID-19の現状について解説し、感染対策面において各種検査を踏まえた対応について述べさせて頂きます。
国内における感染者数の推移
国内では2020年1月16日に最初の国内の感染例が報告され、以後しばらくは散発的に発生していましたが、2月中旬頃より1日20名前後の報告がみられるようになり、3月に入ると30名~50名前後に増加していきました(図1)。新規の感染者数が明らかに増加する傾向に転じたのはおそらく3月24日頃であり、その日の65名から4月11日の714名に達するまで3週間を要していません。
4月7日には緊急事態宣言が発出され、東京都を含む7都府県が指定を受け、4月16日には全国に指定が拡大されました。4月11日にピークを迎えた新規感染者数は、その後減少に転じ、5月7日頃から100名以下の日が多くなってきました。政府はゴールデンウィーク開けに緊急事態宣言の延長を決定しましたが、感染者数の減少を考慮して、5月14日には39県について解除を行い、その後、5月21日に関西地域、5月25日に関東地域が解除されました。
5月の下旬には新規の感染者数がゼロの県が大半を占めるようになり、感染者が最も多かった東京都でも1日の新規感染者数が一桁の日が続いています。今後、感染者が増加する可能性は否定できませんが、明らかに国内の感染は収束する方向に向かっていると思われます。なお、5月24日時点における日本の累計の感染者数は16,569名となっています。
入院、退院、療養者数の推移
感染者数とともに、医療の現場に重要な指標として、入院、退院、療養者数の推移が挙げられます。具体的に、入院治療を要する患者数については、3月初めから下旬頃までは1日20名~30名前後で推移していましたが、3月24日に50名となり、4月11日の688名と急増しています。退院や療養解除の対象者は5月12日にピークの948名となり、入院治療を要する患者数に比べて約1か月遅れる結果になっています(図2)。指定感染症として受け入れていた病床はすぐに満杯となり、多くの医療機関では急に体制を整えて入院患者を受け入れる必要に迫られました。また、入院期間も比較的長期の患者が多かったことが推察されます。
厚生労働省は感染者の急増に伴って、医療機関の病床を確保するため、4月初旬に軽症者の場合は宿泊や自宅での療養を行う方針を示し、ホテルなどの待機施設の確保が進められました。全国調査の結果によると、4月28日時点で8,711名の感染者のうち、入院者が5,558名(64%)、自宅療養が1,984名(23%)、宿泊施設での療養が862名(10%)と宿泊施設の利用が進んでいない状況が明らかとなっています。
退院または療養解除となった方の数は4月下旬より増加し、5月に入って約200名から500名の日が多くなり、5月12日には最多の948名に達しました。なお、5月22日時点における日本の累計の退院または療養解除者数は13,227名となっています。
重症者数、死亡者数の推移
本疾患は重症から軽症まで幅広く存在し、特に医療機関の逼迫度を高めるのは重症者の数だと思われます。本疾患の重症度の定義は明確には定まっていませんが、人工呼吸器又は集中治療室に入院していることを基準とした場合、3月頃までは1日5名以下であった新規の重症者は4月に入って増加し、4月15日には25名に達しました。5月に入ってからは明らかな減少が認められ、多くの医療機関においては少しずつ余裕が出てくる状況になったと考えられます。
死亡者数に関しては、2月は1か月間で4名しか報告されていませんでしたが、3月8日以降4月12日頃までは連日1名~7名程度の死亡者が報告されるようになりました。さらに4月14日からは10名~30名前後の死亡者が報告され、5月2日は34でピークに達しています。その後、やや死亡者数は減少してきていますが、5月中旬でも20名を超える死亡者が報告される日があります。なお、5月24日時点における日本の累計の死亡者数は825名となっています。
年齢別にみた感染者数
これまでの国内外の報告からも明らかなように、COVID-19は若年層における感染者は少ない傾向が認められます(図3)。国内では10歳代356名および10歳未満253名が報告されていますが、現時点で重症例は1例ずつで死亡例の報告はありません。一方、感染者が多い世代は20歳代~50歳代であり、どの世代も約2,200名~2,500名程度の感染者が報告されています。60歳代から80歳代はそれぞれ約1,500名~1,700名程度でやや感染者数は少ないものの、図4に示すように重症例と死亡例の割合は50歳代から明らかな増加傾向が認められ、年齢とともに高くなっています。
クルーズ船におけるCOVID-19の集団感染
イギリス船籍のダイヤモンドプリンセスが2月3日に横浜港に停泊して以降、船内での感染者が次々に報告され、最終的に乗客、乗員、計3,711名の中で712名の感染者が確認されました。また、長崎に停泊していたイタリア船籍のコスタ・アトランチカでは4月下旬、乗員623名のうち149名の感染者が確認されました。いずれも大型のクルーズ船で、船内という閉ざされた空間の中での集団感染であり、感染をコントロールすることの難しさが示されていると思われます。
海外との比較における日本の現状
国内での主な感染状況はこれまで述べてきたとおりですが、それでは海外と比べると日本はどのような位置付けになるのでしょうか?表1は本原稿執筆時に公表されているデータを基に海外の主要な国との比較をしたものですが、最も多くの感染者が出ている米国では感染者数は150万名に達し死亡率も約6%となっています。感染者数、死亡者数ともに日本の約100倍程度であり、いかに深刻な状況であるかが推察されます。他の主要な国の感染者数も日本に比べてかなり多いのが現状ですが、致死率についてはロシアのように真の値が報告されているかどうか疑問に思われる国もあり、比較が困難と思われます。ただし、積極的な自粛政策を取らなかったスウェーデンでは致死率が12%を超え、かなりの数に達しています。一方、早い段階から積極的に渡航禁止や自粛等の政策を実施してきた台湾では、感染者数が440名と極端に少ない数に抑えられています。
COVID-19の感染対策
上記のように海外ではまだ深刻な状況が続いているCOVID-19ですが、日本ではかなりのところまで感染者数を減らすことができています。今後、重要になるのは、来たるべき第2波に備えることであり、これまでの経験を活かして、国レベルから施設レベルまでそれぞれ必要とされる対応を取れるように準備を進めておくべきだと思われます。
国レベルでの感染対策
国内でのCOVID-19の流行は当初、中国からの持ち込みがきっかけになったと考えられますが、その後、欧米からの帰国者や旅行者が持ち込んで感染の拡大につながった可能性が指摘されています。そのため、今後、日本国内でこの感染症を押さえ込んだとしても、再び海外との人の移動が始まると、新たな流行がもたらされる可能性は否定できません。そこで、今後は入国者への対応をしっかり行うために、検疫だけでなく入国後の対応を見直す必要があると思われます。
また、PPEや消毒薬を始めとして、医療物資の不足も深刻でした。これは多くの物資が海外での生産に依存していたことも要因と考えられ、国内での生産体制を整備すべきと思われます。また、備蓄も十分でなかったため、今後に備えて十分な物資を確保しておくべきだと思われます。
地域レベルでの感染対策
今回のCOVID-19の拡大に伴い、地域差が浮き彫りとなりました。大都市圏は多くの感染者が発生しましたが、感染者ゼロの県もありました。ただし、今後の流行が起こった場合、大丈夫だと言える地域はないため、準備を怠らない必要性があります。今回の流行においては、都道府県の各自治体が地域における責任を担って対策が実施されましたが、自治体同士の連携、医療機関のネットワーク作り、待機施設での対応、保健所の負担の軽減や役割の見直し、地域におけるPCRセンターの設置など課題は多くあると思われます。
今後、国や自治体は対応できるベッド数を増やす方向で進めていますが、なるべく一部の病院に負担が偏らないように、各病院で対応できる数を明確にしてもらい、うまく調整をはかれるような体制作りを行っていただきたいと思います。
医療機関における感染対策
医療機関の中でも病院については、特にCOVID-19の入院患者を受け入れた施設では、かなりの負担を強いられる結果になってしまい、職員も含めて院内感染が発生する事例も生じてしまいました。特に、入院時にCOVID-19の感染が見逃されて、入院後に発症して院内で感染が広がるパターンは要注意であり、入院時にどうすれば検知できるかが課題となりました。
COVID-19の感染者を早期に発見するための対応策として、PCR検査の対象拡大が検討されています。特に手術や出産を予定されている患者は手術や出産前、救急での受け入れ患者などでは来院時に検査を行って感染の有無を把握しておくことが重要になると考えられます。また、今後の流行状況に応じて、入院患者全体や内視鏡などの検査を実施する患者まで対象を広げることも検討する必要があるかと思います。
スクリーニング検査としては抗原検査も注目を集めています。ただし、迅速性を重視する場合はその利用も考慮されますが、感度の問題があり陰性でも否定できないことから、PCR検査などを優先的に活用する方が妥当と考えられます。特にLAMP法や一部のPCR検査では、検査に要する時間が短縮できるため、院内での検査体制を作って対応するには有益な方法だと思われます。
診療所などでの対策は、いろいろな制限があるため徹底しにくいという現実があります。特に質問が多いのが、一般の外来を受診された患者さんに対して、どの程度の対策を取れば良いのかという点になります。もちろん、その時の流行の状況にもよりますが、来院時の体温測定や感染に関連する症状のチェックは行った方が良いでしょう。また、少なくとも受診された患者さんがCOVID-19の感染の可能性は否定できないという立場に立てば、診察時は患者と医療従事者は共にマスクを着用することが望ましいと考えられます。患者さんが咳をしているような場合は、フェースシールドの着用や換気の実施も重要です。
高齢者介護施設における感染対策
高齢者介護施設は重症化しやすい高齢者が多くいるだけでなく、感染対策面では医療機関と比べて十分な対応が取りにくいため、感染がいったん広がると深刻な状況に陥りやすい特徴があります。しかし、多くの高齢者介護施設ではインフルエンザやノロウイルス感染症に対してこれまで注意深く対処してきたこともあり、新型コロナウイルスに対してもそれを応用する方向で、さらに慎重に対処することである程度の対策は可能と考えられます。
ただし、実際にCOVID-19の感染が否定できない有症状者が発生した場合には、医療機関と連携しなければ診断が難しく、行動の制限も課題となって実際に施設内で管理することは困難である場合が多いと思われます。
おわりに
日本国内の新型コロナウイルスの感染がほぼ収束し、緊急事態宣言が解除される状況で本原稿を執筆できるようになったことは本当に感慨深いものがあります。確かに海外と比べて国内の感染者数や死亡者数はかなり抑えられたことは幸運だったと思われますが、それでも多くの医療機関は多大な犠牲を払い、医療従事者の献身的な貢献によって医療体制が維持できたことは間違いないと思います。
今後、来たるべき第2波に対して、私達が得た経験を活かして適切な対応ができるように備えていくことが今後の課題になると思われます。


