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第15回:個人防護具(PPE)が少なくなった時にすべきこと-新型コロナウイルスの世界的拡大を鑑みて-

箕面市立病院 感染制御部副部長 感染管理認定看護師
四宮 聡

はじめに

2020年3月14日現在、全国的に個人防護具(PPE)や手指消毒薬をはじめとして、感染対策に必要な物品が不足している状況が続いています。少なくとも、筆者の施設とその周囲では、深刻な状況に近づいており、近隣の介護保険施設でも同様の状況のようです。

これは今まで、感染対策推進のために使用を推進してきた立場から、不透明な状況でPPEを持ちこたえられるかを心配する立場になったことになります。正直、最適解はないと考えています。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疑似症・確定例受け入れに加えて日常診療で対応すべき結核など特定のPPEが必須の感染症発生状況にも大きく影響すると思います。

ここでは、日常診療をある程度維持しつつ、COVID-19の受け入れも想定しなければならない施設での対応として、私の頭の中の計画とともにご紹介したいと思います。あくまでも、今後の発生状況と院内での協議で異なる対応になることもご承知おき頂きたいと思います。

PPE

当院では、2009年の新型インフルンザ以降、PPEを備蓄してきました。備蓄量は、年間の使用平均を毎年算出し、1か月分を目安としていました。これは、PPEがパンデミック等で手に入らない一定期間を乗り切る想定としていました。そして、院内各所に在庫としても一定の量があることを考慮しての判断でした。備蓄していた主な品目は表を参照してください。

表1

物品名

1

N95マスク

2

サージカルマスク

3

アイソレーションガウン

4

長そでエプロン

5

キャップ

6

手袋(プラスチック・ニトリル)

7

フェイスシールド

8

手指消毒薬(各種)

9

舌圧子

結果的には、この備蓄量では今回のCOVID-19対応は十分ではありませんでした。特にN95マスクは、結核患者対応として使用が必要であったため、在庫が日に日に減っていき、N95マスク確保が喫緊の課題になりました。サージカルマスクも予想が(残念なほうに)外れてしまい、長期間マスクが出荷されず、さらに少し前までインフルエンザの警報が続いていたことも重なり...。その後、目処が立たない状況が続いているのは、皆さんがご存知の通りです。

手指消毒薬

感染対策のマストアイテムである手指消毒薬。これがないと感染対策ができないといっても過言ではありません。備蓄があったことで、現時点で枯渇するほどの在庫というわけではありません。しかし、手指衛生推進活動の結果、使用量は経年的に増加しており、今年度は過去最高の使用量になっていました。さらに、COVID-19の影響から外来での使用量も増加しています。何とか細々とした供給を確保できていますが、消費量が相対的に増加していることから、先の見通しが明るくない状況です。このような状況ですので、今後何らかの対策を取る必要があるのは自明です。

院内での対応

管理部門での情報共有

PPEも手指消毒薬も正しい情報を把握し、状況に応じて方針を修正していく必要があります。当院では、毎週、物品管理の事務局担当者と物流担当者(外部委託)、私で情報共有しています。そこでは、入荷についての目処や院内で将来的に物品が不足して診療に影響がでそうなものがないかを確認しています。具体的には、品目リストに在庫数、保管場所を記載し、そのリストを基にディスカッションします。また、直近1週間の各部署の払い出し数を表にして、全体の傾向を把握、特定の部署が増加していないかを確認しています。

この情報共有は、幹部会議がある日の午前中に行っています。幹部会議で、午前中の状況を報告し、必要な対策や承認が必要なプランを提案できるようにしています。そうすることで、その日のうちに方針や手続きを速やかに進めることができます。

ここからは、具体的な対応について当院で検討していることも含めてご紹介します。

PPE

すべてのPPEの使用状況を把握するのが理想ですが、COVID-19対応もあるため現実には不可能です。現在は、PPEの使用基準を定め、必要なところでのみ使用する環境を整えています。具体的には、サージカルマスクは医療従事者と外来受付者のみで、かつ直接患者に接触する者のみとしています。また、少し前まではCOVID-19関連の診察・検査等は患者ごとに廃棄としていましたが、発生状況からサージカルマスク着用を継続する方針に変更しました。使用も1日1枚としています。N95マスクも同様に、COVID-19対応は使い捨てとしていましたが、結核対応と同様(シールチェックで問題なければ)再使用を認める方針にしました。サージカルマスクは着用を継続するだけであまり管理上の課題はありませんが、N95マスクの保管と再装着の手指汚染が懸念されました。次善の策として、着用後に手指衛生をお願いして対応いただくこととしました。COVID-19対応で診察と吸引・検体採取のスペースを分け、マスクを再使用できる一体型小型電動ファン付き呼吸器防護具(ヘイロ―®)も導入しました。COVID-19対応すべてに一体型小型電動ファン付き呼吸器防護具が必要なわけではありませんが、N95マスクの温存と実際に対応する職員の安心と安全を考慮して使用できる環境を整備しました。

長そで/半袖エプロンやガウン、フェイスシールドも現状は問題ありませんが、残数によっては、優先度の基準を設定(血液・体液の飛散リスクと量で処置・ケアを区別)し、それに従って制限をかけることになるでしょう。例えば、飛散が高頻度で起こる陰部洗浄では着用しますが、尿の回収やパットのみ交換するおむつ交換などは非着用にします。シールドは、吸引・創洗浄・挿管・抜管などに限定することになるでしょう。

これらの対応は特別な工夫はないのですが、現在の「何となく不安」な感情を持つ者が多い状況では「できる範囲でできることを粛々とする」のが大切なことだと考えています。

手指消毒薬

現時点での在庫量では、通常とおりの設置、使用としていますが、使用と入荷のバランスが崩れた時点で、設置する場所の選別を始めます。具体的には、病室前、玄関、外来受付、PCカート、各種検査室以外の場所は引き上げを検討します。さらに供給が厳しくなれば、病室前のものも一部とし、流水手洗いを中心とした手指衛生に切り替えていきます。

感染管理担当者の心構え?声に耳を傾けつつ、思考は冷静に

みなさんの施設では、直接患者に接触しない職員が不安だからとマスクと着けるケースは多くありませんか。無症候性のCOVID-19もあるじゃないかとの反論もあるでしょう。潤沢にPPEがあるならば、それも許容されますが、今はその状況ではないと私は考えます。また、一度マスクを着けることを「癖」にした職員はマスクを外すことが「恐怖・不安」になります。それは、科学的根拠ではありません。科学的な思考がなくなることは、冷静な判断に鈍らせ、着けることが目標・安心になっています。誰もが経験したことがないウイルスだからか、エプロンの後ろ(背中)が出ている、首元が露出している、キャップがない、会計のお金にウイルスがついているなどなど、様々な相談を受ける機会が増えてきました。これらのほとんどは、感染経路とそれを遮断する方法を基盤に考える感染対策の基本が置き去りになっていると思います。しかし、正論(理論)だけで好転することは期待できません。不安を受け入れ、意見に耳を傾け、そのうえで「できること」ではなく「やるべきこと」を根気よく伝えていく必要があると考えます。

院内の職員メールでも、現在の使用量だと在庫がどの程度でなくなるかを伝え、今後の状況によっては、手術、処置、飛沫予防策が必要な場面のみに移行させる予定であることも伝えています。当面、物品の不足やCOVID-19対応で全国の医療機関は緊張が強いられると思いますが、自分だけではなく全国の仲間が同じ状況に置かれて奮闘していることを忘れずに対応頂きたいと思います。

2020年3月14日現在

fl-hassui-pouch.pdf