第14回:新型肺炎の概要と感染対策【2020年2月速報】
目次
新型コロナウイルス
これまでヒトに感染するコロナウイルスには「通常型ヒトコロナウイルス」が4種類(229E, NL63, OC43, HKU1)、「それ以外のヒトコロナウイルス」が2種類(SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス)の6種類がありました。通常型ヒトコロナウイルスは感冒を引き起こし、症状として鼻汁、頭痛、咳、咽頭痛、発熱、全身の不快感などがみられます。それ以外のヒトコロナウイルスは重篤な感染症を引き起こします。重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome:SARS)はSARSコロナウイルスによって引き起こされる感染症です。2003年2月にアジアで最初に報告され、20カ国以上に拡散しました。8,098人が感染し、774人が死亡しましたが、2004年以降の発症者はいません。中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome:MERS)はMERSコロナウイルスによる感染症です。2012年9月にサウジアラビアで最初に報告されましたが、遡及調査すると、2012年4月にヨルダンで最初の症例が発生したことが判明しています。現在、アラビア半島を中心に流行していますが、2015年に韓国でアウトブレイクが発生したことは記憶に新しいと思います。
現在、問題となっている新型肺炎は新型コロナウイルス(2019 Novel Coronavirus:2019-nCoV)によって引き起こされています(図1)。このウイルスは3番目の「それ以外のヒトコロナウイルス」ということになります(表)1)。2019年12月以降、中華人民共和国(以下、中国)の湖北省武漢市で原因不明の肺炎患者が発生していました。当初は海鮮市場での動物や環境の曝露が原因であると疑われ、1月1日に海鮮市場は閉鎖されました。しかし、二次感染や三次感染が報告されるに従って、海鮮市場が感染源であった可能性は低く、ヒト-ヒト感染であることが明確になってきました2,3)。2020年1月7日、中国当局が新種のコロナウイルスを検出したと世界保健機関(WHO)が発表しました。その後、武漢市を中心として中国全域で患者数が急速に増加し、感染者が中国から移動することによって複数の国・地域に拡散しています。
新型肺炎の臨床像と治療法
新型コロナウイルスによる新型肺炎の致死率は2.9%程度であり、SARS(10%)やMERS(37%)に比較して低いと言えます4,5)。そして、この致死率は無症状や軽症の感染者数が増大してゆくに従って、更に減少するものと推測されます。潜伏期間は2~14日であり、中央値は5日です。また、発症から受診までの日数は5日程度です3)。発症者の症状としては、発熱や乾燥咳嗽がみられることが多いことが報告されています。重症例では発症から9日ほどで呼吸困難となり、急性呼吸窮迫症候群に進展することがあります6)。死亡例も報告されています。そのような重症例は合併症(心血管疾患、脳血管疾患、糖尿病など)のある高齢者で多くみられる傾向にあります。潜伏期間の感染者(無症状)が周囲の人々に病原体を伝播することもあり、問題となっています7)。
新型肺炎に対する特異的な治療法はありません。そのため、対症療法となります。低酸素血症となれば酸素療法がなされ、呼吸不全を合併すれば、挿管・人工呼吸器管理となります。電解質異常があれば、補正してゆきます。臨床研究で抗HIV薬が投与されていますが4)、その結果を注視する必要があります。
感染対策
感染対策は「標準予防策+飛沫予防策+接触予防策」を実施します。エアロゾルを作り出すような挿管、人工呼吸器管理、高流量酸素療法などを実施する場合には空気予防策を併用します8)。
標準予防策では手指衛生に加え、状況に応じて個人防護具を使用します。患者の突然の咳やくしゃみによって、眼に飛沫が飛散してくる可能があるので、ゴーグルやアイシールドを予め装着しておくのがよいでしょう。また、患者には咳エチケットを遵守してもらうことも大切です(図2)。
飛沫予防策では患者は個室に入室させ、医療従事者が病室に入室するときにはサージカルマスクを装着します。接触予防策では患者は個室に入室させ、医療従事者が病室に入室するときにはガウンと手袋を着用します。空気予防策では患者は陰圧個室に入室させ、医療従事者が病室に入室するときにはN95マスクを着用します9)。陰圧個室に患者が入室しているときには、スモークテストなどで病室が陰圧になっていることを毎日確認します。
手指衛生
新型肺炎の感染対策の中で最も重要な対策は手指衛生です。手指に付着した病原体が眼、鼻、口などの粘膜を通じて体内に侵入するのを防ぐためです。従って、患者、患者の周辺環境、手指の高頻度接触表面、汚染が疑われる器具や環境表面に触れた場合には迅速に手指衛生しなければなりません。手指衛生では石鹸と流水による手洗い、もしくはアルコール消毒薬による手指消毒を行います。
個人防護具
標準予防策や感染経路別予防策(飛沫予防策、接触予防策、空気予防策)を実施するときには手袋、ガウン、サージカルマスク、N95マスクなどの個人防護具が必要となります。このときに気を付けなければならないことは「適切な着脱」です。サージカルマスクを着用していても、鼻を出していたら意味がありません。N95マスクを着用する場合もフィットテストやシールチェックが合格したものを使用します。髭のある顔面にN95マスクを装着したとしても、髭によって顔面とマスクの間に隙間が作られ、空気が漏れこんでしまいます。
汚染した個人防護具を適切に取り外すことも大切です。取り外しているときに、身体を汚染することを避けなければなりません。個人防護具の着用の順番は「①ガウンを着る、②マスクを装着する、③ゴーグルをかける、④手袋を装着する」です(図3)9)。手袋は患者に直接触れる個人防護具であることから、装着しているときに汚染しないように最後に装着します。マスクやゴーグルを装着した状況でガウンを着用することは困難なので、最初にガウンを装着します。ゴーグルを着用した状況でマスクの装着も難しいので、マスクが先となります。一方、取り外しの順番は「①手袋を外す、②ゴーグルを外す、③ガウンを外す、④マスクを外す」です(図4)9)。患者ケアした手袋は最も汚染が激しいので、最初に取り外します。汚染した手袋で他の個人防護具を取り外そうとすると、身体や周囲環境を汚染してしまいます。マスクは病室の外で取り外しますので、一番最後となります。ゴーグルとガウンは汚染が激しい方を先に取り外すのがよいでしょう。このような取り外しで大切なことは、個々の個人防護具を外したあとの手指衛生です。汚染した指で自身の身体や周辺環境を汚染しないようにしなければなりません。
新型コロナウイルスは飛沫感染するので、サージカルマスクは必須の個人防護具です。サージカルマスクのフィルターの網目はウイルスよりも大きいので、サージカルマスクを着用しても、効果がないのではないかとの疑問を持つ人もいますが、そうではありません。病原体は単体では飛行することはなく、飛沫に含まれて飛行します。サージカルマスクのフィルターは飛沫を捕獲できるので効果が期待できるのです。
マスクが不足したときの対応
新型肺炎が発生してから、莫大な数のマスクが消費されています。それに加えて、マスクの大きな生産地域である中国での感染拡大ゆえに、生産拠点も脅かされています。そのため、マスクの供給が不十分になる可能性があります。その場合の対策を考慮しておきます。
N95マスクが不足した時
まず、N95マスクが不足した時の対応を述べます。N95マスクは結核患者に用いた場合にはシールチェックが合格する限り、同一の医療従事者が再使用することは可能です。結核菌は空気感染しかしないので、N95マスクの表面に結核菌が付着し、それに触れた指が結核菌で汚染して、眼や鼻腔の粘膜に触れたとしても感染しません。しかし、新型コロナウイルスはSARSやMERSウイルスと同様に接触感染することがあるので、使用後のN95マスクの表面に付着しているウイルスに手指が触れれば、手指が媒介物となってしまいます。そのため、N95マスクは毎回の使い捨てにしなければなりません。
N95マスクの供給が不十分になった場合には、N95マスクの上にサージカルマスクを重ねて着用し、毎回のケアのあとにはサージカルマスクのみを廃棄するという手段をお勧めします。そうすれば、N95マスクの表面をウイルス汚染から守ることができるので、再利用が可能となります10)。
サージカルマスクが不足した時
サージカルマスクの供給が不十分になった場合には臨床現場は困惑します。新型コロナウイルスは飛沫感染するので、予防策としては必須だからです。米国食品衛生局(Food and Drug Administration: FDA)はサージカルマスクの基準を細菌濾過効率(BFE:Bacterial Filtration Efficiency)95%以上と規定しています。感染症の患者をケアするからこそ、このような基準を満たしたマスクを使用したいものです。それでは、サージカルマスクが枯渇した場合には、これを再利用すればよいのでしょうか?やはり、診療で用いたサージカルマスクの表面はウイルスで汚染されているため、再利用することはできません。このような場合、患者の咳エチケットの徹底が必須となります。咳をするときにはティッシュにて鼻と口を覆い、手指衛生を実施することが大切です。これによって飛沫の飛散を減らすのです。咳エチケットでは必ずしもサージカルマスクは必要ありません。
それではサージカルマスクが全く手に入らない状況では、「医療従事者はマスクを着用せずに、『咳エチケットをしている患者』をケアすればよいのか?」と心配になります。このような場合は次善の策を実行するしかありません。エビデンスはなく、有効性も確認されていないけれども、マスクなしでの診療よりは有効であろうと推測される手段を講じます。
それは、布製マスクやポリウレタンマスクなどの再利用できるマスクを複数枚準備しておいて、患者ケアのたびに交換して洗濯するという方法です。当然のことながら、これらのマスクはBFEが95%以上ということはないので、サージカルマスクほどの効果は期待できません。しかし、「患者に咳エチケットをしてもらう」および「再利用マスクを用いて、毎回使用後に交換して洗濯する」という二重の対応をすれば、飛沫の曝露をかなり減らすことができると思います。洗濯については漂白剤を用いた通常の洗濯で構いません。通常の洗濯された器材が感染症の原因になることはないからです9)。
参考文献
1)CDC. Human coronavirus types. https://www.cdc.gov/coronavirus/types.html
2)Holshue M, et al. First case of 2019 novel coronavirus in the United States. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001191
3)Qun Li, et al. Early transmission dynamics in Wuhan, China, of novel coronavirus- infected pneumonia. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001316a
4)Wang C, et al. A novel coronavirus outbreak of global health concern. https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30185-9/fulltext
5)Munster VJ, et al. A novel coronavirus emerging in China - Key questions for impact assessment. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2000929
6)Huang C, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30183-5/fulltext
7)Transmission of 2019-nCoV Infection from an Asymptomatic Contact in Germany, https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2001468
8)WHO. Infection prevention and control during health care when novel coronavirus (nCoV) infection is suspected https://www.who.int/publications-detail/infection-prevention-and-control-during-health-care-when-novel-coronavirus-(ncov)-infection-is-suspected-20200125
9)Siegel JD, et al. 2007 Guideline for isolation precautions: Preventing transmission of infectious agents in healthcare settings https://www.cdc.gov/niosh/docket/archive/pdfs/NIOSH-219/0219-010107-siegel.pdf
10)CDC. Interim domestic guidance on the use of respirators to prevent transmission of SARS
https://www.cdc.gov/sars/clinical/respirators.html
2020年2月4日現在


