第11回:抗菌薬適正使用支援チーム(AST)の取り組みについて
抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)とは1)
感染症専門の医師や薬剤師、臨床検査技師、看護師などから構成されたチームで、感染症を発症した患者が適切な抗菌薬治療を受けているかを専門的に監視・管理し、必要に応じて処方医へ支援を行います。
【参考文献】
1)8学会合同抗微生物薬適正使用推進検討委員会 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス. 2017.
目次
川崎市立多摩病院の紹介
川崎市北部の医療を担うため2006年2月に市立病院として開院しました。指定管理者制度のもと学校法人聖マリアンナ医科大学が運営し、公的病院と私立医科大学病院のそれぞれのよいところを出来る限り融合・調和させた新しい形である『市民のための病院』を目指しており、聖マリアンナ医科大学および大学本院と連携して医療を提供しています。
川崎市立多摩病院のAST活動
ASTの組織構成
当院は、以前から感染対策実働チーム(Infection Control Team:ICT)で抗菌薬適正使用を推進していましたが、ICTの枠を超えてさらに踏み込んだ抗菌薬適正使用支援を行うため、2014年8月にASTを発足しました。ASTは感染対策委員会の下部組織としてICTと並列で位置しています(図1)。
当院のASTは医師2名(うち、ICD1名)、薬剤師23名(うち、抗菌化学療法認定薬剤師2名、病棟薬剤師15名)、臨床検査技師(認定臨床微生物検査技師、感染制御認定臨床微生物検査技師)1名、看護師(感染管理認定看護師)1名の計27名で構成されています。ICTは医師5名、薬剤師3名、臨床検査技師2名、看護師2名、事務員1名の計13名で構成され、ASTとICTのメンバーでは一部が兼任しています。ASTは、担当医が感染症患者に対して抗菌薬を使用する際、治療効果の向上、予後改善、副作用防止、耐性菌出現の抑制等を目的とした院内の抗菌薬適正使用の支援を行っています。2018年4月からは、診療報酬改定における抗菌薬適正使用支援チームの取り組みに係る加算の新設を受け申請予定です。
AST活動の実際と各職種の役割
当院でのAST活動は、全病棟に配置している病棟薬剤師によるコンサルテーションとASTミーティングを中心に進めています。AST発足当初は、2名の抗菌化学療法認定薬剤師が中心となり、院内の抗菌薬適正使用支援に向けた取り組みを開始しました。当院では、AST発足前から各病棟に病棟薬剤師を配置し、薬剤師業務を実施しています。その活動を基本に病棟薬剤師がコンサルテーションを受けていましたが、診断に関わる内容もあり薬剤師だけでは解決できない問題が出てきました。そこで、ASTを立ち上げ時に、各病棟の抗菌薬適正使用に関する質保証、情報共有を図るため、薬剤部を中心としたASTミーティングを週1回行うことにしました。現在、ASTメンバー、病棟薬剤師、その他の薬剤師も全員参加して多職種によるディスカッションを行っています。ASTミーティングでは初めに各病棟で病棟薬剤師が担当医から受けたコンサルテーションについて報告し、次に前回取り上げた症例の経過報告、最後に新規症例として病棟で特に治療が難渋している感染症症例を1,2例取り上げてコンサルテーションが必要な内容を検討します。新規症例は各病棟薬剤師がプレゼンテーションし、問題点や今後の対応についてディスカッションを行います。ASTミーティングの結果は病棟薬剤師から担当医へフィードバックします。難渋例については、基本はASTミーティングでの解決を目指していますが、解決が難しい場合はASTで病棟ラウンドを行うことにしています。
医師
ASTに所属する医師として、現在は主に小児科 宮地先生、総合診療内科 横川先生が中心に活動しています(AST発足当初:國島先生)。医師は病棟薬剤師が受けたコンサルテーションやASTミーティングで上がった診断・治療に関わる内容について担当医と直接話し合い、最善と考えられる治療を提案します。医師の視点からのアドバイスにより問題解決に繋がったり、担当医との話がスムーズに進むなど病棟薬剤師の活動がより円滑に進むようになりました。しかし、時に、ASTミーティングで担当医の治療意図が理解できないことがあります。ASTミーティングに担当医が参加できると、その場で治療方針をスムーズに決められるのではないかと感じています。薬剤師
各病棟では、病棟薬剤師がASTの窓口として担当医からコンサルテーションを受けます。コンサルテーション内容が簡易的な場合は、病棟薬剤師が対応します。問題のある症例や難渋例の場合はASTミーティングで取り上げ、チームで対応するようにしています。対応内容は必ず電子カルテに記載し、担当医はその内容を電子カルテで確認することができます。
日々、各病棟で薬剤師業務を行い、各科医師とコミュニケーションを取っている病棟薬剤師がASTとしてコンサルテーションの窓口となるため、ASTが感染症治療に積極的に関わることができます。また、日頃から病棟薬剤師は担当医と直接ディスカッションする環境にあるため、良い関係を築きながら抗菌薬適正使用を進めていくことができます。看護師
正確な微生物学的診断をするためには適切な検体採取が必要です。しかし、検体採取を行う看護師の中には、正しい方法で検体採取ができなかったり、検体採取方法を知らなかったりすることがあります。適切な検体採取を行うために検体採取方法の確認や教育が必要です。ASTの中の感染管理認定看護師(CNIC)として、職員への教育・啓発活動が重要であり、ニュースレターで検体採取方法等を配信するなどしています。また、抗菌薬適正使用にあたっては、適正に処方された薬剤を正しく投与や服用しなければなりません。看護師は患者さんが処方された抗菌薬を指示された時間に指示された量を投与や服薬しているかなど、適切な管理を行う必要があります。臨床検査技師
臨床検査技師は年4回、ASTミーティング時に主に病棟薬剤師に向けたショートレクチャーを行っています。これまでに実施した講義内容は、バイオグラムや最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)、薬剤感受性試験、菌種の特徴などについてです。
病院職員への働きかけ
院内でのAST発足は、感染対策委員会で承認を得た後に、各会議で報告を行いました。同時期に病棟薬剤師が抗MRSA薬やアミノグリコシド系薬など治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)が必要な薬剤に関する代行オーダ業務を開始しました。代行オーダ業務によって、担当医と病棟薬剤師の関係がより密となり、信頼度が向上しました。そして、担当医と病棟薬剤師・ASTの協力体制が確立しました。抗菌薬適正使用支援のためには、日頃からの各部門とのコミュニケーションや連携が不可欠です。現在、ASTでは担当医から病棟薬剤師やASTへコンサルテーションがあった際に、AST活動の一環として、適切な抗菌薬の選択や投与法などを推奨し、活動内容をアピールしています。
ASTによる成果
2016年4月に公益社団法人日本化学療法学会/一般社団法人日本外科感染症学会より、「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」が公表されたことを受け、ASTが主体となって各科と連携しガイドラインに即した術後感染予防抗菌薬の見直しを行いました(第27回日本医療薬学会年会 一般演題 ポスター発表)。見直し前後でガイドラインとの術前予防抗菌薬の合致率(抗菌薬の種類・投与期間)を確認したところ、合致率が上昇し、投与期間が短くなりました(図2,3)。規定した抗菌薬の種類・投与期間の遵守率、使用量、感染症発症率の動向などについてのアウトカムの評価が今後の課題と考えています。外科の手術部位感染(SSI)サーベイランスを活用し、外科患者を対象とした感染症治療期間について調査したいと思っています。2016年4月に日本政府(国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議)より公表された「薬剤耐性対策アクションプラン(2016-2020)」では抗菌薬の使用量目標値が設定されていますが、ASTでは単に抗菌薬の使用量を減らすだけではなく、抗菌薬適正使用の有無についても検討していきたいと思っています。予防抗菌薬の場合は感染症を起こしていない人に対する投与であり投与期間を短くする意義は大きいですが、感染症治療の場合は陰性を確認してからの期間等を考慮すると投与期間が長くなることもあります。抗菌薬は患者さんそれぞれの状態に応じた投与を検討することが重要であり、ASTの到達目標は抗菌薬の適正使用であると感じています。
ICTとの連携
抗菌薬適正使用のアウトカムを出す上では、ICT、特にCNICが日頃から行っている感染対策やそのサーベイランスデータが不可欠です。ASTメンバーの多くはICTにも所属し、以前からICTで共に感染予防に取り組んでいたため、メンバー同士の協力関係が構築されています。そのため、ASTとICTは抗菌薬適正使用に向けた取り組みを連携して実施しやすい環境となっています。それぞれの会議で抗菌薬適正使用に関して話し合った内容はお互いに報告しています。院内では現在の所、ICTの認知度が高いため、ASTの活動はICTの啓発活動等をうまく活用しながら、協力して抗菌薬適正使用を推進していきたいと思っています。
また、当院は術後感染予防抗菌薬適正使用のための一覧表(マニュアル)を系列4病院の中でいち早く作成しました。これは、ICTとASTだけでなく、外科医や薬剤師等の良い関係性が構築出来ており、さらに現場のスタッフの理解を得られたためであると思います。マニュアルは院内での信頼関係が構築されていないと、現場のスタッフが理解できず遂行されないということがあります。マニュアルはただ単に作成すれば良いというものではなく、現場で使用できる・現場に合うということが重要です。マニュアル作成は病院ごとの特色を生かし、自院でできる取り組み等を検討する必要があります。
地域との連携 川崎市地域感染症ネットワーク委員会
川崎市では感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条第1項に規定する感染症等について、発生の予防およびまん延の防止のために必要な措置等について協議し、市民の健康と福祉の向上に寄与することを目的とした川崎市感染症対策協議会を運営しています。川崎市地域感染症ネットワーク委員会はこの川崎市感染症対策協議会の下部組織として位置し、地域で薬剤耐性(AMR)対策アクションプランをどう推進していくかということを議論しています。これらの推進は川崎市医師会、川崎市薬剤師会、神奈川県看護連盟川崎支部、KAWASAKI地域感染制御協議会、川崎市社会福祉協議会のような職域会を通じて実施しようと考えています。行政で地域感染症ネットワーク委員会があるというところはあまりないと思いますので、行政としてもバックアップしてくれるという強い意志を感じています。
これからAST発足を検討している病院へのアドバイス
日本では2016年4月に「薬剤耐性対策アクションプラン(2016-2020)」が公表され、薬剤耐性対策への動きが活発化しています。その中で抗菌薬の適正使用支援の実践が推奨されており、さらに、2018年4月の診療報酬改定での感染防止対策加算要件の見直しからASTの取り組みがより活発化するでしょう。中小病院では、スタッフ同士の距離が近く、新しい組織の設立・活動がしやすい環境であると思います。各医療機関の状況に応じた取り組みを行うことが重要であり、自施設の特徴を踏まえたチームを形成し、さらに地域での情報交換を行うことで、地域の病院それぞれのチームが洗練していくと思います。
今後の目標
今後の目標は抗菌薬の適正使用、そしてアウトカムを出すことです。現状、ASTの活動が抗菌薬適正使用にどうつながっているかというアウトカムがありません。ASTはアウトカムを出し、今後さらなる抗菌薬適正使用を支援していきたいです。ICTが病院内で必要とされた背景としては、感染防止対策加算により適切な感染対策を行う意識が向上したこと、収入とリンクするため病院職員の理解が得やすいことなどがあげられます。AST活動も診療報酬改定により、病院職員にさらに理解を示してもらえることになると思います。ただし、診療報酬ありきで進めるのではなく、患者さんにとって最大のメリットを考えることが大切です。その上で、ASTが5年後、10年後と時を経てどのように進化するのか、今だけではなく、今後の継続も含めて地域と一緒に考えていきたいと思います。
川崎市立多摩病院 ASTの皆さま
後列左より:國島広之(聖マリアンナ医科大学 感染症学講座 教授)、宮地悠輔(小児科 主任医長 兼 感染対策副委員長)、松本浩(薬剤部 係長)、宮本豊一(臨床検査部 課長補佐)
前列左より:山崎行敬(聖マリアンナ医科大学 感染症学講座 医局長)、中谷佳子(医療安全管理室 副師長)
Medical SARAYA編集部より
お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございます。
今回は、病棟薬剤師の活動やASTミーティングを中心にICTと協働し院内の抗菌薬適正使用の推進に取り組まれているAST活動についてお伺いしました。
医療機関では薬剤耐性(AMR)対策に尽力されていることと存じます。弊社も一企業として、薬剤耐性(AMR)に貢献すべく、今後も情報誌、webページ、セミナー等を通じて薬剤耐性に関する情報提供、ならびに消毒薬の開発等に努めてまいる所存です。
取材日:2018年3月7日
インタビュー:サラヤ 吉田、羽鳥





