製品導入事例
VREアウトブレイクの経験と紫外線照射装置の活用
- 独立行政法人 国立病院機構 浜田医療センター
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住所 〒697-8511
島根県浜田市浅井町777番地12病床数 347床(一般343床、感染4床) 全職員数 558名(2025年8月31日時点) 病院のホームページ https://hamada.hosp.go.jp/ ※上記のリンク先ウェブサイトはサラヤ株式会社の個人情報保護方針は適用されません。
リンク先の個人情報保護方針をご確認ください。浜田医療センターは“医療を通じて「地域で生きる」を支援する”という理念を掲げた、島根県西部医療圏の中核を担う総合医療センターです。救命救急センターを備え、地域の三次救急を担当するほか、地域医療支援病院として地域の医療機関と連携し、地域医療の充実と質の向上に積極的に貢献しています。診療報酬における感染対策向上加算1を算定、また日本医療機能評価機構の病院機能評価〈3rdG : Ver2.0〉一般病院2及びリハビリテーション病院の認定を受けています。
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紫外線照射装置 SEPALIGHT
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紫外線照射装置 SEPALIGHT導入の経緯
当院では、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクがきっかけとなり、SEPALIGHTを導入しました。
- VREアウトブレイクの発生と当院での対応
2022年7月、腎盂腎炎で入院していた患者の尿検体からVREが検出されました。この初発患者に対して、個室隔離および病室の塩素系除菌洗浄剤による清掃を実施しました。その後、同年8月までVREは検出されず、感染拡大は無いと捉えていました。しかし、9月に別の患者1名の尿検体からVREが再び検出されたため、VRE陽性者と同室歴のある患者に対する限定スクリーニング検査を開始し、2名中1名からVREが検出されました。続いて、これまでVRE陽性報告のあった3名の共通点を調査したところ、オムツ着用者であることが判明しました。感染拡大の要因としてオムツ交換が考えられたため、オムツカート内での清潔/不潔のゾーニング指導と、オムツ交換手順の指導を行いました。
その後も感染対策を継続し、2023年1月にはVREの新規検出は無かったものの、2月に再び検出されました。そのため、3月には保健所の指示で、これまでVRE検出報告のあった3病棟(A南、A北、B北)で全入院患者を対象としたスクリーニング検査を実施することになりました。その結果、検査対象患者123名中11名からVREが検出され、3病棟のすべてでVRE陽性者が確認されたため、VRE陽性者をB北病棟に集め、コホート管理を開始しました。併せて、保健所や島根県感染制御ネットワークから助言を受けて、清掃業者への介入を実施しました。その一環として、清掃業者が使用している清掃用カートを確認したところ、カート内のゾーニングが破綻している状況だったため、清掃業者と当院ICT(インフェクションコントロールチーム)でミーティングを行い、清掃用カートを変更したうえで、カート内で清潔・不潔が混在しないようゾーニングを再設定しました。また、手指衛生を適切なタイミングで実施するよう指導するとともに、清掃用カートには手指消毒剤を設置し、併せて手指消毒剤使用量を毎月報告してもらうことにしました。
さらに、これまではトイレを含む病棟全体の清掃を1日1回清掃業者が行っていましたが、アウトブレイク期間中は看護補助者の協力を得て、病棟の共有トイレの清掃回数を1日4回に増やしました。トイレには清掃手順のチェックリストを設置し、それに従って清掃を行い、手順漏れが無いよう指導しました。
当院の職員に対しても手指衛生の指導を行い、アウトブレイク期間中の手指消毒剤使用量は当院で設定している目標値の「10回/患者・日」を上回りました。その他にも、オムツカートを清潔用・不潔用の2台に分けて運用するなど、様々な対策を実施しました。それでもアウトブレイクは終息せず、B北病棟でコホート管理を実施しているにも関わらず、A南病棟(消化器病棟)からもVRE陽性者が発生しました。対策に苦慮していた中、当院のインフェクションコントロールドクターや、VREアウトブレイクを経験した他院の感染管理認定看護師から、ノータッチ技術による環境感染対策の方法として紫外線照射装置の情報提供がありました。これを受け、「出来る限りの方法を試そう」とICTで協議し、紫外線照射装置の導入を検討することになりました。
検討の際にはノータッチ技術による環境感染対策の選択肢として、紫外線照射装置だけではなく、過酸化水素噴霧式装置の情報収集も行いました。しかし、過酸化水素噴霧式装置では、使用前に病室を密閉して空調を止めなければならず、準備に時間がかかることが難点に感じました。一方、紫外線照射装置であれば、患者退院後すぐに使用でき、使用後もすぐに入室できることから、紫外線照射装置での検討を進めることになりました。
様々な紫外線照射装置の検討を行っていた際に、サラヤ株式会社の営業担当者より「SEPALIGHT」の提案を受けました。SEPALIGHTはコンパクトで運搬しやすく、また照射したい箇所が離れている場合にも2台に分けて照射できることが魅力に感じました。さらにSEPALIGHTはレンタルプランが用意されており、初期導入費用の負担が少なく導入のハードルが低かったことから、インフェクションコントロールドクターに相談して、病院幹部へレンタル導入から依頼し、2023 年7月よりSEPALIGHTを導入し、使用を開始しました。
-SEPALIGHTの使用開始後
・SEPALIGHT運用方法の決定
まず始めに、インジケータを使用して照射範囲の確認を行い、その結果を元に機器の設置位置などの運用を決定しました。環境表面の水平面に貼付したインジケータでは色の変化が少なく、反対に垂直面では色の変化が大きかったため、照射時にはベッドマットは立てて置き、ナースコールやベッドの手元スイッチはS字フックに吊り下げるなど、出来る限り高頻度接触表面に紫外線が垂直に当たるように工夫しました。また、光が届きにくい場所、例えば床頭台の扉は開け、トイレは便座を上げるなどして、内部まで照射が行き届くようにしました。照射回数は、基本的に個室では2回(1回目はベッドを挟んだ位置、2回目はトイレと洗面台前)、4人部屋では5回(ベッド1台に対して各1回、トイレ1回)行うこととしました。
これまで当院ではVREの経験がなかったため、院内におけるVREの認知度が低く、清掃担当者(看護補助者や清掃業者)は不安を抱いており、その不安感から、VRE陽性者退院後のターミナル清掃の際に入室時間を短くしようと清掃を省略してしまう可能性が懸念されました。そのため、VRE陽性者退院後のターミナル清掃の環境清拭前にSEPALIGHTを使用することで、清掃担当者が安心して清掃を実施できるようにしました。
操作は基本的に私(SEPALIGHTの管理者)が行うことにしていますが、私が不在の場合でも対応できるよう、設置位置の写真も含んだSEPALIGHT使用マニュアルを作成しました。副看護師長以上の役職者に操作権限を付与し、操作前日にマニュアルを用いて使用方法を説明しています。
・患者病室での環境培養調査
2023年8月に、一般患者の個室とVRE陽性者の個室で、患者退院直後および、紫外線照射+環境清拭の実施後に環境培養調査を行いました。一般患者の個室では、患者退院直後に検出された一般細菌(同定無し)が、紫外線照射+環境清拭後は大幅に減少していました。VRE陽性者の個室では、退院直後はベッドマットとベッド柵、トイレ便器縁裏からVREが検出されましたが、紫外線照射+環境清拭後には、トイレ便器縁裏からVREが検出されたものの、その他の環境表面からは検出されませんでした。同個室において、退院直後に多数検出された一般細菌も、紫外線照射+環境清拭後はほとんど検出されませんでした。トイレ便器縁裏から紫外線照射+環境清拭後もVREが検出されたのは、トイレ便器縁裏の清掃が不十分であった可能性や、構造上紫外線が届きにくかった可能性が考えられました。そのため、清掃担当者に対しトイレ便器縁裏まで丁寧に清掃を行うよう指導しました。1週間後、別のVRE陽性者個室で再度環境培養調査を実施したところ、VREは検出されませんでした。
・病棟における紫外線照射、VREアウトブレイクの終息
A南病棟ではVRE陽性者の発生が続いていたため、2023年8月9日から17日にかけて、VRE陽性者の使用有無にかかわらず、全病室(約50部屋)で、空室となり次第、紫外線照射を行いました。VRE陽性者退院後の病室でも同様に照射を行いました。
2023年9月以降は、10月に持込症例が1例発生したのみで、それ以降VREの新規検出はありませんでした。2024年3月には陽性者全員が退院し、アウトブレイクの終息宣言を行いました。
NEXT STEP
- VREアウトブレイク終息後のSEPALIGHTの活用は?
VREアウトブレイク終息後も、新型コロナウイルスやClostridioides difficile、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)陽性者が発生した場合のターミナル清掃でSEPALIGHTを使用しています。今後も同様の患者が発生した場合には、SEPALIGHTを活用したいと考えています。新型コロナウイルス流行下で紫外線照射装置を導入したにもかかわらず、使用されずに放置されているという話も聞きますが、微生物に対する効果が期待できる機器を使わないのは勿体無いですし、使用し続けることが重要だと考えています。また、他院では手術室の環境整備に紫外線照射を取り入れているという話も伺いました。そのため、今後は病室に限らず、同様の患者の手術後に、手術室での紫外線照射も検討する予定です。
さらに、C.difficile陽性者の病室でも、紫外線照射+環境清拭の前後で環境培養調査を実施してみたいと考えています。
-その他環境整備について
環境整備の強化に着手しています。例えば、ナースステーションなどで職員が身の回りの清掃を十分に行えていないと感じたため、ピロータイプの環境用クロス(サラヤエタノールクロス)を全てのナースカートの手すりにホルダーで設置し、職員が誰でもすぐに環境清拭できるようにしました。
次の取り組みとしては、清掃方法(清拭の方向など)について教育を行いたいと考えており、すでにリンクナース会や新人教育の際に勉強会を実施しています。教育の機会を増やし、職員に環境整備に対する意識が定着するよう努めていきたいと考えています。清掃業者に対しては、清掃用カートのゾーニングを継続できているかなど介入後の評価や手指消毒剤使用量のフィードバックが実施できていないため、今後評価を行った上でさらなる教育を行いたいと考えています。
また、院内だけではなく、感染対策向上加算で連携している社会福祉施設に対しても、環境整備の教育を行いました。2024年度にラウンドした際には、環境面を重点的に確認し、指摘箇所については改善書の提出をお願いしました。今後、同施設を再度ラウンドする際には、提出していただいた改善内容が継続できているかを確認する予定です。社会福祉施設でも、環境を介して利用者が薬剤耐性菌等に感染し、感染症を引き起こした場合、治療が困難であり重症化する可能性もあるため、環境整備は重要と考えます。社会福祉施設の職員にも、微生物に効果のある環境整備用製品の選択や、適切な清掃方法などの知識を身に付けていただきたいと考えています。
-最後に
今回のVREアウトブレイクを経験し、微生物に対しての紫外線照射の効果を実感しました。ただし、環境整備や手指衛生などの基本的な感染対策を実施せずに、単に紫外線照射装置を導入すればいいと考えているわけではありません。薬剤耐性菌や新型コロナウイルスなどのアウトブレイクが発生した際には、まず現状の感染対策を見直すことが重要です。その中で紫外線照射は環境清掃の1つの方法として活用できるのではないかと考えます。
- 今回インタビューさせていただいた方
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渡邉 正美 様
感染対策室 副看護師長
感染管理認定看護師
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- 編集後記
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今回はVREアウトブレイク中の紫外線照射装置SEPALIGHTの活用についてお話を伺いました。VREは環境中で長期間生存する場合があるため、環境からの感染が問題となっています。その他の微生物についても、環境を介して伝播する可能性があり、手指衛生や個人防護具の着用だけではなく、適切な環境整備も重要です。弊社では、今後も環境整備を含めた感染対策にお役立ていただけるような新製品の開発や情報提供に努めて参ります。(サラヤ株式会社 学術部)
取材日:2025年6月20日
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