感染対策のススメ

手術室の感染対策-Surgical SARAYA-

キーワード ラテックスフリー、二重装着、インディケーター手袋
ラテックスフリーの手術用手袋を選択しましょう

患者の術野に直接触れる「手術用手袋」は滅菌処理が施され、患者と医療従事者を各種感染症から守り、安全に手術を行うために必要です。

現在、日本国内で流通している手術用手袋は、大きく「天然ゴム製」と「合成ゴム製」に分けることができます。天然ゴムは、パラゴムの木から採取される樹液で、加工がしやすく、弾力性があり柔らかいことから、手袋の素材として広く用いられています。しかし、天然ゴムに起因するラテックスアレルギー(即時型過敏症)を主とする問題を回避するため、近年では、合成ゴム製(ポリイソプレン製、ポリクロロプレン製等)の手術用手袋を使用する施設も増加しています。手術用手袋は、医療従事者の手肌、および患者の術野に直接触れるものです。そのため、特徴や使用による有害反応についてよく理解しておくことが重要です。

1. ラテックスアレルギー(即時型過敏症)
ラテックスアレルギーは、天然ゴム製の手術用手袋を着用する医療従事者、手術を受ける患者の双方に引き起こされる危険性があります。天然ゴムに含まれるタンパク質がアレルゲンとなり、感作(症状の有無にかかわらず血液検査または皮膚テストが陽性)が成立します。すでに感作された一部の人においては、天然ゴム製品への曝露が非常に低いレベルでもアレルギー反応が誘発されます。その他、クリやバナナなどのラテックス蛋白と類似した抗原構造を有する食品への交差反応(ラテックス・フルーツ症候群)を引き起こす危険性がある1)ため、注意が必要です。
ラテックスアレルギーの症状としては、皮膚の瘙痒感や紅斑、蕁麻疹、眼の刺激、喉の痒み等の他、気管支喘息といった呼吸器系の反応を伴うことがあります。重篤な場合は、アナフィラキシーショックにも進展し、呼吸困難、血圧低下がもたらされます。麻酔中、手術中に患者がショックを起こした事例も報告されています2~7)

2. 接触皮膚炎
2-1 アレルギー性接触皮膚炎(遅延型過敏症) アレルギー性接触皮膚炎は、手袋の着用時、手袋の製造工程で添加された低分子量の化学物質に曝露されることによりもたらされます。アレルギー性接触皮膚炎の炎症は通常、接触してから24~48時間後に始まります。症状としては、皮膚表面が赤く浮き出し、ヒリヒリ感や水平状の割れ目等がみられ、浸潤性の水疱に進展する場合もあります。また、加硫促進剤によるアレルギー性接触皮膚炎が問題となっています。
一般的にゴム製品の製造工程では、弾性・耐熱性・耐疲労特性を持たせるために加硫を行います。加硫は時間がかかりますが、加硫時間の短縮とゴム製品の物性の安定化を得ることを目的に用いられるため、多くの手術用手袋の製造工程で加硫促進剤が添加されています。代表的な加硫促進剤としては、チウラム系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、メルカプト系化合物があります。 「加硫促進剤フリー」の手術用手袋も市販されていますが、アレルギー性接触皮膚炎の原因は加硫促進剤のみではないため、手指に何らかの異常が発生した場合には、早期に医師の診断を受け、その原因を特定することが重要です。 ※硫黄による架橋(鎖状高分子の分子間に橋を架けたような結合をつくること)を「加硫」と言う。

2-2 刺激性接触皮膚炎
刺激性接触皮膚炎は、アレルギー反応ではなく、手袋の着用による皮膚の閉塞や刺激によりもたらされます。症状としては、皮膚表層に発赤、乾燥、鱗屑、痒み等を伴います。

手術用手袋の二重装着が推奨されています

近年、手術用手袋の二重装着が国内外のガイドラインにおいて推奨されています。例えば、日本では、日本手術医学会による『手術医療の実践ガイドライン(改訂 第三版)8)で、「術野の汚染防止および職業感染防止の面から2重手袋の着用が推奨される」と記載されています。その他、世界では、世界保健機関 (World Health Organization: WHO)による『手術部位感染防止のためのグローバルガイドライン第2版(2018年)』(Global Guideline for the Prevention of Surgical Site Infection 2nd(2018)) 9)などで二重装着について言及されています。

また、エビデンスに基づく医療 (Evidence-Based Medicine: EBM) 実践のため、複数の臨床試験の結果を総括的に評価するコクラン共同計画 (Cochrane Collaboration) によるレビュー『手術による交差感染を軽減するための二重手袋の装着』(Double gloving to reduce surgical cross-infection) 10) では、手術用手袋を二重装着した場合の内側手袋のピンホール発生率は、一重装着の場合と比較して有意に少なかったという結論に達しています。

インディケーター手袋の使用で、ピンホールが発見しやすくなります

国公立大学附属病院感染対策協議会による『病院感染対策ガイドライン 2018年版 【2020年3月増補版】11) では、「手術用の手袋は2重装着が望ましく、内外で色の異なったインディケーター手袋の使用も考慮する」と記載されています。また、コクラン共同計画 (Cochrane Collaboration) のレビュー『手術による交差感染を軽減するための二重手袋の装着』(Double gloving to reduce surgical cross-infection) では、通常の手術用手袋の二重装着と比較し、内側にインディケーター手袋を用いた二重装着では、手術中のピンホール気付き率が有意に高かったという結論に達しています。

参考

1)  日本ラテックスアレルギー研究会・ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン作成委員会.ラテックスアレルギー 安全対策ガイドライン 2018.
2)  小宮明子他.ラテックスによるアナフィラキシー:ラテックスフリー手袋抽出液を用いた検討.日本ラテックスアレルギー研究会.
3)  近藤陽一他.ラテックスフリー手術室は可能か.日本ラテックスアレルギー研究会.
4)  岡村友紀他.術中アナフィラキシーショックを起こしたラテックスアレルギー2例.日本ラテックスアレルギー研究会会誌14(1).2010.
5)  内藤健晴.全身麻酔下に扁桃摘出術を施行したラテックスアレルギーの1症例.日本ラテックスアレルギー研究会会誌6巻:32-36.2002.
6)  宮田あかね他.帝王切開中に発症したラテックスアナフィラキシーショックの1例.症例報告 関東産婦誌50:149-154.2013.
7)  舟山幸他.子宮全摘出術開始後に血圧低下を来たしたラテックスアレルギーの1例.症例報告 関東産婦誌50:655-660.2013.
8) 日本手術医学会. 手術医療の実践ガイドライン(改訂第三版). 2019年3月31日発行.
9) WHO. Global Guidelines for the Prevention of Surgical Site Infection 2nd(2018). 2018.
10) Tanner J, Parkinson H. Double gloving to reduce surgical cross-infection. Cochrane Database Syst Rev. 2006.
11) 国公立大学附属病院感染対策協議会. 病院感染対策ガイドライン 2018年版【2020年3月増補版】.

手術用手袋-適切な選択と二重装着の重要性-

【I. 解説】適正使用の解説とポイント[全編](16分30秒)

手術用手袋の素材による特徴、手術中の手袋破損リスク、二重装着の重要性、手術用手袋装着・交換時のポイント、実際に手術用手袋を二重装着を実践されている方々のインタビューをご覧いただけます。

チャプター

【II. 装着の手順】装着方法[全編](9分52秒)

手術用手袋の装着方法であるクローズド法、オープン法、アシスト法、それぞれの装着方法をご覧いただけます。

チャプター
手術用手袋二重装着手順マニュアル

クローズド法(例)

オープン法(例)

アシスト法(例)

手術中に破損した手袋の交換方法(例)

※「手術中に破損した手袋の交換方法(例)」は「クローズド法(例)」「オープン法(例)」「アシスト法(例)」のポスターデータそれぞれに含まれています。