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4.手術用手袋の使用により引き起こされる有害反応

現在、日本国内で流通している手術用手袋は、大きく「天然ゴム製」と「合成ゴム製」に分けることができます。天然ゴムは、パラゴムの木から採取される樹液で、加工がしやすく、弾力性があり柔らかいことから、手袋の素材として広く用いられています。しかし、天然ゴムに起因するラテックスアレルギー(即時型過敏症)を主とする問題を回避するため、近年では、合成ゴム製(ポリイソプレン製、ポリクロロプレン製等)の手術用手袋を使用する施設も増加しています。手術用手袋は、医療従事者の手肌および患者の術野に直接触れるものであるため、その特徴や使用による有害反応についてよく理解しておくことが重要です。

1. ラテックスアレルギー(即時型過敏症)

ラテックスアレルギーは、天然ゴム製の手術用手袋を用いた場合、手袋を着用する医療従事者、手術を受ける患者の双方に引き起こされる危険性があります。天然ゴムに含まれるタンパク質がアレルゲンとなり、感作(症状の有無にかかわらず血液検査または皮膚テストが陽性)が成立します。すでに感作された一部の人においては、天然ゴム製品への曝露が非常に低いレベルでもアレルギー反応が誘発される他、クリやバナナなどラテックス蛋白と類似した抗原構造を有する食品に対する交差反応(ラテックス・フルーツ症候群)を引き起こす危険性がある1)ため、注意が必要です。
ラテックスアレルギーの症状としては、皮膚の瘙痒感や紅斑、蕁麻疹、眼の刺激、喉の痒み等の他、気管支喘息といった呼吸器系の反応を伴うことがあります。重篤な場合は、アナフィラキシーショックにも進展し、呼吸困難、血圧低下がもたらされます。麻酔中、手術中に患者がショックを起こした事例も報告されています2~7)

2. 接触皮膚炎

2-1 アレルギー性接触皮膚炎(遅延型過敏症)

アレルギー性接触皮膚炎は、手袋の着用時、手袋の製造工程で添加された低分子量の化学物質に曝露されることによりもたらされます。アレルギー性接触皮膚炎の炎症は通常、接触してから24~48時間後に始まり、症状としては、皮膚表面が赤く浮き出し、ヒリヒリ感や水平状の割れ目等がみられ、浸潤性の水疱に進展する場合もあります。具体的には近年、加硫促進剤によるアレルギー性接触皮膚炎が問題となっています。
一般的にゴム製品の製造工程では、弾性・耐熱性・耐疲労特性を持たせるために加硫を行いますが、加硫には時間がかかるため、加硫時間の短縮とゴム製品の物性の安定化を得ることを目的に用いられるのが加硫促進剤で、多くの手術用手袋の製造工程で添加されています。代表的な加硫促進剤としては、チウラム系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、メルカプト系化合物がありますが、中でも日本人に多いアレルギーの原因とされているチウラム系化合物によるアレルギー性接触皮膚炎が近年上昇傾向にあり、注意が必要です8,9)
「加硫促進剤フリー」の手術用手袋も市販されていますが、「製造工程で加硫促進剤を使用しているが最終製品から検出されなかった手袋」、「製造工程で一切、加硫促進剤を使用しない手袋」の両方が含まれています。つまり、加硫促進剤が検出されない手袋でも、微量の同剤が残っている可能性があります。実際に、このような手袋でアレルギー性接触皮膚炎を発症した例が報告されています10)
なお、アレルギー性接触皮膚炎の原因は加硫促進剤のみではないため、手指に何らかの異常が発生した場合には、早期に医師の診断を受け、その原因を特定することが重要です。

※硫黄による架橋(鎖状高分子の分子間に橋を架けたような結合をつくること)を「加硫」と言う。

2-2 刺激性接触皮膚炎

刺激性接触皮膚炎は、アレルギー反応ではなく、手袋の着用による皮膚の閉塞や刺激によりもたらされます。症状としては、皮膚表層に発赤、乾燥、鱗屑、痒み等を伴います。

知っておきたい!パウダーがもたらす悪影響

【医療従事者への影響】
天然ゴム製の手袋には、着用をスムーズにするため、パウダーが塗布されている場合があります。パウダーの原料であるコーンスターチ自体は天然添加物でアレルゲンではないため、免疫機構には関与しません。しかし、パウダーはラテックス抗原を容易に吸着する(天然ゴム由来の水溶性タンパク質のキャリアとなる)ため、パウダーの手指皮膚への接触や、手袋を外したときに空気中に浮遊するエアロゾル化したラテックス抗原の吸入により、アレルギーを引き起こす危険性があります。また、パウダーは手指皮膚の擦過・乾燥を引き起こし、刺激性接触皮膚炎の原因ともなります11)。その他、パウダー付手術用手袋は着用した後、手袋表面のパウダーを滅菌水で十分に洗い流してから使用する必要があるため、手間や時間、コストの観点からもデメリットがあります12)

【患者への影響】
パウダー付手術用手袋は、使用前の洗浄が不十分な場合、パウダーは取り除かれないばかりか、逆に残留したパウダーを強固に固まらせてしまうため、患者が異物反応を起こしやすくなるともいわれており、重篤な場合には、虫垂炎の患者が虫垂切除後にスターチ腹膜炎(開腹手術時に腹腔内で使用した手袋のパウダーに対する過敏反応)を起こした事例が報告されています13)。英国やドイツでは、10年以上前からパウダー付手術用手袋の使用が禁止されていますが14)、日本においては依然として規制がないため、スターチ腹膜炎を完全に予防するためには、パウダーフリーの手術用手袋を積極的に選択することが重要です。

  1. 日本ラテックスアレルギー研究会・ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン作成委員会.ラテックスアレルギー 安全対策ガイドライン 2013.協和企画.
  2. 小宮明子他.ラテックスによるアナフィラキシー:ラテックスフリー手袋抽出液を用いた検討.日本ラテックスアレルギー研究会.
  3. 近藤陽一他.ラテックスフリー手術室は可能か.日本ラテックスアレルギー研究会.
  4. 岡村友紀他.術中アナフィラキシーショックを起こしたラテックスアレルギー2例.日本ラテックスアレルギー研究会会誌14(1). 2010.
  5. 内藤健晴.全身麻酔下に扁桃摘出術を施行したラテックスアレルギーの1症例.日本ラテックスアレルギー研究会会誌6巻:32-36. 2002.
  6. 宮田あかね他.帝王切開中に発症したラテックスアナフィラキシーショックの1例.症例報告 関東産婦誌50:149-154.2013.
  7. 舟山幸他.子宮全摘出術開始後に血圧低下を来たしたラテックスアレルギーの1例.症例報告 関東産婦誌50:655-660.2013.
  8. 日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会. 有益情報.Japanese Standard allergens 2008. http://www.jsdacd.org/html/allergen.html
  9. 森田雄介他.Japanese standard allergen seriesにおけるゴム関連アレルゲンmix陽性21例の臨床的検討.J Environ Dermatol Cutan Allergol,8(3):167-174.2014.
  10. 日経メディカル.リポート 製造工程で用いられる添加物でアレルギー性接触皮膚炎 ラテックスフリー手袋で手荒れ? 原因となる加硫促進剤を含まない手袋の実用化進む.2014年8月26日配信.
  11. 岡田淳子.手袋.感染対策ICTジャーナル Vol.4 No.3 2009. 感染対策vs PPE 個人防護具のセオリーとTPO. ヴァンメディカル.
  12. 日本グローブ工業会カタログ(第35回 日本手術医学会総会 配布資料)
  13. 加藤恭郎他.長期経過を観察しえた虫垂炎術後スターチ腹膜炎の1例.日本消化器外科学会雑誌,44(6):745-751.2011.
  14. Richard F, William B, Dean K, et al. Dangers of Cornstarch Powder on Medical Gloves -Seeking a Solution-.Annals of Plastic Surgery,63(1):111-115.2009.