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1.手洗い剤(石けん)の細菌汚染について

固形石けんは、液体石けんに比べて、使用中に細菌汚染する頻度が高いとされています1)。しかし、液体石けんであっても、細菌汚染が起こり得る1,2, 4-11)ので注意が必要です。

石けんが細菌汚染を受ける要因は、容器の洗浄不足、濃厚原液を希釈調製する際の水の汚染、石けん液の継ぎ足しおよび詰め替えなどがあります4,6,7,9)

細菌で汚染された石けんを用いて手洗いしても手指に汚染細菌は移行しない3)という研究報告がある一方で、細菌(セラチア・マルセッセンス)で汚染された石けん液あるいは石けん液ボトル(表面が汚染されたボトル)が医療関連感染のアウトブレークにつながった可能性を示唆する論文が世界の医療機関から報告されています2,7,8,10,11)

これらのことから、医療施設で使用する手洗い剤(石けんは)は医療関連感染汚染を未然に防止するために、希釈などの調製が必要ない原液タイプで、容器は再利用しないディスポーザブルの製品を選択することが勧められます。さらに、容器に空気が入らないタイプ、容器に触れることなく薬液を吐出することができるセンサー式ディスペンサーで使用するのが理想的です。

なお、ボトルやディスペンサーの表面が汚染されていることがあるため、手指衛生のあとでそれらには触れないようにするなどの注意が必要です。

  1. McBride ME: Microbial Flora of In-Use Soap Products(使用中の石けん製品に存在する細菌).Applied and Environental Microbiology,48(2):338-341,1984
    使用中の固形石けんと液体石けんの細菌汚染について調査した。石けんの使用場所は、微生物研究室の洗い場と手洗い場、皮膚科の洗い場と手洗い場とし、1週間にわたって使用した。なお、使用前の製品からは細菌は検出されなかったことを確認した。
    その結果、固形石けんの92~96%から、また、液体石けんの8%から細菌が分離された。固形石けんから分離された細菌の菌種はS.aureus(黄色ブドウ球菌)が多かった。固形石けんから分離された細菌の数は、液体石けんから分離された細菌の数より有意(p=0.005)に多かった。しかし、これらの石けん中の細菌数は手指の細菌数に比較して多いものではなく、1週間の試験期間中に細菌数が増加することもなかった。このことは石けんが病原体のキャリアーになるという証拠はないということを裏付けている。
  2. Barry MA, Crave DE, Goularte TA, Lichtenberg DA: Serratia marcescens contamination of antiseptic soap containing triclosan : implications for nosocomial infection(トリクロサンを含む抗菌性石けんの セラチア・マルセッセンス による汚染:院内感染への関与). Infect Control, 5,427-430, 1984
    外科ICUにある抗菌性石けん(1%トリクロサンが含まれているもの)を調査したところ、いくつかの抗菌性石けんのボトルがセラチア・マルセッセンスに汚染されていることがわかった。この抗菌性石けんについて、セラチア・マルセッセンス、緑膿菌、グラム陰性菌、グラム陽性菌に対する抗菌活性について調べた結果、セラチア・マルセッセンスおよび緑膿菌にほとんど殺菌活性を示さなかった。さらに比較対照とした非抗菌性石けんの殺菌活性がこの抗菌性石けんより少なくとも32倍強かった。
    汚染した抗菌性石けんに起因する院内感染は認めなかったが、セラチア・マルセッセンス感染はICUにおいて、過去、散発的に起こっており、汚染源が特定されないままであった。効果に限界のある抗菌性石けんをICUや手術室で使用すべきどうかについて疑問を持っている。
  3. Heinze JE, Yackovich F: Wasing with contaminated bar soap is unlikely to transfer bacteria(細菌汚染された固形石けんで手洗いしても細菌は伝播しない). Epiderm Inf, 101:135-142, 1988
    細菌で汚染された固形石けんで手洗いを行った後、それらの汚染細菌が手指に移行するかどうかを調べる試験を行った。用いた石けんは、抗菌剤入りの固形石けんと、抗菌剤が入っていない固形石けんとし、これらの石けんに緑膿菌と大腸菌を接種して汚染させた。接種菌量は、使用中の固形石けんについて報告されているより70倍多い4.4×105CFU/barとした。ボランティア16人にこれらの汚染石けんを用いて手洗いをしてもらい、手洗い後の手指の細菌を採取した。その結果、いずれのボランティアの手指からも菌は検出されなかった。
    以上の結果から、汚染した固形石けんで手洗いした場合でも汚染菌が手指に移行することはほとんどないということが示唆された。また、疾病防止のために石けんと流水による頻回な手洗いが支持された。
  4. 雨宮一彦,田口文章: 手洗用洗浄液の細菌汚染に関する調査.J Antibact Antifung Agents, 20(9):459-463, 1992
    備え付けの手洗用洗浄液の細菌汚染状況を把握するために、病院をはじめ各種の施設で使用されている手洗用洗浄液を採取して、各サンプル中の生菌数測定と菌種同定を行った。 手洗用洗浄液からの細菌検出率は70.7%であった。最大細菌数は4×107CFU/mL(医療関係施設では最大2×107CFU/mL)であった。菌種はグラム陰性桿菌が73.5%で最も多かった(医療関係施設ではグラム陰性菌と陽性菌が半々)。医療関係施設からは院内感染の原因菌になりうる緑膿菌が検出された。
    今回の結果から、不特定多数の人が使用する手洗用洗浄液に大量の細菌が混入していることがわかった。洗浄液の細菌汚染は、容器の洗浄不足、洗浄液の調製時に使用する水の汚染、洗浄液保存容器と作業者の手からの汚染等が考えられる。洗浄液を取り扱う上で衛生指導を行い、容器の洗浄、使用水や洗浄液の保存管理に関する細菌学的な対策が必要と考えられる。
  5. 古田太郎: 手洗い用液体洗浄剤・手指消毒剤に関する最近の話題.FRAGRANCE JOURNAL, 9:59-64, 1993
    東京・大阪のオフィスビルの洗面所にある手洗い洗浄液の組成および細菌汚染との関係について調べた。その結果、微生物汚染は合成洗剤系に多くみられ(16検体中13検体)、その多くは105CFU/mL以上の菌量であった。石けん系洗浄液では71検体中4検体に汚染がみられ、105CFU/mL以上の菌量であったのは2検体であった。1%ヤシ油カリ石けん液中ではいずれの菌も増殖できなかった。
  6. 境 美代子,杉政美雪,村藤頼子,石金恵子,北川洋子,広上真理子ほか: 病院における手洗い用洗浄液の細菌汚染調査.INFECTION CONTROL, 5(6):98-103, 1996
    富山県内の10病院のトイレ、洗面所等の手洗い用洗浄液5種類の細菌汚染状況を調査した。トイレから92検体、他場所(管理棟・検査室・薬剤部)から7検体、合計99検体中79検体(80%)に細菌汚染を認めた。高い菌分離率を示したのは固定容器液補充タイプの3洗浄液であり、使い捨てタイプの2洗浄液(5検体)からの菌分離は認めなかった。分離菌数は103CFU/dlを超えない範囲にあった。洗浄液が菌で汚染されていることは病院管理、院内感染予防の観点から憂慮すべきであり、固定容器液補充タイプよりも使い捨てタイプの洗浄液の使用が推奨される。
  7. Archibald LK, Corl A, Shah B, Schulte M, Arduino MJ, Aguero S et al.: Serratia marcescens Outbreak Associated With Extrinsic Contamination of 1% Chlorxylenol Soap.(1%クロロキシレノール配合石けんの汚染に関連したセラチア・マルセッセンスのアウトブレーク). Infect Control Hosp Epidemiol, 18:704-709, 1997
    1994年8月~1995年10月の間に、NICUで32名の小児患者にセラチア・マルセッセンス院内感染が起こった施設において、CDCによる調査(医療従事者が使用している石けん液や手洗いおよび手洗い環境の調査・細菌培養)がなされた。
    1995年1月~7月の間、医療従事者はクロロキシレノール(殺菌剤)入りの石けん液ボトルを個人携帯していた。個人携帯ボトルには石けん液を親ボトルから分注していた。この個人携帯ボトルの石けん液52検体中16検体(31%)からセラチア・マルセッセンスが検出された。洗い場からもセラチア・マルセッセンスが検出された(1箇所/13箇所)。患者、石けんの個人携帯ボトル、洗い場から検出されたセラチア・マルセッセンスのパルスフィールドゲル電気泳動によるDNAバンドパターンは同一であった。医療従事者の手指からはセラチア・マルセッセンスは検出されなかった。
    以上のことより、セラチア・マルセッセンスで汚染された石けん液が院内感染アウトブレークの一因となったと推察された。CDCは、NICU患者の処置前と処置後に手洗いを励行すること、個別石けん液ボトル携帯の廃止、壁付けディスペンサーから足踏みポンプの石けん液供給タイプへの変更を勧めた。
  8. Sartor C, Jacomo V, Duvivier C, Duvivier C, Tissot-Dupont H, Sambuc R et al.: Nosocomial Serratia marcescens Infections Associated With Extrinsic Contamination of A Liquid Nonmedicated Soap.(非薬用液体石けん液の汚染が関係したセラチア・マルセッセンスによる院内感染). Infect Control Hosp Epidemiol 21:196-199, 2000
    セラチア・マルセッセンス院内感染と汚染された非薬用液体石けん液の関連を調べるために、セラチア・マルセッセンス院内感染が発生した部門と発生しなかった部門において石けん液や石けん液ボトルポンプについて細菌培養を行った。また、医療従事者の手洗い前後の手指の細菌培養も行った。
    その結果、65個の石けん液およびポンプの細菌学的調査を行った結果、石けん液サンプルの15%(10個)、ポンプの14%(9個)からセラチア・マルセッセンスが検出された。汚染されていた石けん液サンプル10個のうち8個、汚染されていたポンプ9個のうち8個が院内感染が発生した部門のものであった。さらに手洗い後の被験者の24%(15例/63例)の手指からセラチア・マルセッセンスが検出された。手洗い後の汚染の危険性については、石けん液が汚染されていた場合は3.5倍(p=0.11)、ボトルポンプが汚染されていた場合は54倍(p<0.001)であった。ボトルポンプ汚染とセラチア・マルセッセンス院内感染は有意に関連性を認めた(p=0.006)。また、石けん液汚染とセラチア・マルセッセンス院内感染についても有意ではないものの関連性が示唆された。
    非薬用液体石けん液の汚染により医療従事者の手指を介したセラチア・マルセッセンス伝播につながったことが示唆された。このことより非薬用液体石けんの適切な使用と、アルコール手指消毒を励行するが推奨される。
  9. 辰巳俊之、長貫太郎、尾家重治、神谷晃.: 液体石けんの微生物汚染.山口医学, 52(5) : 201, 2003
    ナースステーション及び外来診察室で継ぎ足し使用されていた0.4%塩化ベンザルコニウム含有液体石けん計16検体の微生物の定量ならびに同定を行った。その結果、ナースステーションの液体石けんは10検体中8検体(80%)が、外来診察室の液体石けんは6検体中2検体(33.3%)が微生物汚染を受けていた。主な汚染菌はセラチアや緑膿菌などのブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌であった。
    頻回に継ぎ足し使用されていた液体石けんが高頻度に汚染を受けていたことから、汚染防止対策として液体石けんの継ぎ足し使用を中止した。
  10. Rabier V, Bataillon S, Jolivet-Gougeon A, Chapplain JM, Beuchee A, Betremieux P.: Hand washing soap as a source of neonatal Serratia marcescens Outbreak.(小児のセラチア・マルセッセンスによる院内感染アウトブレークの原因になった手洗い石けん). Acta Paediatre, 97(10):1381-1385, 2008
    2006年の3月から10月の間に、NICUで9例のセラチア・マルセッセンス院内感染(呼吸器系の感染)が発生した。患者から分離された菌について、パルスフィールドゲル電気泳動法でDNAを分析した。その結果、院内感染例9例のうち7例は同一株のセラチア・マルセッセンスによる感染であることが確認された。セラチア・マルセッセンスが存在している可能性のある場所、特に水場、流し台、風呂、ベッドルームおよびトイレにある石けんの細菌検査を実施したところ、非抗菌性石けん液のボトルから院内感染例と同一のセラチア・マルセッセンスが検出された。このことから、非抗菌性石けん液のボトルが感染源となった可能性が疑われた。
  11. Buffet-Batallion S, Rabier V, Betremieux P, Beuchee A, Bauer M, Pladys P, Le Gall e, Cormier M, Jolivet-Gougeon A. Outbreak of Serratia marcescens in a neonatal intensive care unit, contaminated unmedicated liquid soap and risk factors.(NICUにおけるセラチア・マルセッセンスの院内感染アウトブレーク:汚染した非薬用液体石けんとリスク因子) J Hosp Infec, 72:17-22, 2009
    2006年6月からの3ヶ月間に、5例の乳児の気管吸引物および消化管内容物から、セラチア・マルセッセンスが検出された。パルスフィールドゲル電気泳動法で調べたところ、これらのセラチア・マルセッセンスは同一株であった。NICUの環境を調べた結果、10室ある病室の1室に置いてあった非薬用石けんのボトルディスペンサーから同じ株のセラチア・マルセッセンスが検出された。
    そこでディスペンサーをすべてエアーレス(空気が入らない)タイプのディスペンサーに置き換えた。しかしその後(2006年11月)においてもセラチア・マルセッセンス感染例が1例発生した。アルコールによる手指衛生を徹底したところ、その後はセラチア・マルセッセンス感染のアウトブレークはなくなった。5例のうち3例はセラチア・マルセッセンスに汚染された非薬用液体石けんが置いてあった病室の患者であった。リスク因子調査の結果、セラチア・マルセッセンスで汚染された非薬用液体石けんがアウトブレークに関与していたと考えられた。